第34話 特別な目で見ていた
俺はユウナさんに説明をした。
俺が商人として入手困難なポーションをギルドに売る。そうすればポーションを求めるハンターが買おうと殺到する。
そしてその売り上げの半分はギルドに、その半分を俺に回ってくるようにする。
ハンター稼業で金がもらえないのなら、ポーションで金儲けをしようということだ。
「なるほど……確かにハンター稼業においてポーションは貴重品です。完売は間違いないかと」
「ですよね! ぜひともユウナさんにご協力をと思いましたけど、どうでしょうかね?」
「……ええ、私でよければ……それよりもフユマさん」
「ん?」
ビジネスの話をして興奮していた俺だったが、途端に冷静になった。
ユウナさんが口元を噛みしめていた。気の障ったことを言ったかな……と思ったらそうじゃない。
「本当にスキルが手に入ったのですね……よかった……」
嬉しさで噛み締めているような表情だった。
意外だった。何が意外って、てっきり「へぇ、スキル手に入ったんですか。よかったです」といった無難なものになると思っていた。
これはどちらかというと、まるで自分の家族や恋人に対する反応のようだ。
あくまで知り合いの範疇でしかない俺に向けたにしては、言い方が悪いがどこか怪訝に思う。
「そこまで喜んでくれるなんて……」
「私……心配でしたから。フユマさんはこの先スキルなしになるんじゃないかと。でもその話が聞けてホッとしました……」
「……そんな。前も言ったんですけど、俺は客でしかないんですよ?」
当たり前のことを口にすると、ユウナさんはバツが悪そうに目を伏せてきた。
「最初は同情の念がありました。人がスキルを持っていないなんて珍しいことですから。なのである意味、私はあなたを特別な目で見ていました。……ああいえ、そんな悪い意味とかではなくて!」
「いいえ、大丈夫ですよ」
奇異の目で見られるのは慣れているので。
ユウナさんは一息ついたあと、近くにあった机に手を付く。必然的に俺に背中を向けている状態だ。
「ですからあなたがメディカルに訪れるたびに、逆に話がしてみたいと思っていたのです。それ以前から不評のことは聞いてましたが、話していく内に確信しました。この方は周りが思っているような人物じゃないと」
「ユウナさん……」
「……本当に嬉しく思います、フユマさんにやっとスキルが芽生えて。きっと天におわす創造神も、あなたを見捨てなかったはずです」
「……かもしれないですね」
もっとも、見捨てなかったのは創造神じゃなく伝説の魔龍だったというのは皮肉だ。
ユウナさんにはファフニールのことは喋らないようにしている。やはり魔龍の名前を聞いたらビビってしまうし。
「それでフユマさん、魔法の方はどうでした?」
「…………」
と言われて、俺は言葉を失った。
そう、スキルは手に入ったのだが、魔法はからっきしなんだ。
ちなみに言うが、魔法には【炎】【雷】【水】【風】、そして【龍】が存在する。
この5つの中で、特に【龍】は一部の強大なドラゴンにしか使用できない高位魔法とも言われている。人間が取得したケースが存在しないと言えば、その特別さが分かるはず。
「実は魔法は……。でも俺、必ずそれを手に入れたいと思うんです。このまま落ちこぼれ扱いされるのは嫌なんで」
「そうですか……。でもスキルが手に入ったんです、きっと……いや必ず手に入りますわ。あなたなら出来るはずです!」
パァっと微笑んで、俺の手を握るユウナさん。
……えっ? 手を握っている? ユウナさんと?
「あ、あの……」
「……も、申し訳ありません! 急に何てことを……!」
「い、いえいえ……別に嫌という訳じゃ……」
あわあわと恥ずかしそうにするユウナさん。
いつも穏やかな姿をしているから、そんな姿を見るのは初めてだ。何か得した気分だ……。
話は戻すとして、俺はスキルを手に入れたのだが魔法はまだ全然だ。
前にファフニールがダンジョンを攻略していけば、魔法が手に入るかもしれないと言っていた。この「かもしれない」というのが引っ掛かって少し不安だが。
「……コホン。とにかくポーションを売り込むには、ギルドマスターと話をしないといけないですね」
「ギルドマスター……俺のこと知っているだろうか……」
「もし不安でしたら変装してもいいかと。私の知り合いと言えば何とかなると思います」
「そういうものですかね……」
ギルドマスターが直接会ったこともないので、俺をどう思っているのか分からない。
不安はあるものの、変装するに越したことはない。
そのあと、俺がユウナさんと共に元の部屋に戻ったら、レイアに「何で置いていったの……」と不満げに言われた。
うん、君がそういう顔になるのは分かっていた。本当にごめん。
もちろんレイアやリミオにも説明をして納得させたあと、早速ギルドマスターの商談に向かうことにした。
リミオが用意したマントを被ってから、俺たちはギルドへと赴く。そしてユウナさんによってギルドの事務室へと案内された。彼女がギルド関係者だからこういうのはすんなりだ。
「ギルドマスター、あなたにお会いしたい方がおりますが」
「私に? 中に入れてください」
ユウナさんが扉を開けると、机の上で書類整理している男性がいた。
ちょび髭をした小太り系の人。ギルドマスターってこんな人だったのか……。
「おやユウナさん、その人は……」
「私の知人ですわ。旅をしながら商品を売り込んでおりまして」
「ほぉ、商人ですか。……というかあなた、フユマ君でしょ?」
「……!!」
バレた? すぐにバレてしまった?
