第40話 最後のヤバイ敵
ついに待ち構える最後の部屋。
俺たちは臆することなくその中へと入る。
「……! これは……」
入ってすぐしたのは、驚きの感情だ。
部屋の構造は今まで通りだが、その壁には太い棘がずらりと並んでいた。
うかつに壁に近付いたら串刺し……といったところか。
「フユマ……あれ……」
そしてもう一つ、部屋の真ん中に鎮座されている存在にレイアが気付く。
巨大な人型が鎖によって磔にされていた。その大きさはさっきのアーマーハンドや、真の姿になったリミオと同等。
全身が例の如く鎧に覆われており、顔面には半透明の単眼がある。両腕は丸太のように太いが、逆に両脚はそれと比べて短いようだ。
両肩には2本の筒があるが……あれはまさか。いや、そんなはずは……。
『最後の敵「アーマーゴーレム」。32レベルに相当する、今までの魔物とは一味違う奴。こいつを倒せれば、いよいよ新しい力が芽生えるはずだ』
「……何か今までと違って強そうね」
リミオが警戒している……。彼女自身強いからこそ、相手のことがよく分かるのかもしれない。
俺も嫌な予感がしてくるが、しかし選択肢は1つだけ。こいつを倒して先に進むだけだ。
「ファフニール、早くこいつを目覚めさせてくれ」
『お安い御用さ』
鎖に赤いエネルギーのようなものが伝っていく。
それがアーマーゴーレムに流れていくと、むくりとそいつの顔が動き出す。さらに今まで半透明だった単眼に赤い光が灯った。
両腕に巻き付いていた鎖を強引を引きちぎったあと、獣の咆哮とまた違う轟音を上げた。
《ブオオオオオオオオオオオオオオオオンン!!》
「フユマ、レイア、私の背中に乗って!」
「あっ? ああ!」
伸ばされたリミオの手に、俺はレイアと共に飛び乗った。
それからその背中へ上がると、アーマーゴーレムが迫ってくる。さながら巨大な岩が独りでに動いているような圧巻さだ。
リミオも咆哮を上げてアーマーゴーレムに激突。
両者がぶつかり合った時の振動に、俺たちはふるい落とされそうになってしまった。
「たとえファフニールのゴーレムが相手でも!!」
リミオの尻尾がゴーレムの頭部に向かった。
それに気付いたゴーレムはリミオから離れる。さらに両肩の筒のようなものをこちらに向けてくる。
「なっ!?」
リミオがこの声を出したのは、筒から火を噴いたからだ。
彼女がかわすと、筒からの火が地面に着弾。大きな爆発が起きる。
「あの筒のようなもの、まさか大砲!? 魔物がそんなものを付けているなんて!!」
「俺ももしやと思っていたけど、どうやら本当みたいだったな!!」
普通大砲を装着している魔物なんていない。
それはリミオだって驚くはずだ。
「リミオ……!! 後ろ後ろ……!!」
「あっと! ごめんなさい!!」
レイアが焦るように叫んだ。リミオが下がりすぎて、壁の棘に刺さりそうだったのだ。
上手く動けない上にアーマーゴーレムの攻撃も苛烈。なるほど、最後の試練に相応しいな!
「俺も攻撃する! リミオ、接近できるか!?」
「何とかしてみる!! 大砲を持った魔物なんて対処できるか微妙だけど!!」
「それはレイアの【魔力障壁】でガードしよう! レイア出来る!?」
「うん、リミオもちゃんと包み込むから……!」
リミオが肉薄担当。俺が斬り込み担当。そしてレイアが防御担当。
相手はこれまでにない強力な魔物。3人で力を合わせないとならないのだ。
まずリミオが巨体に似合わぬ機動性で接近した。もちろんアーマーゴーレムが大砲で迎撃してくる。
その砲弾に対して、レイアが【魔力障壁】でリミオを包み込んでくれた。透明な球体によって砲撃が防がれていく。
「駄目……割れる!!」
「大丈夫か!? なるべく持ち応えて!!」
そのままアーマーゴーレムの目と鼻の先に着いたところで、【魔力障壁】が砕かれた。
しかしやっと接近できたのが幸運だ!
「オラアア!!」
片方の大砲を【メタル斬り】で斬り裂いた。
アーマーゴーレムが怯んだところで、リミオがタックルをして吹っ飛ばした。そのまま壁に叩き付けられるアーマーゴーレム。
そして壁に叩き付けられたということは、そこにある棘に突き刺されたということになる。背中を突き刺された奴が、悲鳴のような轟音を上げた。
《ブオオオオオオオオオオオオオオオオンン!!》
「よし、もう一回!!」
リミオが再び奴に接近。
しかしこの時、俺は奴の単眼が強く光ったことに気付いた。
「リミオ、待って!!」
「えっ!?」
リミオが足を止めたその時、これほどに感じたことがない熱が伝わってきた。
間違いない、あの単眼からだ!!
