第122話

 「ふっ!」


 右往左往に高速移動し、間合いを計りながら戦う魅夜。鬼組の中でも素早い戦闘を得意とする魅夜の戦い方は、右近と左近にも通用するのだろう。動かずに対応するだけに専念にしている。

 だが苛立っているのか。左近は魅夜の行動を観察しつつも、反撃の機会を伺っている。それに対して右近は余裕なのか、未だに口角を上げながら片手間に魅夜の攻撃を防いでいる。


 「(舐められてる。完全にボクを舐めてる)」


 そう、通用すると言っても「動かない」と自ら行動を絞っているからだ。普通に戦っていれば、すぐに戦いは終わっているかもしれない。そう思わせる程、右近と左近は魅夜の攻撃をいとも容易く防いでいる。

 その様子に奥歯を噛み締める魅夜は、フラストレーションを闘争心に変えて腕を振るう。だがしかし、その腕は右近に掴み取られてしまった。


 「――っ!?」

 「満足したかしら?私と左近には、その程度の攻撃は通用しない。そろそろ本気を出したら?あぁそれとも、実はもう本気を出してしまっているのかしら?そしたらごめんなさい。配慮が足りなかったわ」

 「くっ、調子に、乗るなっっ!!!」


 掴み取られた腕はそのままで、魅夜は左半身を勢い良く捻って攻撃を繰り出した。首を傾けて回避した右近だったが、その拍子に拘束していた魅夜の腕を離してしまった。

 

 「(拘束は解けた。いけるっ)――はぁあっ!!」

 

 拘束が解けた事を理解したと同時に、魅夜は自身の中にある最高速で拳を放った。凄まじい勢いで右近の眼前に迫った拳は、風圧と共に殺気を覆っている。その殺気を感じた右近は、目を細めて防御した。

 手応えを感じた魅夜だったが、衝撃で撒き上がった砂埃が晴れると同時に目を見開いた。そこには、無傷で受け止める右近の姿があった。ニヤリと笑みを浮かべ、その表情からは余裕だという事が一目で分かる。


 「分かったかしら?貴女と私達の間にある力の差、これがその証拠よ。身を以って理解したのだから、これ以上の戦闘は無意味よね?……左近」

 「はい、右近お姉様」

 「首から上は残しなさい。首から下は、どうなっても構わないわ」

 「はい。さようなら、猫」


 目を見開いた左近からは、必ず射殺すと捉えている殺気が伝わる。伸ばされようとしている手刀は、凄まじい速度で魅夜の体を貫くだろう。それは揺るがない、避ける事の出来ない死だ。

 それを悟った瞬間、ドクンと大きく魅夜の体は脈を打ったのである。本能が、野生が、魅夜の魂が……死という現実を拒絶した。


 「妖力――解放っ」

 「「ッッ!?」」

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