第33話 ビジネスを始めよう

 という訳で朝になった。


 ストレッチをしてから部屋を出てみると、日の光が差し込んだ清々しい廊下が目に入った。

 やはりこういうのを見て朝を迎えるのが一番……、


「…………」

「…………もう一杯……」


 ……と思った時、廊下に寝転がるリミオを発見しました。

 気持ちよさそう顔をしながら、よだれを垂らしている。傍らには空になった酒瓶とコップが転がっていた。


 どうみてもこれは飲んでいたことになる。人様の家で。


「……あら。フユマおはよう……」

「おはよう……。何やってんの、そんなところで?」

「えーとね……部屋でいつも通り酒を楽しんでいたら、レイアにうるさいって追い出された。今そんなに寒くはないからよかったんだけど」

「よかった……じゃないよ!? ここ人様の家なんだよ!? 何勝手に晩酌を楽しもうとしているんだよ!?」

「そんなことを言われても……大抵酒飲んでも文句言われなかったし、むしろ仲間の魔物と一緒に飲んでいたから」

「魔物と人間の常識、別だから!!」


 今まで酒好きの魔物が周りがいたから、それが普通と思っていただろう。

 しかし少しは遠慮というのを知ってもらいたい!


「ところでレイアとユウナさんは?」

「まだ部屋で寝ていると思うけど? もうそろそろ起きてくるんじゃない?」

「……ふう。あっ、フユマさん、リミオさん、おはようござい……」


 ちょうど扉から出てきたユウナさん。

 俺が彼女に挨拶しようとしたところ、


「レイアさん待って、もうちょっと……」

「ってキャア! レイアさん今日のところは……ああん!」

「うん……いい果実……程よく実ってます」


 な、何をしているんだレイアさん!?

 

 ユウナさんの背後からレイアが襲い掛かり、彼女の胸を鷲掴みにしていた。先日のリミオとの百合プレイと全く一緒!


 レイアによって揉みしだかれる豊満な胸。それによって赤みを増すユウナさんの顔。

 しかもレイアの手が生足を艶かしく触れていく……。


「ハァ……ハァ……レイア……さん……」

「……フウ……そんなに息吐いていたらレイアも……ハァ……」

「あっ、あっ、あっ……」

「……ハッ! ストップストップ!! レイアストップ!!」


 我に返った俺はレイアの両手を掴んだ。

 それと同時に、ユウナさんが涙目になって自分の胸を隠す。エロい。


「ブー……あともう少しだったのに……」

「あともう少しって何!? というか、いきなり知り合った女性にそんなことしちゃいけませんよ!?」

「でもユウナさん、揉まれて気持ちよさそうだったし……」

「それとこれとは話が別!!」


 一体どうしたんだレイア!? 

 リミオと一緒と寝た時から様子がおかしいぞ!?


「え、えっと……私はそろそろ朝食の用意しますので……」


 そそくさに一階に行ってしまうユウナさん。

 彼女がいなくなったあと、俺は改めて尋ねることにした。


「レイアってよく女性の胸を触るよな……何というか君にしては珍しいような……」

「うん。だってレイア、男も女もイケるから」

「ああそうなの……ってマジ!? それは意外だった!!」

「よく言われる。男が7で、女が3の割り当てだけど」


 まさか彼女にそんな趣味があったとは!!

 ……ふむ、興味深いな。


「それでリミオやユウナさんに百合った……じゃなくて襲ったと?」

「……どちらかと言えば、レイアに向くようにする為だった」

「向く?」

「フユマにアタックするリミオを見て、自分から攻めていけばこっちに向くんじゃないかって。それであの時リミオを部屋に誘ったの」

「ああ、なるほどね。なんかムスっとしてたのはそういうこと」


 納得するリミオ。

 俺もやっと把握が出来た。レイアが前に言ってた俺を守る為というのは、彼女自身に向けさせることで注意をそらす為だったんだ。


 ……もう少しマシな方法があったのではと思うが、それは置いといて。


「でもユウナさんはリミオのと違う。あの人はフユマを庇ってくれたし、優しい人だってレイアにも分かっている。だからこっち向いてほしいだなんて思ってない」

「レイア……」

「そんな訳で一緒に寝たとき、お礼も兼ねてユウナさんに抱き付いてお尻を触った」

「触ったのかよ!!? えっと……どうやってやったの……?」


 ちょっと聞きたい……男として聞きたい。


「まず一緒に寝るとき、ユウナさんに抱き付きます。いい雰囲気になったところで『胸触っていい?』と聞きます。それでユウナさんが躊躇いながらも返事したので揉みます。そして気持ちよくなってるユウナさんにさりげなくお尻を触りました。……すごい柔らかくて、思わずレイアも息荒立てちゃった」

