第36話

 「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 急がなければならない。自分が見た物を皆に伝える為、ボクは森の木々の中を一目散に駆け抜けている。敵をハヤテに任せてしまった事が心残りではあるが、それでも負傷しながらもボクを行かせてくれたのだ。

 そのハヤテの行為を無駄にする訳にはいかない。早く皆に伝えて、ハヤテの援護に戻らないといけない。その為には、多少の無理をしなければならないだろう。


 「……っ」

 「そんなに急いで、何処に行くのかしら?子猫さん」

 「――!?」


 咄嗟に囁かれた声。その声に反応したボクは、真上へと空中で横蹴りを放った。だがそれは回避され、ボクは近くの地面に着地をする事になった。足止めを喰らっている場合ではないのにと思いつつ、声の主を探して見据えた。

 そこには、木々の枝に立つ二人の鬼が立っていた。


 「ねぇ、左近。この子、確かあの方から聞いていた内の一人よね?」

 「えぇ、右近お姉様。聞いていた内の一人に間違い無いでしょう」

 「どうする?殺す?殺しちゃう?」

 「はい、お姉様。是非、そうしましょう」


 双子だろうか?左右非対称のように生えた角と左右反転したかのような瞳。白装束に身を包んだその鬼は、ボクを見下ろしてニヤリと笑みを浮かべた。やがて同時に指を差して、その双子の鬼は告げた。


 「喜びなさい。私達は焔鬼様が配下、右近――」

 「左近と申します」

 「――私達が貴女を殺してあげる。そうね、まず手始めに」

 「腕と足を片方ずつ、切り落として差し上げます」


 そう告げた瞬間、ボクの視界から彼女達の姿が消えた。いや、瞬きをする間もなく、両側に移動していた。

 ボクは素早く後方へと身を引き、彼女達の攻撃を回避する事は回避出来た。目の前が粉塵に包まれ、彼女達の姿を確認する事が出来ない。だが次の瞬間、その粉塵の中から一枚の札が足元にユラリと落ちてきた。


 「……これはっ」


 その札には、『爆』と記されていた。ボクの視界は、爆発音と共に黒煙こくえんに包まれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る