ちゃんとマントを被っているのに……というか俺は死んでいることになっているんだぞ?
「……どうして分かったんですか?」
「まずユウナさんより気持ち下の身長。マントから見える茶髪。着ている服もギルドに赴いた時と同じですからね。まさか生きていたとは思いもしませんでしたが」
着ている服を知っている……ハンター時代の俺のことをよく見ていた訳か。
諦めてマントを脱いで素顔を出した。対して「ふむ」とうなるギルドマスター。
「やはりあのパーティー、偽の報告をしていたみたいですね。本当に災難でしたな」
「知ってたのですか?」
「勘ですがね。しかしスキルなしに関わらず生きていたのは予想付かなかったです。きっとあなたに創造神の加護があったのでしょう」
……言い方が何か引っかかる。
やはりギルドマスターも、俺のことをスキルゼロ剣士と馬鹿にしているのだろうか。
「……おじさん、フユマのことを馬鹿にしているの……?」
レイアが俺たちよりも前に出た。静かに怒りを露わにしながらだ。
ただそんな彼女とは裏腹に、ギルドマスターはひどく冷静だった。
「私はですね。何百人何千人もののハンターの情報を処理をしているのです。なので1人1人に対して贔屓したり馬鹿にしたりそういう余裕はないのです。フユマ君はフユマ君。私にとってはそれ以上でも以下でもないんですよ」
「……そういうことですか。レイア、落ち着いて」
やっと真意が分かった。ギルドマスターは中立な体勢をとっている。
今言ったように色んなハンターを見てきているから、いちいち情を挟まないようにしているんだ。
その意味が分かって、どこかホッとした気分だ。馬鹿にされるよりかはずっとマシだ。
「ところであなたが来たということは、ハンターの再契約でしょうか? 知っていると思いますが、ギルドの規律で……」
「いえ、その話は知っています。実はギルドマスターに見せたいものがあるんですよ」
俺はポーションが入った銀の瓶を置いた。
ギルドマスターが中身を覗いて、匂いを嗅ぎ取る。さらに取り出したコップに注いで、軽く飲んだ。
「……間違いなくこれはポーションですね。どうやってこれを?」
「信じられないでしょうけど、俺スキルが手に入ったんです。それを応用してポーションを作ったんです」
「なんとそれは……ステータスカードはありますか? ぜひともそのスキルを……」
「ああ、実はごたごたで紛失してしまったんです。ステータスカードの更新もハンターじゃないと出来ないので、もう二度と作ることも……」
実際は持っているが、それだとスキルの特異性からファフニールの存在がバレる可能性がある。それを防ぐために嘘をついているのだ。
それに俺はハンターじゃないただの一般人。もしハンターなら今すぐカードを作れと言われるだろうが、一般人ならそう急かされることはないはず。
このギルドマスターがそれに気付いてスルーしてほしいところだが……。
「マスター、フユマさんのスキルのことは本当ですわ。私はハッキリとスキルを唱えるところを見ました」
「……ふむ、カードがないのが解せないですが、ユウナさんがそう言うのでしたら」
何とかごまかすことが出来た。
ユウナさんには感謝だ。
「それで、このポーションをどうしようと?」
「今言ったように、俺はポーションを生み出すことが出来ます。現在ポーションの枯渇問題があるのでしょう? だからこそハンターに配る為、ここで売り出してほしいんです。もちろん売り上げの半分はあなた方ギルドに渡します」
「私からもお願いします。ポーションがあればハンターの生存率があります。どうかご決断を」
ユウナさんも口添えしてくれた。レイアとリミオは黙って俺たちの様子を見ていた。
ギルドマスターは一旦ポーションの瓶を持って、しばらく黙った。
黙ったあと、不意に俺に向いた。
「ハンターからビジネスへ……ということですか。悪くない判断です」
「じゃあ……」
「私はあなたをハンターではなく商人として見ましょう。これからもお願いしますか?」
「……ありがとうございます!」
やった……これでお金の問題は解決された!
嬉しさが込み上げてくる。今すぐにでもガッツしたい気分だ。
「よかったね、フユマ」
「これであなた大金持ちじゃない」
「ああ! 大金持ちは大袈裟だけど……」
レイアもリミオも祝ってくれた。やはり俺という存在は捨てたもんじゃないな。
――などと思った時、ドタドタと足音が聞こえてきた。
明らかにこっちに来ている。俺が慌ててマントを被ると、
「た、大変ですギルドマスター!! 正体不明の魔物が近隣の草原に現れたという報告が!!」
血相を変えた受付嬢が、荒い息を吐きながら報告してきた。
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