第37話 クズ共との対峙

「フ、フユマ……!?」


 俺に腕を掴まれたタイガが、まるでおぞましいものを見るような顔をしていた。


 よほど俺が怖いと見た。

 そんなことを冷静に思っていると、そいつが俺の手から離れた。


「お前、あの時消えちゃったから幽霊かと思ったけどやっぱ生きていたのかよ!!」

「あの状況でどうやって!?」


「はっ!? フユマ!?」

「見ろよ! 本当にあのフユマだ!」

「あいつ生きていたのか!!」

「なんかあのマント被ってたのフユマじゃね? って聞いたけど本当だったのかよ!」


 俺が外に出たせいで周りが騒然となっていた。

 まるで街に入った魔物のような反応だ。異物という意味では、俺と魔物も大差はないかもしれないが。


 てか最後の台詞からして、変装バレてたっぽい……? まぁいいけど。


「フユマ!」

「フユマが出てきたこれとか、本当にこの街はあれだったのね」


 レイアとリミオも外に出ていた。

「何でフユマに女の子が?」「二股なのか?」とか聞こえてくるが、レイアが威嚇をした瞬間、嘘のように黙ってしまった。


「お前、ヴィーヴィルに襲われたのに何で生きているんだ!? というか何でユウナさんの家から出てきたんだよ!?」

「色々とあったんだよ。こうしてサージア街に戻ってこれたのも皆のおかげだ。まぁ、捨て駒が生きて帰ってきたとなると、あんたにとって都合が悪いだろうけどな」

「す、捨て駒だなんて……!!」


 タイガが否定するも、それを周りの人間が聞き逃さなかった。


「捨て駒……?」

「確かパーティーを守ろうと魔物を食い止めたんじゃなかったっけか?」

「じゃあタイガたち、嘘の報告をしたってことじゃ……」


「……何か俺がパーティーを守る為にどうとか聞こえたんだけど、どうやらそんな報告をしてたみたいだな……」

「……いや……これはその……」


 しどろもどろになって後ずさるタイガ。

 俺は奴の目の前に立ち、その胸倉をつかんだ。


「お前らは俺を殺そうとした挙げ句、嘘の報告をしてのうのうと生きていきやがった。そしてさらにユウナさんを困らせた。俺のことはともかく、ユウナさんにまでそうするなんて許せねぇわ」

「い、いや……俺はユウナさんを」

「俺を捨て駒にしたお前らのことだ。どうせそうやって告白してもロクなことにならないのは目に見えているんだよ」

「何を勝手に……お前には関係ないだろう!」


 タイガの拳が振るわれようとした。

 しかし俺は唱える。


「【エリアポイントテレポート】」


 タイガの後ろに回り、両腕を羽交い締めした。


「なっ!? スキル!? そんな馬鹿な……!?」

「『何でスキルゼロ剣士がスキル使っているんだ?』とか思っているんだろう? さっき姿を消したのはそれを使ったからなんだ。小声だったけど」

「嘘だろおい!? あれほど魔物を倒しても発現しなかったのに!!」

「こ、こいつ!!」


 今度がガリアが殴りかかろうとする。

 これに対して、手に持ったロングソードを奴に向けて「【武器形態変化メタモルフォーゼウエポン】」を唱えた。


 ――ガン!!


「えっ!? た、盾!?」


 ローグソードが結晶破裂して盾を形成。双剣を防いでくれた。

 苛立ちのままに盾を押し、ガリアが倒れさせる。


「スキルが2つも……」

「俺には色んなスキルが芽生えている。もうスキルゼロ剣士じゃないってことだよ」


 まぁ、この話は半分本当で半分嘘なんだけどな。

 どのみちここで「このスキルは伝説の魔龍ファフニールからもらったもので、本質的にはスキルゼロ剣士のまま」とか言っても誰も信じないだろう。

 黙っておくのが吉だ。


「こいつ、一瞬にしてリーダーの後ろに移動したぞ……。俺の【ワープ】よりも高性能なのか……?」

「い、一体どこで手に入れたんだ!? ダンジョンなのか!?」

「悪いけどザックにガリア、それはお前らが知る必要はないんだわ。それよりもタイガ、二度とユウナさんに近付くな。彼女が迷惑しているんだ」

「ハァ!? 迷惑!? ユウナさん、そんな訳ないよね!? 俺のこと迷惑とか思ってないでしょ!?」


 タイガがユウナさんに問う。しかし彼女は黙ってうつむいていた。

 親しくない人から友達になってくれといきなり言われ、さらに俺の話からその悪辣さを聞いている。そうなるのは当然の帰結というやつだ。


 そんなユウナさんの姿に、目に見えて落胆するタイガ。


「そ、そんな……」

「そういうことだ。分かったらとっととここから離れろ。あんたの顔を見るのも嫌なんだからよ」

「…………」


 理解できていない表情で俺を見つめていた。

 しかし、


「……嫌だと?」


 ぼそりと、そしてハッキリとつぶやいた。

 何か仕掛けてくると思いきや、タイガが大剣を握る。


「……てめぇ……そんなことを……スキルがなかったてめぇが、よくもそんなことを言えたものだなぁ!!」

 

 そして街中だというのに、大剣を俺に向かって振り下ろしてきた。

 多分、俺が反撃してくるのを見越してのことなんだが、それでも街で武器を振るうというあるまじき行為には呆れてものも言えない。


 そこで俺は、大剣目掛けてソードを振るった。


 ――バキイイイイイイイン!!


