第27話

 ハヤテは目を見開いて動揺していた。同行していた魅夜も、視界の中にある光景が記憶という映像と重なっていたからだ。疑わしく、だけど鮮明に、そして確実に、曖昧に。

 

 「あれ、は……っ」

 「そんな、はずない。だって……あの人は確かに……っ?」

 

 焦ったような態度を見せる魅夜に対し、ハヤテは警戒心を持ったまま立ち尽くしていた。呆けてしまっていたと言っても過言ではないが、ハヤテにはそれ程の事だったのを数秒後に理解した。

 

 「ハヤテ、大丈夫?」

 「あ、あぁ……大丈夫っスよ。けど、これは」

 「うん。有り得ないと思いたい、けど……」

 

 ハヤテはその場で膝を折り、口を塞ぎながら思考を働かせる。目には動揺が浮かんでおり、上手く思考が纏まらないという空気に包まれている。そして隣に居る魅夜も、目の前に見える光景が奇妙である事を理解していた。

 何故ならば、二人が見ている光景の中に答えはあった。それが見えてしまったが故の動揺であり、それを見てしまったが故の混乱だった。


 「とりあえず、様子を伺う他……無いっスよね」

 「そうだと思うけど、ここから見ててバレたりしないかな?」

 「仮にあれがあの人だった場合、何処に居ても隠し通せる可能性は低い。けど、全くの別人であるなら……」

 『バレたりしねぇ可能性も出てくる、ってか?お気楽なこったなぁ、こっちの奴はよ』

 「「――っ!?」」


 二人の言葉に割り込む形で聞こえた声に反応し、二人はハッとして声の聞こえる方へと向きながら距離を取った。丁度二人の真後ろから聞こえた声の主は、さらに後ろへと瞬時に移動して身構えている二人に振り返りながら笑みを浮かべて言った。


 『へぇ、良い反応はしてるじゃねぇの。瞬発力と判断力は申し分は無ぇか。後は、オレの相手に務まるかどうかだな』

 「魅夜、ここの事を他の奴に知らせてくれっス」

 「ハヤテは?」

 「出来るだけ時間を稼ぐんで……頼むっスよ」

 「っ……うん、分かった。気を付けて」


 短く交わした言葉の末、魅夜は身を翻して駆け出した。その様子を眺めていた彼は、口笛を吹いて感心したような表情を浮かべた。


 『良いのか?お前一人で、オレの相手が務まるとでも?』

 「そんなの、やってみなきゃ分からないっスよ」

 『(他の奴らならともかく、一人でも逃がすとペナルティだしなぁ)』

 「……(何を考えてる?来ないなら、こっちからっ)」

 『あぁ、そう焦るなって。ちゃんと相手してやっから――あの娘を捕まえてから、な』


 ニヤリと笑みを浮かべた瞬間、ハヤテの目の前から姿が消失した。目を見開いたハヤテは、強張った表情を浮かべつつ魅夜の気配を追いながら駆け出した。 

 ハヤテの目の前から移動した彼は、木々を伝って移動していた魅夜に追い着いて言うのであった。


 『悪ぃな、一人も逃がす訳には行かねぇ』

 「っ!?」

 

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