第38話

 幽楽町に黒騎士達が各所に散らばり、それぞれの者達と対峙している頃だろう。そろそろ何かしらの動きがあってもおかしくないのだが、耳に流れて来るのはどれも餓鬼と黒騎士達が何処まで侵攻したかという点のみ。

 餓鬼への被害が最も大きいようだが、それは予想の範囲内でしかない事。むしろ、それ以上の事が起きない事への違和感を覚え始めている。


 「兄様、どうかなさいましたか?」

 「……いや、考え事をしていただけだ。サクラ、結界の効果はどうだ?」

 「はい、やはり現世の者達への効果は絶大のようです。報告によれば、人間達よりも鬼組と名乗る者達で苦戦を強いられているようです」

 「鬼組、か」

 「如何なさいますか?もし宜しければ、何人か編成して向かわせますが」

 「その必要は無いだろう。気配を辿って分かる事だが、オレが言った者達への対処は既に済んでいるようだしな。後は奴らに任せる」

 「左様で御座いますか。ですがもし、兄様のお手を煩わせるような事があれば、私の判断で行動しても構いませんか?」


 サクラ……桜鬼おうきはそう言いながら微笑み、オレへ視線を向けて問い掛けた。その表情から読める事は、赤黒く染まっている双眸の輝きという相乗効果で生まれた闇。

 黒騎士という存在が餓鬼よりも優れ、そして負の感情の集合体と言っても過言ではない者達だ。その者達の中心に立ち、それを纏め上げているのが彼女。つまり現状、最も優れた黒騎士という立ち位置に居るという事。


 「あまり手荒な事はするなよ?奴らは一応、オレ達の味方だ」

 「えぇ、兄様。それは心得ております。ですがもし、そのような事があれば……私は立場上、彼等に罰を与えなくてはなりません。死よりも耐え難い罰を、ね」


 二人きりの時はサクラと呼べと言われているが、その名称とは異なる程に彼女は歪んでいる。個人的に最も敵に回したくない内の一人と言えるだろう。


 「ほどほどにな」

 「はい、ほどほどにしておきます。ふふ♪」

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