第7話
「火焔の巫女って、恥ずかし過ぎない?」
「何を言いますか。姫君と呼ばれるのが嫌だという貴女の我儘を踏まえ、我々が考慮した結果です」
「剛鬼……はぁ、分かったから。けど、どうせ剛鬼の事だから「姫巫女様」って呼ぶんでしょ?」
「それは勿論。姫というのは貴女の事を指す言葉ですから」
茜は溜息混じりに餓鬼を斬りながら、剛鬼の言葉について思考を働かせる。火焔の巫女と呼ばれるのが姫と呼ばれるよりもこそばゆいらしく、茜は不満そうな表情を浮かべつつ刀を振るった。
餓鬼を使ったストレス発散と言っても過言ではないだろう。やがて全ての餓鬼を排除し終わると、茜達は息が上がっている一般人の保護をし始める。
『た、助けていただいてありがとうございました!え、えっと……ゆ、由良茜さん、ですよね?』
「私の事を知ってるの?」
助けられたのは女性で、茜よりも年下の女の子だろう。見た所、部活か塾の帰り道だったのだろう。そこを餓鬼に襲われ、今に至る。
そんな少女を見つめながら、茜は首を傾げて疑問を浮かべた。茜の反応に仕方が無いと思った狂鬼は、溜息混じりに少女に言った。
「お前、同じ学校の生徒だろう?一度だけ見た事がある」
「そうなの?狂鬼、記憶力良いね」
「茜姉さんは、覚える気さえあれば町の人間を全員覚えられるだろ?」
「あはは、ちょっと興味が無くて」
「正直なのは良い事だがよぉ、こいつ……どうする?」
これからすべき事で候補は二つ。一つは餓鬼に襲われた少女の保護と忠告をする事が最優先。だがしかし、トラウマを抱えるというケースを避けるべく、殆ど取るべき行動は二つ目を茜達は選んでいる。
「ねぇ貴女、さっきの化け物を見た時にどう思った?」
『……っ。す、凄く怖かったです。もうここで死ぬのかな?って思って……』
「……そう。じゃあ、この事を忘れたいって思う?忘れちゃえば、もう怖い思いをしなくて済むと思わない?」
『あれをすぐに忘れろっていうのは、ちょっと難しそうです。あはは』
「そっか。じゃあ……ごめんね」
茜は少女の頬に触れ、少女の瞳を真っ直ぐ見つめる。ドキッとして少女は頬を高揚させたが、茜の瞳を見て微かに動揺する事となった。
何故なら茜の瞳は、淡い炎のように揺れていて……小さな炎に包まれたからであった。やがて少女はウトウトと睡魔に襲われ、静かに眠ってしまった。
「狂鬼、この子を家まで運んであげて。起こさないように、ゆっくりね?」
「いくら鬼組に全住民の名簿があるとしても、一人一人記憶するのはそれなりの重労働なんだけどなぁ」
「後でお詫びするからさ。ね、お願い」
「……はぁ、仕方ねぇなぁ。アイス棒一本、駄菓子屋のばあさんから買えよな」
狂鬼はそう告げると、眠る少女を抱えて空中を移動し始めた。そんな狂鬼の背中を眺める茜は、先程まで戦っていた餓鬼の亡骸を見つめた。その表情にはどこか、憂いを帯びていたのであった。
「ほーくん、会いたいよ」
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