第28話 ファフニールダンジョンの魔物連戦

『さすがフユマとレイアだ。ものの数秒でアーマーゴブリンを全滅させるとは』


 ファフニールのお褒めの言葉が響き渡った。


 倒れ伏したアーマーゴブリンたちが、ドロドロに溶けて元の流体金属へと変わった。

 初めて見た現象だが、もしかしたら他魔物の死骸も自分が見ていない間にそうなっていたのだろうか。


 死骸が完全になくなったあと、奥の扉が開かれる。

 第一ラウンド完了といったところだな。


「ふぅ、どうでしたリミオさん」

「……理解が追い付かないわ。というか両者の戦い方、もはや別ハンターとは別格だわ」

「具体的にどんな感じ?」


 レイアが尋ねると、リミオさんがビシッと俺の鉤爪ガントレットを指差した。


「まずそれ! 武器を変化させるスキルなんて聞いたことがないわ! いや、それがファフニールから受け取ったものだってのは聞いているけどさ!」

「ですよね!? 俺も最初はこのスキルヤバいとか思ってたんですけど、自由に武器を変更できるのが楽しくなったんです! 何か俺にとっての特殊スキルって感じがありますし!」


 そうやってスキルについて驚かれると、こっちもテンション上がってしまうな!

 リミオさんの反応は割と好きだ!


「それにレイアちゃんの炎魔法! それって魔物界隈でも発現確率が希少という蒼炎じゃないの! 何でサーベイ様はそのことを言ってくれたのかしら!?」

「お父さん言ってなかったんだ……でもありえそう……」


 レイアには同感だ。きっとサーベイさん、リミオさんの驚くことを期待して黙っていたことだろう。

 口で伝えるより娘の実力を見せた方がよりインパクトがある。何より娘の株上げにも繋がる。


 娘想いのサーベイさんらしいと言えばらしい。


「でもやっぱり、フユマ君のスキルは素晴らしいわ……。そりゃあサーベイ様が評価するはずよ」

「いえいえそんな、リミオさんからそう言われると照れますね……」

「どうもね。もしよかったら、私のことはリミオでいいから。あと敬語もしなくていいし、私もフユマって呼ぶから」

「えっとはい……じゃなくてうん、そうする」


 俺がタメ口にした途端、微笑むリミオ。

 嫌だこの人……笑顔が綺麗だ……。


「……レイアも」

「ん?」

「レイアもちゃん付けしなくていいから」


 その時である。

 レイアがリミオさんにぎゅっと抱き締めた……! お互いの胸が押し付け合って潰れていく……!


「うーむ、まるで友達に対してというより怒っているような感じね。それなのに昨日みたくくっつくのが不思議だわ」

「怒ってない。あと今後はリミオって言うから」

「はいはい、本当に可愛いなぁレイアは」


 ……百合というのは、これほどに素晴らしいものなのか。


 何か意味深な会話をしているが、それよりも彼女たちのラブラブさに俺は圧倒された。

 愛している彼女が美人と戯れている。本来なら嫉妬とかそういうのが芽生えるのが劇かなんかのお約束だがこれは違う……萌えそうだ。


「次行こう、フユマ」

「お、おう……!」


 そのレイアに言われて、声が裏返ってしまった。そうだな、早くに次の部屋に向かわないと!


 部屋に行ってみると、こちらもまた闘技場のような場所……というかさっきのと瓜二つだ。

 そしてここから出てきたのは、3体の新種魔物――『アーマートータス』という鎧の甲羅を持った巨大カメだ。こちらは甲羅の縁が刃になっていて、回転しながら突撃をしてくる。


