第6話
『由良さん、おはよう!』
「うん、おはよう」
学校内に入ってしまえば、多くの視線の中央へと自然に溶け込む。そんな彼女の事を眺めながら、魅夜は周囲の様子にも気を配っていた。警戒網を張り、学校全体の気配を探る。
「(怪しい気配は無し。今日も何も無い、か)……――ふぅ」
『魅夜ちゃんも、おはよう』
「っ……お、おはよう、ございます」
挨拶される事に関して慣れていないのだろう。魅夜は身体を強張らせながら挨拶を交わし、自分の教室へと歩を進めた。その途中、護衛対象である茜とすれ違う。
「学校の中だけど、気を付けて」
「大丈夫。私はそんな柔じゃないよ」
「……」
短く交わされた言葉の末、互いの教室へと別れる彼女達。自分の教室へと向かう茜の背中を見つめ、振り返った魅夜は肩を落として目を細める。そして周囲からの視線を浴びながら、冷たい表情を浮かべて呟くのであった。
「はぁ……疲れる」
やがてチャイムが鳴り響き、生徒達は自分の教室へと戻っていく。茜も、魅夜も……これが彼女達の日常であり、二年の月日を経て得た平和である。
多くも無く、少なくも無い月日の果て。だがこの平和は偽物であり、一時的な物だと彼女達は分かっている。昼間はそういう物だと理解し、そして夜はこの町の姿が変貌する。
――深夜、零時。
『はぁ、はぁ、はぁ……だ、だれかっ、たすけ』
『グルルル……ガァ、――ッ!?』
町の中で襲われていた人影を発見し、電柱の上から勢い良く落下する斬撃が放たれた。襲われていた住民の前で、火の粉を散らしながら刀を振るう。
「無事かな?……うん、問題無いみたいだね」
「一人で突っ走るのは悪い癖だぜ?」
「これぐらいは大目に見てよ、狂鬼」
「まぁ間に合ったんだし、それよりもまずは目の前のこれでしょ」
火の粉を散らす刀に手を添えた茜を見た人影は、目を見開いて口を開いた。その姿に見惚れ、由良茜という存在は鬼の姫君からこう呼ばれていた。
――
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