「マ、マジか……」

「そんで物足りなかったので、今さっき胸を触ってた。本人に支度しないとって止められちゃったけど」


 ユウナさんのお尻をいじめるレイア。そのレイアにいじめられて感じるユウナさん。想像するだけでも鼻血が飛び出そうだ。

 ……っとこんなことをしている場合じゃないな。俺には確かめたいことがある。


「悪い、俺ちょっと薬草を買ってくる。ここで待っててくれないか」

「薬草?」

「ああ、ちょっと実験をね」


 俺は急いで階段を降りていった。

 一階に降りれば、台所で料理をするユウナさんがいる。俺の姿を見た途端、いぶかしげな目をしてきた。


「フユマさん、どうしたんですか? 朝食は?」

「すいません、俺は後でいいので! 実は今すぐに試したいことが!」

「はぁ……試したいこと?」

「ええ! 成功するかは分からないですけど!」


 というか成功したい。そういう想いで外を飛び出した。

 向かったのは至って普通のお店。そこで薬草数本と大きな空き瓶2本を買う。


 そうして人気のないところで【エリアポイントテレポート】を使い、街から姿を消した。

 



 *********************************




「ごめん、ちょっと遅くなった!」


 数分して、俺はユウナさんの家に戻っていった。

 ユウナさんとレイアたちが、テーブルに座って朝食を食べている最中だった。リスのように頬を膨らませたレイアがこっちを見てくる。


ふふは、おほはっはへフユマ、遅かったね

「口に含みながら喋るのはよくないよ……。ところでユウナさん、ポーションの支給に困ったことがありましたよね?」

「ポーション……。確かにコスト面からメディカルに回ってくるのが珍しかったですね。まぁ、それも無理はないかと思い……」

「はい」


 ゴトっとあるものをテーブルに置く。

 それを見たユウナさんが、フォークを持った手を宙で止まらせた。


「そ、それは……」

「ええ、見ての通りポーションです!」


 俺が持ってきたのは、緑色の液体を入れた銀の瓶。

 この液体こそが高価だとされているポーションだ。それが大型の瓶に多く入っている。


「ポーション!? それにこの量となると、貴族でしか購入できないはず……一体どこで!?」

「フフフ……そんなに言うのでしたら実際にお見せします! こっち来てください! あっ、レイアたちはここで待っててくれる!?」

「えっ? フユマ?」


 食事中だったので申し訳ない気持ちだが、実物を見せないことには信用はされない。俺はユウナさんを連れて、裏口から外に出た。

 実は家の中ではスキルが発動できないのだ。瞬間移動系による不法侵入防止のため、その力を阻害する特殊な木材を使っていると言われている。


「行きますよ。【エリアポイントテレポート】!」」

「えっ?」


 ユウナさんがキョトンとしている間に瞬間移動。

 着いた場所はファフニールダンジョン……に用意された俺の部屋だ。


「えっ? ここは? しかもさっきのって……?」

「ああ……ここは山奥にある俺の小屋でして。それよりもこれを見てください」


 さりげなく嘘を吐いてしまったのだが、いきなり魔龍のダンジョンだなんて言える訳もないしな。

 それよりも、もう一回買った薬草と空き瓶を近くの台の上に置く。この台が何なのかはもう言うまでもない。

 そして準備が整ったところで、


「【武装錬金術】」


 スキルを唱えて上の筒を降ろし、台を包み込む。

 そうしてしばらく経って上の筒が上がると、瓶が銀色に染まっていた。そして薬草はその中に入っている。


「そ、そんな……薬草がポーションに……!?」


 そう、薬草がポーションになっているのだ!

 エキスを取り出すとかそういう面倒な作業はない。数秒で薬草からポーションに変えることが出来たのだ。


「フユマさん……これは……」

「スキルですよ。俺はスキルを使ってポーションを製作したんです」

 

 俺はどうにかして金を得る方法を考えた。そしてポーションのことを思い出し、この方法を行き着いたのだ。

 ズバリ本来武器を作り出すはずの【武装錬金術】を応用して、薬草からポーションに変換させるというやつだ。


 もちろん最初は失敗していた。何せ薬草が銀色の金属になって使い物にならなくなっていたのだ。

 これはファフニールがポーションそのものを理解できず、薬草に流体金属を注ぎ込んだのが原因だ。


 どうにか理解させようとして、俺はファフニールに自前のポーションを見せることにした。

 それで彼が床に垂らせとか言ったので垂らしたところ、『なるほど理解した』とすぐに納得したのだ。


 床に垂らしただけで理解できたのかと半信半疑だったが、もう一回試したところ、何とポーションが出来上がったのだ。彼は床に垂らしたポーションを自分なりに解析したようである。

 ついでにスキルの影響で瓶が金属化しているが、まぁ大した問題じゃない。


「スキルって……フユマさんがスキルを!?」

「ええ。色々とあったのですが、ようやく手に入れたんです。それよりもこれを有効活用しようと思いまして」

「有効活用……?」


 ユウナさんが聞き返してくるので、俺は自信ありげに答えた。


「このスキルを使えばポーションが量産できる……。それをギルドメディカルで売るんです!」


 俺が編み出した金の解決方法。

 それが『ポーションビジネス』だ!

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