第88話

 八方に展開された札が爆発し、杏嘉の視界は爆風に包まれた。それを見つめる桜鬼は、数枚の札を再び袖から出し、爆風に包まれている杏嘉の様子を伺う。

 どんなに強者であっても、爆発を至近距離で受ければ無傷では済まない。だがしかし、強者であれば何らかの方法で防ぐ事は容易だと判断したのだろう。桜鬼は目を細め、次の攻撃の準備に移っている。


 「(私の妖艶起爆陣は、至近距離で起爆させる起爆符の包囲網。回避したとしても、私が操れば速力を倍にして追尾させられる。これで倒せるなら、兄様が一目を置く訳がない。――来るなら来なさい。私が正面から捻じ伏せてみせる)」

 「何処を見てやがんだ?テメェは」

 「っ!?」


 爆風の中に居る杏嘉を見据えていた桜鬼だったが、その声は真上から聞こえてハッとする。細めていた目を見開きながら、桜鬼は空中から落下してくる杏嘉を見据える。


 「あの程度の爆発で、アタイを殺れると思うな!!」

 「っ、空中に逃げていた?ですが、空中なら避ける術はありませんっ」


 桜鬼はもう八枚の札を展開し、速力で操って空中に居る杏嘉へ飛ばした。追尾性能が付与された起爆符は、空中で身動きが取れずに居る杏嘉の正面に五芒星に展開された。

 正面に展開されれば、同時に視界を塞がれる杏嘉。だがしかし、杏嘉は落下した姿勢のまま拳を溜めて構えた。


 「言ったろ。その程度でアタイは殺れねぇって!!――ふんっ!!」

 「(足場の無い空中で空気を蹴って避けるつもりか)」


 空気を蹴って方向転換した杏嘉に対し、起爆符は五芒星の形を解いて追尾していく。指先で操る桜鬼は、杏嘉の周囲に包囲網を展開させるように手を開く。

 杏嘉の前に再び起爆符が展開され、次は杏嘉との距離を縮めた位置で五芒星が展開された。そしてもう片方の手を引くと、残りの三枚の起爆符が杏嘉の背後に回り込んだ。


 「っ!(背後にも?)」

 「これで逃げられるものなら、逃げてみなさい!私を侮辱した事、後悔するが良い!」


 完全に包囲したと悟った桜鬼は、開いていた手を思い切り閉じた。その瞬間、糸に引かれるようにして起爆符は杏嘉の体に吸い付いた。剥がそうとする杏嘉だったが、時は既に遅い。


 「――かつッ!」


 目を見開いて唱えた桜鬼に反応し、起爆符は再び杏嘉の爆発に包んだ。ゼロ距離で爆破された杏嘉は、そのまま地面へ爆風を纏いながら落下した。

 ドサッと鈍い音が聞いた桜鬼は、起爆符をもう一枚出現させる。


 「これで死になさい」


 そう告げた桜鬼は、地面へ落下したばかりの杏嘉へ追い討ちを放ったのである。

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