第29話 ギルドにいるフユマの知り合い
ファフニールダンジョンから、暗い影がある場所へと到着した。
見渡してみると、周りにはずらりと建物が並んでいる。それが光をさえぎって影を作っているようだ。
「着いたの?」
レイアへと答える代わりに、そっと建物から覗いてみる。
すると我ながら神妙な顔になってしまった。
「うん、着いたみたいだな」
田舎の木造
その中を行き来する白人、黒人、獣人など多種多様な人々。
目の前の光景は忘れようがない。
俺がハンターとしての本拠地にしていた都会『サージア街』だ。
「ここがフユマが言ってた街……?」
「ああ、俺がクエストをしていた頃と変わってないよ。当然だけど」
実際、あの森で放置されてから1~2週間は経ってないのだ。
ファフニールダンジョンの発見と詳細、レイアとの出会い、新しいスキル獲得。そういったことが目まぐるしく起きたのだから時間感覚が狂ってしまったようだ。
「とりあえずこれを付けてっと……大丈夫かなぁ……」
「うん、バッチリと思うわ。フユマは顔が中性的だからイケるって」
「とは言うけど、女物のマントって……」
今羽織っているマント。色が暗い赤で花の装飾があったりと、どうみても女物です本当にありがとうございました。
借りた側だから文句は言っちゃいけないけど……。
「まぁ……これで何とかしてみるか。行こう二人とも」
マントで顔を隠して……これで完璧のはず、多分。
俺は恐る恐る路地裏から出てみた。もしバレたらもうここにはいられないだろうし……と思っていたら、誰もこちらを見ることはなかった。
どうやら変装は成功しているらしい。
街の住人も、まさかスキルゼロ剣士が戻ってきたなんて思ってもみないだろう
「レイア、せっかく街に来たんだし、何か寄っていきたいところとかある?」
「別に。早くギルドに行こう」
「いいのか? 別に遠慮はしなくていいのに」
好奇心がありそうなレイアがそう言うなんて意外だな。
「遠慮じゃない。フユマを馬鹿にしていた街なんて寄っても楽しくないし」
「確かにね。スキルの有り無しで態度を変える街なんて、たかが知れているわ」
し、辛辣……別にそこまで思わなくても……。
まぁ、2人がそう言うのならギルドに直行しよう。ここからだと北の方に行けば見つかるはずだ。
道を進んでいても、誰1人俺に振り向こうとはしなかった。そんなに女物のマント姿が似合っているのだろうか……というかそれって、俺が女と思われるって証拠か?
モヤモヤな気分だったが、そうこうしている内にハンターズギルドが見えてきた。
が、
「……フユマ?」
「……いや何でもない」
一瞬だが立ち止まってしまった。そうしたのは自分でも分かっている。
ここで俺はステータス鑑定を行い、そしてスキルも魔法もないことを知る羽目になった。ある意味では全ての始まり、ここから俺の絶望が始まったといっても過言じゃない。
その絶望をさらに加速させたのがあの外道パーティーだが……あいつら今もこのギルドにいるだろうか?
ハンターは街に滞在するタイプと、土地から土地に旅するタイプに分かれている。俺はどちらかというと前者のタイプだった。
あいつらはどうだっただろうか。そういった話を聞いてなかったから、この街にいるのかあるいは出ているのか分からない。
もし奴らがこの街にいるとしたら、俺はどんな反応をするのだろう。
「……考えても仕方ないか」
「?」
「ううん、独り言。気にしなくて大丈夫だよ」
首を傾げるレイアの頭を、ポンと叩いた。
キュッと目を閉じるレイア、マジ可愛い。これだけでも元気になったので、意を決してギルドの中に入った。
「姉さん、このクエストやりたいんだけど!!」
「はーい、ワイバーン討伐ですね! 契約料は銅貨10枚になります!」
「かんぱーい!!」
「おい、俺のつまみ取るなよ!!」
うん、全く変わらない。掲示板に貼られたクエストを見ているハンター、ハンターの対応している受付嬢、そして中に設置された酒場の賑やかさ。
最後に立ち寄った時のまんまだ。
「なぁ、ここから北にあるっていうダンジョン。あそこに『スカイドラゴン』が襲撃したって話聞いたか?」
「ああ、聞いてる。あれって本当の話なんだ?」
「目撃した人もいるからな。明らかに外から来た奴だから、ダンジョン占拠が目的なんだろうって」
「ダンジョン所有争いが起きているというからな。ありえるかも」
ふと、ハンターたちがひそひそと会話をしていたのが聞こえてきた。
そういえば街にも最寄りのダンジョンは存在していた。ただレベル30~35じゃないと受注できなかったのは覚えている。
その所有を巡って魔物たちが争っている。サーベイさんの言ったことがこちらにも起きているようだ。
まぁ、最寄りと言ってもかなり遠いから被害はないと思うが。
それは置いといて話を戻そう。
このギルドは何も変わっていない。名物であるボディーガードの男もだ。
出入り口で仁王立ちしている巨漢で、日に焼けて瑞々しい筋肉を持っている。彼は元ハンターで、ギルド内で問題事を起こした際に解決(物理)をしている。
