第26話

 餓鬼対策の為に開いた会議中の出来事だった。圧し掛かるような殺気が、幽楽町全体を覆い尽くしている気がした。幽楽町の重力だけが、突然と重くなったと言えば良いだろうか。

 それは恐らく、俺達と同じような存在が出現した証でもある。それは妖力と呼ばれる類の物で、常人には寒気や頭痛、最悪の場合は瘴気として命を落とす可能性だってある物だ。


 「……代理、これは町へ向かった方が良いのではないか?」

 「蒼鬼……そうっスね。鬼組、町へ行くぞ。人間を護れ、以上だ」

 『ハッ!!』


 俺がそう告げた瞬間、目の前に居た幹部と組員達が姿を消した。妖気が遠くなって行くを感じつつ、俺も立ち上がって両脇に置いていた二本の刀を手に持つ。

 幽楽町に被害が出るのは避けられないにしても、そこに住む人々は助けられるだけ助けて見せる。それが、俺がこの組をあの人の代わりに背負う務めだろう。


 「ハヤテ……」

 「魅夜っスか。こんな所で何してるんスか?とっくに皆、町へ向かったっスよ」

 「知ってる。ハヤテを待ってただけ」

 「俺を?何か用事でもあったんスか?」

 

 他の幹部は既に町へ向かっているし、組員の半数は屋敷を護る為に残っている。人間を護りながら戦うというのは、俺達は慣れているかもしれないが組員には難しいだろう。

 そんな事を考えている間にも、町では被害が出始めているかもしれない。気配を読む限り、餓鬼と数人の強い存在が居る事は分かっている。相当大きい規模で出現したと分かるのだが、どうしていきなり出現したのだろうか。

 その疑問の答えを考えて、移動しようとしていた瞬間だった。俺の行動を制して、魅夜が目を細めて言うのであった。


 「――っ、ねぇハヤテ……この気配に見覚えは無い?」

 「あ?どの気配っスか?」

 「山の方!」


 山の方……?


 別に他の気配と何も変わらないような気もしないが、確かにその場所には妖気が濃いようにも感じた。だがそれは町の方にも感じている気配だったが、神経を研ぎ澄ませて感じた気配に見覚えがあった。


 「っ!?」

 「ハヤテ!」


 咄嗟に出てしまった行動だったが、俺は屋敷から飛び出して山へ向かった。そこは二年前に鬼門を破壊し、あの出来事が遭った場所である事を良く覚えている。忘れる事の無い記憶の中、微かに感じた一つの気配に肌が焼けるように熱くなった。

 少し後ろから魅夜の気配を感じつつも、俺は問答無用で感じた気配の正体を探りに向かった。やがて辿り着いた場所から見えた光景は、俺も魅夜も言葉を失った。


 そこに居たのは、俺達が良く知っている面影を持った誰かの姿があったのである。

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