第17話

 キーンコーンカーンコーン……。


 鐘の音が鳴り響いた瞬間、教室の中が喧騒に包まれ始める。私は伸びをしつつ、堅い椅子に背中を預ける。なんだかんだで私は、人間として生活する事に慣れているようだ。

 まぁそれもそうだろう。いつもは人間である私が表に出ているのだが、最近は精神が不安定な事が多い所為で私が表に出続けている。本当なら役割分担をして、上手く共存出来たら良いと思っているのだが……人間としての私と妖怪としての私じゃ、住む世界も価値観も違う。

 それは無理矢理に一つにしようとすれば、必ず反動で無理が生じてしまう。今はゆっくりと彼女わたしの答えを待つ期間でもあるのだ。気長に待つしかないだろう。


 「……はぁ」


 それにしても、昼休みになったというのにもかかわらず、いつも教室まで迎えに来る彼女の姿が見えない。いつもであれば、昼休みが始まって数分後には教室まで迎えに来ているというのに。

 何か遭ったのだろうか?そう思いながら、私は教室を出て廊下に足を運ぶ。廊下も喧騒に包まれており、友人や恋仲で一緒になっている生徒の姿が視界に入る。特に恋仲を生徒を見た私の中には、何とも言い難い不満気が浮上し始める。


 「……」


 私が彼と一緒に居た時の記憶が浮かび、視界内に入る全ての男女がそういう風に見えてしまう。勝手に記憶が投影され、私がそれを望んでいるかのように見えてしまう。

 いや、まぁ……望んでいないと言えば、嘘になるのだけれども。


 「ええっと……魅夜の教室は……確かここで」

 

 そんな事を考えている間にも、彼女の教室に辿り着いた。教室の中を覗き込み、目的である彼女の事を探したが……姿を見つける事は出来なかった。


 『ん?先輩、何をしてるんですか?』

 「ほぇ?」

 『あぁすみません、驚かせちゃって。でも由良先輩ですよね?三年の由良茜先輩』

 「あ、あぁうん。そうだけど」

 『どうして先輩が、一年の教室を覗いてるんですか?』

 「ちょっと人を探してて」


 私はトイレにでも行ってるのかと思いつつも、その生徒に彼女が何処に行ったのかを問い掛けた。私が問い掛けてから数秒考え、その生徒は思い出したかのように手を叩いて言った。


 『その人なら確か、屋上に向かうのを見ましたよ?』

 「ホント?ありがとね」

 『いえいえ、お役に立てて良かったです!』

 「じゃあ、またね!」


 私はそう言って、一年の教室から屋上へと向かった。その時、私は気付く事が出来なかった。私が居るこの幽楽町で、とんでもない事が起き始めている事に――。


 『由良茜が屋上へと移動しました。どうやら、護衛である半妖は別行動をしているようです。今が好機かと思います。――焔鬼様』

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