第107話

 ――焔鬼がまだ黒騎士として健在だった頃である。


 黒騎士見習いとして焔鬼の後を着いていた時、魔境で監禁処分とされた者達を収容する場所を案内されていた。見習いである狂鬼では力不足という事もあり、蒼鬼が焔鬼の護衛として少し後ろから周囲を警戒する。

 当時の黒騎士の中で、焔鬼と蒼鬼の力は拮抗していた。未だ差が生じる前ではあっても、蒼鬼は密かに焔鬼に勝つ事は無理だと考えていたのだろう。焔鬼の命令に従い、背後の護衛を務めていた。


 「ここが牢屋だ。罪人や裏切り者を収容するのが基本だが、危険認定された者達も収容されている。お前も黒騎士になったら看守を務めるかもしれないから、どういう奴が居るのか覚えていても問題は無いだろう」

 「見習いに看守をやらせるのか?それって無用心じゃないのか?」

 「今のオレと蒼鬼みたいに二人で行動するから大丈夫だ。この場所では、二人行動が原則となってるしな。見習いでも出来る」


 罪人や危険認定された者達が収容されているのであれば、大人しく監禁されている者は少ないだろう。そう考えていた狂鬼は、周囲を警戒するようにして視線を巡らせる。

 その時、一番奥の牢屋が目に入った。そこで壁に背中を預け……いや、鎖や足枷を取り付けられている者の姿があった。良く見ると、そこには項垂れたように座り込む誰かが居た。


 「……ここにも、大人しい奴が居るみたいだな。あいつも、何かしたのか?兄ちゃん」

 

 狂鬼は無邪気な子供のように指を差し、少し前を進もうとしていた焔鬼に問い掛ける。振り向いた焔鬼が差された指の先を見ると、そこに収容されている者の姿を見つつ狂鬼に告げる。

 その事を狂鬼は、未だに覚えている。


 「――奴は強大な力を暴走させた奴だ。今は意識を失っているが、起きればまた暴走するかもしれない。もしまともに戦えば、倒すのは難しいだろうな」

 「兄ちゃんでもか?」

 「オレにも出来ない事はある。オレや他の黒騎士全員で収容させる事が出来た奴だ。……そうだな。お前が黒騎士になったら、ちゃんと詳しく奴の事を教えてやるよ」

 「……」

 「まぁもしまた暴走すれば、

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