第108話

 ――オレ一人じゃ勝てないかもしれないな。


 戯鬼の事を教えた際の焔鬼の言葉。それを未だに覚えている狂鬼は、その言葉の真意を確かめたいと思っていた。憧れていた焔鬼が負ける事は有り得ないと思いつつも、心の何処かで戯鬼には勝てないままで居て欲しいと考えていた。

 

 「……ここでお前を倒せば、もしかしたらオレでもあの人に勝てるかもしれねぇな」


 そう思ってしまうのだ。愚かな考えだっていう事は、狂鬼にだって分かっている。だがしかし、一度超えたいと願えば誰だって考える事だ。超えたいと思いつつも、心の何処かで負けて欲しくないと願うから憧れへと変わる。

 だが、この争いを始めたのは紛れもなく焔鬼。それは狂鬼だけではなく、鬼組の面々も理解している。許せないと思いつつも、何故?と理由を聞きたがっている者達が居る。

 

 「まぁ理由は、後で聞けば良い。今は……目の前の敵を倒す事だけに集中する!」

 「ワタシを倒ス?オマエが……ワタシを倒ス?……フフフ、出来る物ならやってみロ!!狂鬼ッッ!!!」

 「言ったはずだぞ、戯鬼。テメェはオレの力を、何一つ知らねぇって」


 大振りに振るわれた戯鬼の攻撃を回避した狂鬼は、真上から大斧を振り下ろした。常人では防ぐ事も、回避する事も出来ないであろう速度。だがしかし、容赦なく振るわれた大斧は戯鬼に防がれたのである。


 「っ!?」

 「確かにワタシはオマエの力を知らなイ。けどネ、オマエもワタシの力を知らなイ」

 「ぐっ……腕力だけで跳ね除けやがった」

 「見せてあげるヨ、狂鬼。ワタシも本気で戦ってあげるヨ」

 「ペッ……テメェ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る