「よけろ!!」
その瞬間、アーマーゴーレムの単眼から光が放たれた。リミオを包み込むほどの熱線。
気付いたリミオが回避すると、その熱線が壁に直撃して倒壊させてしまう。
熱線が消えたあとに残ったのは、穴が開いた壁と瓦礫。そしてその壁が蒸発してできた異臭のある煙。
「なんて熱線なの……あんなのを喰らったら……」
「…………」
リミオが声を震わしている。レイアも顔を青ざめさせていた。
俺も、あんな威力を持った攻撃を見たのは初めてだし、もしそれを喰らったらと思うと……身体中の汗が噴き出してしまう。
強大なスキルを手に入れる前に、やられてしまうという可能性も……。
……いや。
「とにかくこいつを倒さなきゃいけないんだ。ユウナさんのいる街を見殺しする訳にはいかない!」
ユウナさんが俺たちを信じて見送ってくれたんだ。
彼女の為にもスキルを手に入れなければならない。どんなに辛くてもやらなければならないんだ。
「……フユマの言う通り……ユウナさんを守らないと!」
「そうね、こんなところでは終われない!」
「ああ! それでリミオ! これを使うんだ!!」
俺は【
その刃から巨大な鉤爪2個を形成し、リミオの前に落とした。
「これ……」
「君用の武器! 早く取って!!」
アーマーゴーレムがリミオへと大砲を向けている。
リミオはチラリとそいつを見てから、俊敏に鉤爪を拾う。その彼女が元いた場所に砲弾が直撃する。
しかしまたもやこっちに向けている。
「レイア、【魔力障壁】!」
「ちょっと無理かも……さっき大きいのを使って……」
「じゃあ【迷宮制御】!!」
リミオの前に巨大な壁を形成させる!
砲弾によって壁が少しぐらついているのが分かった。しかし壊れる心配はない。
「蒼炎【砲】……!」
次に壁越しからレイアが蒼炎を放った。蒼炎はまっすぐアーマーゴーレムに向かい、砲台2本の発射口に入る。
すると砲台が一瞬膨れ上がって破裂。結果として、砲台は機能できないくらいにぐしゃぐしゃになっていた。
「よし付けた!! でも私の攻撃じゃ奴らに……!!」
「大丈夫! それなら出来る!! 俺を信じて!!」
「……分かった!!」
リミオに鉤爪を装着させたのはちゃんと意味がある。
一方で俺が形成させた壁にひびが入っていた。前にダンジョンを破壊できるのは俺とレイアと眷属魔物だけだとファフニールが言っていたので、それがこういうことなのだろう。
これ以上は壊れそうなので床に戻したあと、リミオをアーマーゴーレムへと向かわせた。
両肩の砲台がなくなったアーマーゴーレムは一声を上げたあと、こちらに肉薄。接近戦に持ち込もうとする算段らしい。
まるで丸太のような左腕が振るわれる。
リミオはそれめがけて鉤爪を突き出すと、まるでガラスのように四散していった。
《グウウウウ!!?》
「壊れた!!」
「これも【メタル斬り】の効果だよ! やっぱり彼女が使っても同じだったか!」
そのスキルがあるロングソードから鉤爪を作った。だからこそスキルが付加されていてもおかしくない。その推測は的中したみたいだ。
そんなことが出来る辺り、やっぱりこのスキルはチートだな。本当にファフニール様様だ!!
「やってしまえ、リミオ!!」
「分かったわ!! キュオオオオオオオオンン!!」
これでリミオとアーマーゴーレムの戦力差が埋もれたというもの。
そこに気付いたのかいないのか、アーマーゴーレムが片手を使ってリミオを押し出していった。壁の棘に刺してケリをつけようとしているかのようだ。
リミオが下がるにつれて、背後の棘が迫ってくる。
しかもアーマーゴーレムの単眼が熱線を出そうと光り出す。
そんなことをさせてたまるか!
奴の頭部に飛び移り、その単眼をソードで貫く。
一気に噴出する銀色の体液。
俺が離れると、熱線の元らしき光が漏れ出し、アーマーゴーレムが大きく体勢を崩した。
ここまで来ればリミオのターンだ。
リミオは装着した鉤爪で右腕をもぎ取る。さらに頭部を掴み、背後の壁の棘に身体を突き刺した。
「終わりだ!!」
そうしてボロボロになったアーマーゴーレムの胴体を、リミオが引き裂き、バラバラに砕かせた。
金属破片をバラまきながら朽ちていくアーマーゴーレム……これは間違いなくそうだ。
「……やった!! 勝った!!」
「ええ、私達の勝利よ!!」
俺たちは、最後の試練に打ち勝ったんだ!!
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