実際に受付嬢にセクハラしているハンターをぶちのめしたのを見たことはあるが、あれは壮絶だったな……。
こっちを見下ろしてくるので軽く会釈した。
いつ見ても彼の眼力が怖いから、通るたびにビクビクしていたっけ。
「それでフユマ、会いたい人って誰かしら?」
「ああ、あれ。異動がなければいると思うけど」
俺が指さしたのは、カウンター近くにある部屋。
暖簾でさえぎられていて、近くには文字付きの看板が置かれていた。
「ん、『ギルドメディカル』……ああ、ギルド内の診療所ってことね」
「そうそう、ハンターって怪我をするじゃん? だからこういった怪我を治す診療所がよくあるんだよ」
よくあるといっても、田舎には予算の都合で置かれていない場合がある。大抵は都会に集中しているらしい。
さらには薬草やポーションも売られていることもある。ポーションは一週間おきの限定発売であり、それが販売された途端にハンターの行列が生まれるほど人気が高い。
うんちくはここまでにして中に入ってみると、大きな声が発せられた。
「あの、前から君のことが好きでした! どうか僕と付き合ってください!!」
あからさまに告白である。
俺と同い年だろう少年ハンターが言ったらしく、それに対して椅子に座った女性が驚いていた。
「えっ!? えっと……申し訳ありません。仕事がありますので」
「仕事でしたら一生懸命手伝いますので! 友達からでもいいので!!」
「でも……私そういうのは……」
「大丈夫! ちゃんと君を愛し…………」
と、少年ハンターの口が止まった。
俺には分かる。出入り口にいるボディーガードが彼をにらんでいることに。
「……クッ、クソおおおお!!」
少年ハンターが泣きそうな顔をしながら、ギルドメディカルから出てしまった。
少年よ……ご愁傷様。君にはもっと相応しい彼女が出来ると思うよ、多分。
「ふう……ああ、失礼しました。そこの椅子に座って容態をお聞かせ……」
「お久しぶりです、ユウナさん」
「……えっ、その声……もしかしてフユマさん……?」
絹のようなきめ細かい銀色のロングヘアー。まるで自然を思わせる澄んだ緑色の瞳。
おっとりとしたお嬢様然とした美貌に、純白の服と青いスカートという清楚な衣装。
ギルドメディカルの医者であり、このギルドにおけるマドンナ。
さっき言った通り、名前はユウナさんだ。
「はい、俺です。フユマです」
他人に見られる可能性を考慮して、マントから少しだけ顔を見せるような形になった。
それでもユウナさんはちゃん確認して、信じられないと言わんばかりに目を見開かせた。
「本当にフユマさんですね!? 幽霊とかではないですよね!?」
「はい、この通り生身で……ん、幽霊って?」
「あっ、いえ……実はあなたがクエスト先の森で死亡したというのを聞いたのです。不運にも出くわしてしまったヴィーヴルにやられたとかで……」
「……あいつらだ……」
そんな報告をするなんて、あの外道パーティーしかいない。
あいつらは俺を置き去りにした挙げ句、死んだことにしてギルドに報告したんだ。しかもあいつらのことだ、その置き去りにした事実を隠蔽しているはず。
「報告した連中のこと、どんな感じでした?」
「はい、確かいつもフユマさんといたパーティーでした。何だか悲しそうな顔をしながら、受付嬢に報告していたのを覚えてます」
「……あいつら……俺の死を偽装しやがって……クソッ!!」
熱したお湯のように、俺の怒りが膨れ上がった。
衝動のまま足踏みをしてしまった。その振動で、机に置かれた羽ペン入れが跳んで転がる。
……しまった、つい見苦しい姿をさらけ出してしまった。こんなことしても何もならないのに……。
周りを見てみると、レイアとユウナさんが唖然としている。リミオは思うところがあるようにじっと見つめていた。
「すいません……」
「いえ……何か、訳があったのですね……」
「まぁ……」
急いで羽ペン入れを立てたあと、深呼吸リラックスして、頭からあのクズどもを消去させる。
気持ちを切り替えよう……とりあえずユウナさんと再会したんだ。明るい話をしないとな。
「まぁ、この通りピンピンしてますので、これからもハンター稼業を継続しようかなと。もしかしたら他の街でするかもしれませんが」
いくら野宿でしのいでいたとはいえ、やはり金は必要だ。
それと人の目があるから、今後は別の街でハンター稼業をしようと思っている。もしユウナさんに会いたかったら【エリアポイントテレポート】を使えばいい。
「…………」
「……ユウナさん?」
ユウナさんの美貌が曇るのがハッキリと分かった。
さっきまでの意気揚々が消えて、嫌な予感がしてきた。するとユウナさんが顔を上げてくる。
「言いにくいのですが……フユマさんが死亡扱いになったということで、ハンター資格が剥奪されているのです……」
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