第32話 このままでは無一文に……

 俺たちはユウナさんの仕事が終わるまで、街の酒場で待機することにした。

 ここでも俺がフユマだとバレてるということはなく、客はもちろんマスターもいつも通りにしていた。ひと安心をしたところ、


「そういえばマスター。あのスキルなしのフユマ、死んだからってハンター資格剥奪されたんよ?」

「ああ、あの陰気臭かった奴か。確か狩猟先で魔物に出くわして喰われたとか。まぁ、あの底辺ならそうなってもおかしくはないか」

「大体そんな奴がハンターになるってのがおかしいんだよ。農業でもしていたら余生過ごせたのになぁ」


 俺がミルク飲んでる間、客とマスターがそんな会話をしていた。


 いつも通りだ。俺がいる時もああやってこそこそ話していたことがある。

 俺がいないことになっても、それは変わらないようだ。


「…………」

「レイア落ち着いて、クールにクールに」


 レイアが立ち上がったのを見て、すぐになだめた。彼女は納得いかなそうだったが何とか座り直してくれる。


 それからユウナさんの仕事終わり時間になったので、渡されたメモを頼りに向かうことになった。

 着いた先は、建物が横並びになったタウンハウスだ。周りの目がこちらに向いてないのを機に、恐る恐るドアノックをする。


「はい……あっ、ようやくいらしたのですね。どうぞ中へ」


 出てきたユウナさんに中を案内された。

 早速入ってみると、小奇麗な印象だ。窓近くには植物や薬草がズラリと植えられている。本棚には医療関係と思われる書物でいっぱいだ。


 テーブルに添えられたポットとかも白く高級。いかにも彼女らしいと感じる。

 

 それとこういうのもなんだが、ユウナさんのいい香りが漂ってくる。何度も嗅ぎたくなるな。

 もちろんそんなことを口にしたらレイアに殺されそうなので、心の中に留めておきたい。


「それで……一体あれからどうしたんですか?」


 テーブルに座ったあと、ユウナさんがお茶の用意をしながら尋ねてきた。


「何というか……俺が魔物に襲われたってことになっているんですけど違うんです。実際はあのパーティーに置き去りにされたんですよ」

「えっ、置き去り?」

「ええ。俺は捨て駒だったという訳です。あいつらはその為に俺を仲間にしたんですよ」

「……まさか彼らがそんな酷いことを……」

 

