第2話
――神埼邸。
そう呼ばれている屋敷の中で、私は身を置いている。最初に言っておくが、ここは私の家ではない。私の名前は
いや、その言い方は薄情な気もする。素直な気持ちを表に出すのであれば、この家の主人とは許婚という間柄だった。何故、過去形で物を言っているかというのは察して欲しい。
「お待たせ、皆。そして総大将」
「いえ、大丈夫っスよ。茜さん。それと、俺の事を総大将と呼ぶのは良して欲しいっス。名ばかりな物なので」
「ううん、ほーくんの代わりを継げる人は他に居ないよ。他の皆も、異議があったら唱えていたはずだし……それに」
「それに?」
「貴方は、ほーくんの右腕だから」
私がそう言った瞬間、彼は目を細めて私の事を見る。まだ未練があるのかと思われているのかもしれないが、それでも簡単に諦められる物でもない。許婚だからとか、仲が良かったからとかじゃない。
ただ単純に忘れたくないと思っているから、私はこの気持ちを切り替える事が出来ないのだ。いや、切り替えたくないと言った方が正しいかもしれない。それはきっと、彼も同じだと思いたい。
「俺が右腕っていうのは、アニキがそう言ってただけっス。俺はまだまだっスよ」
彼は謙遜している中、襖を勢い良く開けた者が居た。体が大きく、肩幅も広い騎士甲冑で身を包んだ者。そのシルエットだけで、誰が来たのかはすぐに分かってしまう。
「おお、姫君。起きたのだな」
「剛鬼、おはよう。相変わらず朝まで呑んでたの?」
「うむ、その通りだ。我の酒を勢いにも負けない者達が多いのでな、つい」
「ついって……お酒は程々にしないといざって時に困るよ?」
「安心しなされ。一升瓶を数十本呑んだとしても、我は酔ったりはせんよ。がっはっは!」
彼のその言葉を聞いた瞬間、私はなんとか注意してくれという意志を胡坐で座る彼に目で訴える。だが彼は左右に首を振りながら、呆れつつ肩を竦めて口を開いた。
「剛鬼、酒も良いが今は定例会議の時間っス。酒の話はまた今度にして欲しいっスね」
「おお、これはすまない。……と、我が最後ではないのだな?」
彼は座りながら周囲を見渡すと、首を傾げてそう言った。確かに数名程、来ていない組員が居るようだ。定例会議はいつもの時間と指示があったのだが、それでも遅れる者というのは限られてくる。
「魅夜、起こしてくれるっスか?」
「分かった。ちょっと待ってて」
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