第64話
杏嘉が豹禍と対峙している頃、力任せに杏嘉との距離を離れさせられた綾。顔に貼られた札が風に揺られているが、表情が全て見える事はない。直立したまま動く様子のない相手だが、先程の勢いで負かされたのを理解している。
「くっ……よくもワシに恥を掻かせてくれたのう。お前さん、潰すぞ」
『ワタシを潰す?それは無理な話ネ。オマエはここで死ぬのネ』
袖口に両手を隠し、微動だにしない相手を綾は見据える。咄嗟の事で見えなかったが、綾は目の前に居る相手の腕が微かに見えていた。
頭を鷲掴みにされた時、あの袖に隠れていた腕が見えたのだ。それは人間の腕ではなく、比喩するのであれば化け物という言葉が一致する腕。それが見えていたが、あの力はほんの一部でしかないだろう。
『どうしたのかネ?ワタシの顔に何か付いてるカ?』
「その札、それを剥がせばお前さんは死ぬ。と有難いんじゃがのう」
『自分で試してみると良いネ。まぁ、出来ればの話だけド』
ニヤリと笑みを浮かべた瞬間、綾は背中に寒気が走った。その表情から殺気を……や、目の前に居る相手自体から殺気を感じた。殺気自体が歩いているのかと錯覚する程、深く濃い殺気を感じた綾は目を見開く。
その殺気を払拭したがった綾は、開いていた相手との距離を詰める為に前に出た。接近する綾を見据えたまま、相手は動く様子もなく眺めている。その様子に苛立ったのか、綾は眉根を寄せながら相手の視界から咄嗟に消えるように移動した。
「妖術……
そう告げた時には、既に建物と相手の周囲に張り巡らせた包囲網が出来上がっていた。一瞬で作り上げた包囲網を眺めながら、再び同じ場所に着地した綾を真っ直ぐに捉える。
『面白い技ネ。確かにこれでは迂闊に動けなイ。けれどネ……オマエは、ワタシの力を計り違えているヨ』
「なにを言うとる?……――ごふっ!?」
その言葉を聞いた途端だった。ドクンと大きく脈が跳ねた瞬間、綾は血反吐を吐きながら膝を付いた。睨み付ける綾に対し、表情を変えぬままに告げられた。
『オマエは、ワタシと対峙した時点で敗北していル』
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