 ユウナさんが愕然としている。

 あいつら、外面だけはよかったからな。ユウナさんもその本性は見抜けなかったに違いない。


「そういえばあいつら……ああいや、あのパーティーがどうなったのか分かりますか?」

「彼らでしたら、確かこの街を出て行きましたね。そんな話をチラッと聞いたことがあります」

「……そうですか。よかった」


 ということは、あいつらと出会う確率がないということだ。

 心底安心したよ。


「それでフユマさんはそのあと……」

「ああ、それから……まぁ説明は出来ないですけど色々とありまして。こうしてレイアやリミオに出会って生活している訳です」

「ちなみにレイアはフユマと付き合ってます」

「おいおい……まだ付き合ってって言ってないのに……」

「もうしているようなものじゃん」

「そうかな……まぁいいか」


 レイアが俺の腕を絡んでくる。

 本当のところは告白をしたかったのだが、その必要はなくなったみたいだ。少し残念だが。


「…………」

「ユウナさん?」

「……あっ、いえ! フユマさんよかったです! おめでとうございます!」


 呆然とした顔をしていたユウナさんだったが、声を掛けるとパァっと明るい表情で祝ってくれた。

 その反応が気掛かりだったが、でも慕ってくれた彼女から祝ってくれたのは嬉しい。


「それよりもハンター剥奪されたのか……これからどうしようか……」


 ハンター剥奪されてまず困るのは、ズバリお金だ。

 ハンターは魔物討伐、要人護衛などの任務をして初めて報酬金がもらえる。しかし二度とハンターに戻ることが出来ない俺はその収入が絶たれてしまった。


 サーベイさんからお金を渡すようなことを言われていたが、そんなことをさせる訳にはいかない。

 あるいは別の仕事に就くべきか。ただダンジョン攻略の時間が減っていくのかもしれないし、本当に困ったものだ。


「はぁ……本当にどうしよう……」

「それはゆっくり時間かけて、どうするか考えましょう。きっとフユマさんならいい方法が見つかるはずです」

「……そうですかね。まぁ、そう信じたいです」


 こんな時にユウナさんの慰めが身に染みるよ……。


 彼女のような理解者がいて俺は幸せ者……なのかは分からないが、少なくともみじめではないはずだ。

 あまり悲観に暮れるのはやめておこう。大丈夫、俺にはまだまだチャンスがあるはずだ。


「ところでお金がもらえないとなると、宿には泊まらない方がいいかもしれませんね。よろしければこの家に泊まりませんか?」

「……へっ、家? ここ?」

「ええ、2階に空き部屋があるので。レイアさんとリミオさんは私の部屋でよろしいですか?」

「……いやいや!? 女性の部屋に泊まるだなんてそんな!? それに俺は客の1人でしかないし!!」

「いえそんな。今のフユマさんの状態を見て、協力しない訳にはいきません。それは私自身が許さないのです」


 そう真面目そうに答えるユウナさん。

 そこまで言われたら……。


「じゃ、じゃあ……レイアたちもいいかな?」

「別にいいよ」

「私も」

「ありがとうございます。それよりもそろそろお腹がすきませんか? 今から軽めの食事を用意しますね」


 ユウナさんがテーブルから離れる。

 まさかギルドメディカルのマドンナの家に泊まるなんて……そろそろ呪い死んでもおかしくないな俺。


「……あの人、やっぱり優しいよな」

「レイアもそう思う。でもそれはフユマだからってのもあるかも」

「俺だから? どういう意味なんだレイア?」

「その通りの意味だよ」

「?」


 俺だから? もしや俺以外だったら、こういうことにならなかったということなのか?

 うむ……謎が深まるばかりだ。




 *********************************



 

 その日の夜。


 ユウナさんお手製の美味しい夕飯を食べたあと、俺は用意された部屋で寝ることになった。


 元々ユウナさん宅には同僚や友人がよく来るらしく、その為に予備の布団などが用意されていたらしい。

 ともあれ今日のところはぐっすり寝たかったのだが、これが中々寝付けない。どう考えてもクズパーティーあいつらのせいだ。


「あいつらさえいなければ……」


 なんてひとりごちるが、それでどうにかなるほど現実は甘くはない。

 それにあいつらによって捨て駒にされなければ、ファフニールダンジョンやレイアにも会えなかったのだから複雑だ。


『相当怒り狂っているな。そのパーティーを断罪したいと思っていると見た』

「そりゃあ社会的に抹消したいさ。もっともそんなことが出来たら、とっくのとうにやれているけど……。ていうかそれよりも今後の生活だよ。このままじゃ無一文だよ」

サーベイ犬っころがお前を養うと言っていたのだがな。甘えてもらえばいいのでは?』

「あのなぁ、そんなのヒモと言うんだよ。サーベイさんにそんなことをさせられるかよ」


 剣(に宿っているファフニールの意思)と喋っているところ、ユウナさんに見つかったらヤバい人扱いにされそうだな。

 

 それよりも問題は金だ。ダンジョン攻略するからには、薬草やポーションの常備、装備の整備など色々必要になってくる。

 まだなくはないが、無一文になったら何も出来なくなるのだ。


「そういえばポーション、俺買えないんだった……」


 もしギルドメディカルがポーションを販売したとしても、俺は買えないのだ。あれはハンター資格のある者じゃないと購入できない仕組みだ。

 この場合調合すれば何とやらってのがお約束だが、そうもいかない。そんな上手くいっていたら、どのハンターもポーションを持っているはずだ。


「……ポーション……調合………………ん、調合……?」

『……どうした?』

「なぁ、ちょっと確かめたいことがあるんだけど……」

 

 一つだけ、あることを思いついたのだ。

 それをファフニールに話してみると、


『ふむ……必ず成功するとは言い難いが、しかしやる価値はあるな』

「……そうか……それなら……」


 これが出来るのなら、もしかすれば金が得らえるのかもしれない。

 不安もあるが、それ以上にウズウズとした期待感が俺をたぎらせた。

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