第39話 魔物連戦再び

ファフニールダンジョンに移動する為、俺たちは裏口から外に出た。


「ジン、悪いけど【ワープ】でダンジョンまで送ってくれないか? 今日で【エリアポイントテレポート】を6回も使ってしまってさ」

「そういうことなら喜んで。まだ使えますから」

「ありがとうな。じゃあユウナさん行ってきます」


 俺がユウナさんへと振り向くと小さくうなずいた。


「はい、お気をつけて。帰って来た時には食事の用意をしますね」

「いえそんな……」


 一仕事し終わったらユウナさんのご飯が待っているのかぁ、楽しみだな。

 ただ一介のハンターでしかない俺に対して何でそこまで……という気持ちがない訳でもない。


「ユウナさん、こういうのを尋ねるのも何ですけど、どうしてそこまでしてくれるんですか?」

「えっ? ……そ、それは……」


 珍しくユウナさんが口ごもるとは、やはりこういう質問はよくなかったかもしれない。

 今のは忘れてくださいと言っておこう。


「よく分からないんですけど、その人間の反応から察するに叔父貴のことが好きだったんじゃないですか?」

「!?」

「ジン! そういうこと言っちゃ駄目!」

「そうよ! 女の子の本心をさらけ出すのやめなさい!!」

「い、いや! 俺はただ……あの、すいません……」


 ジンがレイアたちに怒られているのはいいとして、今俺のことが好きだったって言ったのか?

 ユウナさんが俺のことが好き……? いや、まさか彼女に限ってそんな……。


「……ユウナさん、それって……」

「……おっしゃる通り、私はフユマさんをお慕いしておりました」

「マジですか……」


 尋ねたらそんな返事が返ってきた。俺は色んな意味で圧倒された。

 それからユウナさんが恥ずかしそうに真っ赤になる。


「……その、初めは同情からでした。勝手なことですが、周りからあまりよく思われていないフユマさんに憐れみのような感情がありました。なのでどのハンターよりも強く心に残りました」

「印象的だった……という」

「ええ。それであなたの話相手になったのですが、次第にその印象が強くなったのを感じたのです。そうしてあなたへの想いが強くなって……」


 ユウナさんが俺を想っていたなんて……何で今までそういうことに気付かなかったんだ俺は!

 あれを単なる優しさだと片付けた今までの自分に殴りたい気分だ……。


「ユウナさんすいません、俺……」

「いえ、直接言わなかった自分が悪かったのです。それにフユマさんにはすでに素敵な彼女がいますし」


 そうして恥ずかしそうな顔から一変し、微笑みを見せてきた。


「残念に思ってないというと嘘になりますが、それ以上にフユマさんに想い人が出来て嬉しいです。ですので、必ずレイアさんを幸せにしてください」

「ユウナさん……。分かりました、必ずレイアを……」


 ユウナさんのその言葉はちゃんと噛みしめたい。

 俺にとってレイアは大切な存在だ。だからこそユウナさんの期待に応えたい……絶対に。


「すみません、レイアさん、あなたがいる時にこのような話を……」

「ううん、ユウナさんのことは分かっていたから……それにレイアはユウナさんのこと嫌いじゃないよ」


 ユウナさんへと近付くレイア。

 ただ向かい合うにしては距離が短いような……。


「さっきの言葉、本当に嬉しかった。美味しいご飯も楽しみにしているから」


 そのまま顔を近付かせて……まさかの頬にキス……。

 ……頬キス!? 女の子同士のキスなんて……そこまで行っちゃう!?


「……レ、レイアさん……」

「もしよかったら、これの続きやろ? 次はフユマも入れていいから」

「フユマさん……と? え? え?」

「大丈夫、レイアがリードするから。とりあえず行こうフユマ」

「……えっ? あっ、お、おう……」


 ちょっと待って。今さっきとんでもないことを言っていたよね? その流れでダンジョンに行くのか?

 というか俺も入れていいって、それはつまり……。


「ジン早く」

「……は、はいお嬢! 【ワープ】!」


 悶々としている間、ジンによってワープをされた。

 俺たちの周りが光輝いたあと、視界からユウナさんとサージア街が消える。代わりにファフニールが現れるといういつものパターンだ。


『いよいよ来たか……さぁ行ってこい。エレシュキガルを倒す力を身に付けるんだ』

「……ああ、分かった! ジンはサーベイさんに連絡してくれ。それからはそっちに任せる!」

「分かりました!」


 とりあえずエロい考えはなしだ! ここからが真剣にならなければ!

