第37話

 幽楽町に突如として襲い掛かってきた餓鬼の群れ。それは人々を追い、喰らい、求めていた。餓鬼の間では人間を喰らえば、より強大な力を得る事が出来ると言われている。

 そしてそれが、陰陽師や半妖という存在であれば、さらにその倍以上の力を得る事が出来る。それ故に餓鬼達は、無造作に人間を狙って襲い掛かっていた。


 『我々も陰陽堂に属する者、そう簡単に負けはせんぞ!餓鬼共っ』


 それに対抗する形で陣を組み、餓鬼達を足止めしているのは陰陽堂に属している人間だ。普通の人間よりも妖力はあるが、それでも妖怪や半妖には遠く及ばない。だがしかし、餓鬼程度の存在であれば足止めは容易な事である。

 だが餓鬼を排除しようとした瞬間だった。天空に展開された五芒星が目に入った。それはそれが目に入った瞬間、陰陽師達が視界がグラリと揺れていた。そして餓鬼達に放ったはずの術は、全て否定されたかのようにその場で弾け飛んだ。

 

 『ば、馬鹿なっ!?何故、我々の術が餓鬼に通用しない』

 『コノ術、黒騎士様ノ……我等ノ王ノ意志ッ』


 内側から溢れる力に歓喜した餓鬼は、ニタァと不気味な笑みを浮かべてそう言った。腕を振るい落とし、崩れていく人間の事を潰していく。圧倒的な力の差を実感した餓鬼達は、感化されたように前進した。

 だが、それを溜息混じりに眺めている人物が居た。その者は大斧を担ぎ、ビルの上から餓鬼達の様子を観察していた。やがて目を細め、さらに深い溜息を吐きながら立ち上がって言った。


 「はぁ……そろそろ行かなきゃ駄目だなあれは。ったく、人助けとかオレの性に合わないってのによぉ」


 そう言いながら、手斧を片手に出現させる。大斧と手斧を両手の持ち、人間を追い討ちしようとしている餓鬼を狙って手斧を投げ込んだ。片目に直撃した瞬間、痛みを抑えながら餓鬼は投擲とうてきした相手を探そうと顔を動かす。

 だが見つけた瞬間、その者の手によって真上から大斧を叩き込まれるのであった。


 「陣が展開されたって事は、あいつも居るって事だよなぁ。胸糞悪ぃ話だが、ここはオレが加勢してやるよ」

 『ッ……!?』

 「オレの前に立つって事は、その意味を分かってるよなぁ?餓鬼共」

 『キ、狂鬼様ッ……――グ、アァァァァァァッッッ!!!』

 

 その名を呼んだ餓鬼を一蹴し、その上に立った狂鬼は吐き捨てるように言った。


 「目障りだ。とっとと失せろ」

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