第25話

 「……んあ?遅かったですね、右近うこん

 「現世と魔境を行き来してきたのよ?それなりの時間は掛かるに決まってるでしょ、左近」


 そんな言葉を交わしながら、右近と左近は幽楽町を見つめる。見つめていたのだが、後ろから向けられる視線を感じた右近は目を細めて左近に問い掛ける。


 「ところで左近?」

 「何?右近」

 「後ろで虫の息でこっちを睨んでる人間は、一体だれ?」

 

 そう問い掛けられた左近は、ニヤリと笑みを浮かべて後ろを振り返った。振り返った左近の視線の先には、倒れている人間達とその中心でフラフラと左右に揺れる相模の姿があった。

 その後ろには半壊されている陰陽堂があり、一枚の札を眼前に構え始める相模を右近は見据える。


 「この期に及んで悪足掻きをするつもりかしら?全く、人間っていうのは傲慢な生き物ね。あの方の言っていた通りね。どうするの?左近」

 「任ます。私の役目は既に終わっていますから、後は好きにして良いですよ」

 「好きにしてって言われると自由過ぎて迷うから、左近がどうしたいか教えてくれる?これだけ教えてくれれば良いから」


 そう言いながら、右近はニヤリと笑みを浮かべて相模に近付く。そして指先を相模の額に突き付けたまま、目を見開いて左近に問い掛ける。


 「――この男を今殺すか、利用してから殺すか。どっちが良いと思う?」

 「……だから任せますって。たまにはそっちが決めて下さい、右近お姉様」

 「じゃあ決めた。……たっぷりと利用して、甚振る事にしようかな。覚悟してね?陰陽師の殿方さん」


 右近は見開いていた目を細め、指先から相模の身体へ何かを流した。ビリッと電磁波のような物が全身を伝ったと理解した瞬間、相模はその場で倒れるように気絶した。

 右近が倒れた相模を見つめる中、左近は一枚の札と水晶玉を手元で遊ばせながら告げるのである。


 「じゃあお姉様、仕上げをして来ます。――お姉様も、適当に済ませてから来て下さい。あの方のお目通りは、そう滅多に叶いませんから」

 「分かってるわ。これで準備は完全に整ったから、後はお迎えして差し上げるだけ」

 「行きましょう」

 「えぇ、あの方を迎え入れる準備の為に」


 左近と右近が手を繋ぎ、同時にニヤリと笑みを浮かべて歩を進めた。向かった先は陰陽堂から少し離れた場所だが、周囲には何も無い場所に辿り着いた。

 だが彼女達は顔を見合わせ、左近の持っていた札と水晶玉を掲げて妖力を解放した。その瞬間、幽楽町全体が黒い雲に覆われ始めたのであった。そして彼女達は、同時に妖力を解放して言った。


 「「――おにもん、開門」」


 その言葉に反応するようにして、彼女達の目の前で空間に亀裂が入った。それと同時に幽楽町のあらゆる場所で亀裂が入り、そこから餓鬼を率いた黒騎士が姿を現した。

 やがて彼女達は目を輝かせ、うっとりとした表情を浮かべつつも跪いて告げる。


 「「お待ちしておりました、焔鬼様♪」」

 「……あぁ、手筈通りだ。二人共」

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