 俺は鉤爪ガントレットからハンマーに変え、甲羅ごと叩き割った。

 レイアも遠距離から蒼炎『砲』を放ってくれて、何とか全滅。


『これも楽勝だな。ちなみに言っておくが、このフィールドは先ほどの入れて8部屋存在する。さらに先に進むごとに魔物のレベルと戦闘力が上がってくる仕組みだ』

「今はどのくらいだ?」

『最初のアーマーゴブリンが4レベル。アーマートータスが8レベル……つまり進むごとに4つ増える』

「最後は32レベルかよ……」


 俺……今は26レベルだよ……。最後の部屋に行くまでレベルアップするかな……。


 なんて嘆いてしまうが、かといって先に進まない訳にはいかない。

 今度は大群で押し寄せる『アーマーハーピー』。ビッグゴブリンのアーマー版『アーマービッグ』数体。『アーマーオーク』数体。『アーマーマンティス』数体……。


「くっ……!」


 アーマーマンティスの攻撃をかわし続けるレイア。その鎌が床に突き刺さるたび、金属の破片をまき散らしていった。

 それから蒼炎『砲』でマンティスをのけぞらしたが、そいつが癇癪を起こしたかのように暴れだした。その鎌が俺に向かったが、


「【エリアポイントテレポート】!」


 鎌は俺に当たらなかった。

 俺はマンティスの首根っこ、その後ろに立っている。


《シュルウウウ!?》


 マンティスにとっては訳が分からないだろう。でも理解させる前に、鉤爪を首目掛けて振るう。

 アーマーマンティスの首が切断されてずれ落ち、残った身体も倒れた。


 ――【Lv27】獲得


「……おっ、27レべになったか」


 ステータスカードを確認してみれば、レベルが1つ上がっていた。

 ただ最終部屋行くまでに30なるのか微妙だが……。


「それよりもレイア、大丈夫……」

「……ハァ……ハァ……」

「じゃなさそうだな……」


 レイアが汗を垂らしながら上下に動いていた。


 俺にも言えることだが、いかに優れた魔法やスキルを持ってしても、結局はただの人間には過ぎない。体力増強のスキルがあるならともかく、これだけ連戦となるとレイアも疲れるはずだ。


 俺はまだ戦えるが、彼女はこれ以上危険かもしれない。


 と思っていた時、俺はとんでもないものを見つけてしまった。


「レイア!! 腕から血!!」

「……へっ? ああ多分、さっき飛び散った破片のせい……」


 レイアの左腕から血が垂れているのだ。

 そんなに傷は深くはないと思うけど!


「今すぐに消毒しないと!! 動かないで!!」

「いや……これは舐めれば……」

「駄目だよ! ちゃんとした処置をしないと膿が出るんだから!!」


 すぐに気付かなかった俺が馬鹿だった! 好きな子に傷なんて!

 残り1本だったポーションを取り出して、少量をレイアの傷にかける。そして血を拭き取れば綺麗さっぱり傷がなくなった。


「ふぅ……、今日はここまでにしようか。レイアもだいぶ疲れただろ?」

「……うん疲れた……」


 とりあえず魔物連戦はいったん中止と。


 にしても3本あったポーションがあと1本……しかも半分になったとは。そう遠くないうちに切れてしまうのは目に見える。

 コスト面からそう易々買えるものじゃないのは分かっているが、しかしハンターとしては数本とっておきたいものだ。それにこの攻略には大怪我を伴うのだから、少量回復の薬草では補えないはず。


 となるとだ。

 

「……ファフニール、【エリアポイントテレポート】ってどれくらいの範囲なんだ?」

『【ワープ】と同じだろう。二日三日かかる遠くの場所でも機能はする』

「そうか……だったら行ってみるか」

「どこに?」


 リミオさんが聞いてくるので、俺はすぐに答えた。


「俺が元いた街。『サージア街』というやつだけど」

「街……でもフユマ、そこで冷遇されていたんじゃ……」


 そう、俺はその街でステータス鑑定を行い、スキルゼロ剣士として知らされることになった。


 そのあとはレイアの言う通りのことが起こっていた。しかもそこであの外道パーティーと出会い、森に捨てられる要因になったことさえも。

 正直あそこに行きたくないのだが、かといってそうもいかないのだ。


「全員が全員、俺を馬鹿にしていた訳じゃないってのは聞いたよね? そんな人がギルドにいるから、せめて顔は出しておきたいなって。ポーションも場合によっては買えるかもしれないし」

「ギルド? どんな人?」

「まぁ、そこは行ってのお楽しみかな」


 ここで言ったら何かつまらない気がしたので。

 街にはいい思い出はないが、その人だけは別だ。


「ただ住人には割れているから、なるべく顔を隠したいな……」

「それなら私のマントがあるから、それを使ってもいいわ」

「そうなんだ、ありがとうリミオ。じゃあファフニール、行ってくるからな」

『ああ。面倒事が起きたら私に相談するといい。いつでも力になるぞ』

「その力ってやつ、絶対に『物理』ってのが付くだろ」


 妙に期待してそうな台詞を言ってくれる。

 こいつ、もし俺が面倒事に巻き込まれたらロングソード経由で解決しようとするだろう。主に武力的に。


 でも今から行く街に、そんなことが起こらないと限らないのが怖いところだ。

 用心に越したことはない。


「移動したら周りの人がびっくりするだろうし、路地裏の方がいいよな」

「……もし何かあっても、フユマはレイアが守るから……」

「一応フユマの経緯は聞いているけど、サーベイ様を評価する人に悪いのはいないからね。もっと自信を持ちなさい」

「……レイア……リミオ……」

 

 2人とも……ありがとうな。

 正直不安があったが、これなら問題なさそうだ。それに俺はもう無能なんかじゃない。


「じゃあ行こうか」


 そう言って、俺たちはサージア街へと瞬間移動した。

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