「なっ!?」


 ソードで大剣を砕いたんだ。タイガや野次馬からすれば異常極まりないだろう。

 もちろんこれは【メタル斬り】の効果。金属ならどんなでも破壊できる。


「う、うわあああ!!」


 だというのに、半分だけになった大剣で襲い掛かる始末。適当にいなそうとでも思った時、横からの人影が大剣を蹴った。

 そのまま大剣が空中をくるくる回り、家の壁に突き刺さる。


「それくらいにしておきなさいよ。見てるこっちが恥ずかしいわ」


 リミオだった。

 巨大な大剣を蹴り飛ばしたことに、タイガたちだけではなく周りが騒然となった。


「あんた……ベルセルクドレイク!!」

「何でこいつが街の中にいるんだよ!?」


 その周りとは違った意味で、タイガとザックが驚いていた。


 そうだ。こいつらはベルセルクドレイクから女の子の姿になるのを目撃している。その辺について俺は迂闊だったのではとリミオに対して思っていた。

 反面リミオは涼しい顔をしながら、その長い髪を撫でていった。


「そう、私は人間じゃなくベルセルクドレイク。でも人間とは親しい、あるいは従魔契約を交わした魔物なら街を出入りしてもいい。ここにいていけないってルールなんてないでしょ?」

「じゃ、じゃあお前フユマの……!?」

「あいにく私は彼の従魔じゃないけどね。ある意味それに近い関係なんだけど」


 俺に身体を密着させるリミオ……ってそれ今はあかんよ……。

 レイアが真顔でこっち見てるじゃない……。


「ともかく聞いててうんざりしていたから言っておくけど、スキルゼロ魔法ゼロってそんなにマズイことなの?」

「うるせぇ!! おめぇに何の関係が……」

「ベルセルクドレイクは雷魔法を得意をする種族だってのは知っているよね? でも私、魔法が使えないのよ。スキルだって【人化】や【アイテムボックス】くらいしかないんだし」


 ……そうだったのか。


 あの時、アンデッド系魔物に魔法を使わなかったことに疑問を抱いていたが、それは彼女自身が使うまでもないという判断からだと思っていた。

 だからこそ魔法が使えないってことに驚きだ。しかもスキルも攻撃系と防御系が一切ない。まるで俺みたいだ。


「でもこうして私は、フユマたちのボディーガードに任命されるくらいに周りから信頼されているし、力もあるから落ちこぼれだなんて言われたことがない。そういうスキル魔法のあるなしで優劣付けること自体がおかしいのよ。



 

 これ、周りの人間にも言っていることだからね」


 リミオの目が周りの野次馬に向けられた。

 見下しているような、あるいは軽蔑すべきものを見ているような冷たい目。


 野次馬が反応は様々。

 睨まれてギョッとする者、思うところがあってうつむく者。言い返せず口をパクパクさせている者。


「……くそっ、くそっ!!」

「あっ、リーダー!!」

「ちょっと待てよ!!」


 一方で、タイガたちが悪態吐きながら去っていった。


 ……うん、清々しい気分だ!


 いい気味と言うと嫌な奴っぽくなってしまうが、でもあいつらを打ち負かすことが出来てどこかすっとした気分だ。

 こうやって自分を殺そうとした相手に屈辱を与えるだけでも満足。とっとと他の街で出て行きやがれってんだ!


「ほらっ、もう見世物じゃないよ。早く持ち場に戻ったら?」


 リミオの冷たい一言で、野次馬がそそくさに散らしていった。


 これで街はいつも通りに。

 あと、これで俺は周りに白い目で見られるということはなくなったのだろうか。もしそうじゃなかったとしたらファフニールダンジョンに帰るまでか。


「……フユマさん!」


 ユウナさんの声に振り返ると、彼女が頭を下げていた。


「あの……ありがとうございます。私、あの時どうすればいいのかと……」

「気にしないでください。俺はあいつらに言いたいことがあったもんですから。これでもう奴が近付くことはないと思います」

「……だといいですが」


 なんて言ったものの、あいつらがあの程度で諦めるとは思えない。

 何かしら迫って来た時には、相応の仕返しをするまでだ。


「とりあえず中に入りましょう。お茶を用意をします」

「いえお構いなく」

「レイア、喉乾いちゃった」

「私も右に同じく。早く潤せたいわ」

「君たち、遠慮ってもんを……」


 全く女性陣は……!! でもユウナさんが静かに笑っているのを見て、まぁいいかと思った。

 それから部屋に入ろうとしたが、そこに声をかけられた。


「叔父貴!! ここにいらしたんですね!」

「えっ?」


 それは黒色の髪をした青年だった。

 右目に傷跡があって、口元から八重歯が見える。まるで不良みたいだが、俺にこんな知り合いなんて……。


「えっと……一体どなたで?」

「フユマ、この人ワーウルフ。人化スキル使ってるの」

「へぇそう……そうなの!?」


 俺の突っ込みに、ユウナさんがびっくりしていた。

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