第109話

 二つの強大な妖力が、激しく衝突している。焔鬼に焚き付けられた者同士、片や「憧れ」を抱いた者と片や「忠誠」を抱いた者。どちらが勝つか負けるか、強者か弱者かなんてのは、最後まで立っていた者を見るまでは分からないだろう。

 だがしかし、焔鬼は焚き付けたのかもしれない。まるで子の成長を見守る親のように、成長して強くなった瞬間を見たいと願っている。遥か昔から知っている間柄であれば、そんな感情を抱いても不思議ではない。

 そして狂鬼も、戯鬼も、まるで子供の延長線のような存在だ。認められたいと願った者同士、同じ目的を果たすべく為に力を振るっている。


 「テメェはここで、オレが倒すっ!!」

 「ワタシがオマエを倒ス!!!」


 狂鬼は複数の武器を。戯鬼は巨大な両腕を。

 衝突し合う二人の勢いは激しくなり、町の一部を吹き飛ばしてしまっている。そんな様子を遠くから見つめる町の住人は静かに、そして感情を込められた眼差しを送っていた。

 過去に敵として現れた狂鬼でさえも、迎えてしまうお人好しの町。だがしかし、そんな町だからこそ、人ではない者達と共に暮らしているのだろう。


 『鬼の姉ちゃん……頑張れっっ!!』


 たった二年。されど二年。過ごした時間は短くとも、この町はそれでも狂鬼を受け入れた。かつて敵だった黒騎士達を受け入れた。そんな事実は変わる事はない。

 町の人間も、鬼組の妖怪も……今の狂鬼にとって、無意識に想ってしまう存在となった。


 「(ははは……たった二年だぞ?そんなんでオレを応援するのかよ……)」

 「死ネ、狂鬼ッ!!」

 「(でも、そうだよなぁ……こんな所で負けてるようじゃ、あんたにも挑む事も出来ないし、そもそも勝てねぇって自分で言ってるようなもんだよなぁ!)」

 「――ッッ!?(コイツ……ワタシの攻撃を素手デ!?)」

 

 武器を持っていない片手で狂鬼は、戯鬼の腕を掴み取って受け止めた。そして口角を上げながら、ニヤリと戯鬼を見上げて告げたのである。


 「――我、戦狂う者なり。纏い……反転」


 その瞬間、狂鬼は笑みを浮かべたまま闇に覆われた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る