第4話
「ふわぁ~あ……」
「だらしない。人前なのに欠伸して良いの?姫なのに」
「これぐらい大目に見て欲しいなぁ、魅夜ちゃん。昨日の夜も餓鬼退治だったし、朝からあの会議でしょ?眠くならない方がどうかしてるよ」
茜は不満そうな表情を浮かべつつ、隣に並ぶ魅夜にそう言った。魅夜は溜息を吐きながら、鞄を持っている自分の手を見つめる。それから周囲の様子を見つめ、何の変哲も無い日常の光景がある。
しかし、この光景に本当に欲しい物は無い。魅夜はそう思いながら、周囲の平和な様子を見つめ続ける。そんな魅夜の視線を追っていた茜は、口角を上げて魅夜に告げるのだった。
「皆、笑顔だね」
「うん」
「活気があるのは良い事、ね」
「……それは同感だけど、でも茜は……――っ」
何か言おうとした魅夜だったが、笑みを浮かべる茜を見て言葉を呑み込んだ。
「学校行こうか。早くしないと遅刻しちゃうよ」
「うん」
魅夜の肩を軽く叩き、茜は学校へと駆け出した。その背中を見つめる魅夜は、目を細めて再び溜息を吐いた。何故ならそれが、茜の空元気だと知っているからだ。
だが前を進もうとしている以上、何か言うべきではないと分かっている。だが元気付けるとしても、魅夜が思っているよりも心の傷という物は計り知れないものだ。
「(あれがいつまで持つか……時間の問題)」
「魅夜ちゃーん!早く!!」
「そんなに慌てなくても良い。全然間に合う」
「それでも余裕を持った方が良いでしょ!はやくはやく!」
手を振る茜を見て、魅夜は肩を竦めて歩を進めた。だがその時、彼女達は知らなかった。
この日常が、平和が……長く続かないことを。
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