第二夜「崩壊する平和」

第16話

 ――鬼門。


 それは現世と魔境を繋いでいる門の呼称である。二年前に破壊されているその門によって、餓鬼が出現する事は少なくなった。だがしかし、依然として餓鬼は出現している。

 何故ならば、餓鬼は人間の負の感情から生まれる。人間の持つ陰と陽。善悪の感情を媒介にして、その存在を保っていると云える存在だ。そして出現した餓鬼は、その負の感情を生み出した素体を喰らう事が目的としている。

 喰らえば、現世にその姿を隠す事が出来るようになり、人間として現世に巣食う事が出来るようになる。餓鬼として狙われる事が少なくなり、最初よりも隠密に力を蓄える事が出来る。


 「……」


 鬼門の向こう側には人間が住む現世があり、それは魔境に住まう全ての者が知っている。そして今、鬼門の前には数千……数万を越える餓鬼が集まっていた。鬼門を見つめ、鬼門の前に居る鬼達の背中を眺める。

 その視線は羨望や希望という視線が集まっており、全ての餓鬼が辿り着こうと向かう存在達が並んでいた。


 その存在の名を……黒騎士という。


 「流石は兄様です。ここまでの兵力がたった一声で集まってしまうなんて」


 天女のような容姿をしている少女がそう言った。片手を頬に添え、うっとりした表情かおを浮かべる。そして目を細めてから、ニヤリと口角を上げた少女は人差し指を微かに動かした。

 その瞬間、集まっていた餓鬼の中から血飛沫ちしぶきを溢れさせた。オドオドした様子を見せる餓鬼達だったが、少女は目を細めたまま何事も無かったのように言葉を続けた。


 「どうやら、わたくしの姿を見て実力を疑った者が居ましたので……この場を借りて、証明したまで。このぐらいは良いですよね?兄様」


 少女が隣へと視線を向けた瞬間、餓鬼達は生唾を飲み込んでそこに居た人物の姿を見据えた。その者は白く長い髪を風に揺らし、燃えるように紅く輝く双眸とこの場に居る誰よりも強大な妖力が殺気となって纏われていた。

 その者こそ、魔境を統べる王と呼べる存在。玉座に座るその者の手の甲に手を乗せ、隣に跪く少女は頬を赤く染めながらその名を呼ぶのであった。


 「準備が出来ました。どのように致しましょうか?――兄様……焔鬼えんき様♪」

 

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