第87話
――綾の妖力が弱まっている。
目の前に現れた杏嘉の様子を見れば、何が遭ったのかは一目瞭然だ。鬼組に入ったあの日から、今まで共に行動していた杏嘉だ。きっと思う所は色々あるだろう。
オレを睨み付ける杏嘉の視線は、それを物語っている。だがしかし、オレと杏嘉の間には、立ち塞がる桜鬼の姿がある。今の黒騎士を束ねているのは、オレの前に目の前に立つ桜鬼だという事を杏嘉は知らないだろう。
「黒騎士風情が、アタイの邪魔をするな」
「あら、誘いを断られてしまいましたわ。せっかく素晴らしい術をお見せしようと思いましたのに」
「テメェに用は無ぇ。アタイが用があるのは、そこに居る
「……あ?」
ドスの利いた声を漏らす桜鬼から、何かが切れた音が聞こえた気がした。ふるふると小刻みに肩が震えているように見えるが、杏嘉の妖力を浴びていたとしても恐れる程ではないはず。
もしくは武者震いをしているのかもしれないが、本気を出せば周辺の地形を変える恐れがある。あまりこちらの事を巻き込まないで欲しい物だが、どうやらそれは無理なようだ。
気付かないうちに少し場所を移動しておこう。
「今、聞き捨てならない事を聞いたような気がしますが……聞き間違いですわよね?」
「あぁ?耳が遠いのか。ハッ、ブスじゃなくてババァだったかよ」
――プッチン。
「……」
「何だよ、図星を突かれて返す言葉も無いってか?分かったら、そこをさっさと退けよブス」
「……せぇな」
「?」
「――ごちゃごちゃうるせぇな、妖怪風情が。やっぱり踊るのは無しだ。お前は私が、なぶり殺してやるよ!」
そう声を荒げた桜鬼は、展開していた六枚の札を倍に増やした。両手で印を作った桜鬼は、杏嘉の事を見据えて言葉を続けた。
「私の術を喰らわせてやる、光栄に思えよ妖怪ッ!!」
「やれるもんならやってみろ」
挑発の言葉を受けた桜鬼は、ニヤリと笑みを浮かべる。印を完成させた瞬間、展開された札が杏嘉を囲うように展開していく。やがて球体となって覆われ、杏嘉は札を見据えて構えを取った。
「私の術、とくと味わいなさい。――
その言葉と同時に球体は爆発し、杏嘉は炎に包まれた。
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