 ジンがいなくなったあと、以前に攻略した魔物連戦場へと向かった。入る際に倒した魔物が出てきてやり直しになるでは? と思ったが、さすがにそいつらはいない様子だ。


「次は7番目の部屋だったな。確か1部屋ごとに4レベル増えるから、次は28辺りってことか」

「フユマは27だよね? 大丈夫かしら?」

「大丈夫というか、そういうのは言ってられないしな。それに1レベルの違いだから何とかなるはず」

「そう。まぁ、今度は私も加勢するからさ。こう見えて、私は35レベル相当だから頼りに出来るはずよ」


 パチンとウインクをするリミオ。

 美女のウインクって結構クルよな……なんてのは置いといて、レイアの方は20レベルくらいだというのをサーベイさんから聞いている。ちゃんと彼女のことはフォローしてあげたいと。


 そうして全部クリアすれば大いなる力が与えられると、ファフニールが言っていた。

 

 それに賭けてこの魔物連戦をやるのみだ!


「ここだな」


 その7番目の部屋に到着する。と同時に、ファフニールが扉を開けてくれた。

 

 内部は今までとは変わらない。そしてその床から流体金属が溢れ出し、異形の姿へと変わっていった。


 それはまさしく人間の右腕。まるで床から銀色の右腕が生えたような形状だ。

 その大きさは、俺たちはおろかサーベイさんを優に超えている。


「これ、『アーマーハンド』とかそういう名前じゃないだろうな?」

『よく分かったな。もろにそういう名前なんだが』

「安直なんだよ、お前のネーミングセンス」

「それフユマにも言えることだけどね」


 うぐ……そういえばレイアにネーミングセンスダメ出しされていたっけ……。

 というかリミオさん、クスリ笑いしないでください、めちゃくちゃ恥ずかしいですから。


《ブォッブォッブォ……》


 アーマーハンドがぐぐもった笑い声がした瞬間、指先から水のようなものが噴出した。流体金属を勢いよく発射しているみたいだ。

 俺たちが避けると地面が抉っていく。さらにその矛先が俺とレイアに向かっていった。


 こうなるとあれが使えるはず!


「【迷宮制御】!」


 俺の前に巨大な壁。それが金属ブレス(ブレスというのか微妙だけどそう呼称しよう)を防いでくれる。


 部屋が作れて、それより簡単な壁が作れない道理はないのだ。このダンジョン限定というのが痛いのだが。

 

「ハァ!!」


 俺は壁から飛び乗り、さらに蹴ってアーマーハンドに接近。

 アーマーハンドが指を鋭くさせて振るうも、【メタル斬り】を付属させたソードで人差し指と中指を破壊。


《グボオアアアアアアア!!》

「やるじゃない、よし私も!!」


 リミオも【人化】解除をして、ベルセルクドレイクに変身する。

 咆哮を上げながらアーマーハンドに接近し、その鋭い鉤爪で叩き潰した。


 結果、アーマーハンドは無傷だった。


「そんな!? フユマは指を破壊したのに!」

「ファフニールの流体金属で出来た魔物は、早々破壊できないらしいんだよ! 出来るのは俺の【メタル斬り】とレイアの蒼炎くらいだけ!」


 俺に向かって、アーマーハンドのビンタのような動作をしてくる。

 対して後方へと飛び下がって回避する。


「チートじゃないそれ! こりゃあ私の立つ瀬がないわ!」

《近い日にフユマに専用武器でも作ってもらえ。それには【メタル斬り】と同様の効果が付属される》

「そんな! はぁ……ここではフユマが従った方がいいのかしら」

「そういうことになるかな……! とりあえずそいつを押さえ付けといて!!」


 再び自分に襲いかかってくるアーマーハンド。そこをリミオが「了解!」と言って押さえ付けた。

 指を掴まれて動かなくなったところで、レイアがザズリアを向ける。


「リミオよけて。蒼炎【砲】」


 レイアの蒼炎【砲】が発射されると、リミオがタイミングを見計らってアーマーハンドから離れた。

 複数の火球がアーマーハンドの各所を貫き、悲鳴を上げさせる。


 そこに俺が再び接近し、【メタル斬り】の縦割り!


 金属片を撒き散らしながら、アーマーハンドがバラバラに崩れていった。

 

「……よしっと。レイア、いい攻撃だったよ。リミオもありがとうな」

「そう言ってくれると嬉しい……」

「あまり戦力にならなかったけどね。でもアシストくらいなら何とか」


 リミオにはファフニールの言う通り、【武装錬金術】製の武器でもあげておくとしよう。

 さて、次で最後の部屋だ。それをクリアすれば、強大な魔龍を倒せるだろうスキルが手に入る。


 一体、どういうものなんだろうか。

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