第21話 レイアさんパネェっす!

「「…………」」


 沈黙。

 俺たちは唖然に似た沈黙をしてしまった。口が開きっぱなしだ


 天井を見てみると穴が開いている。これは今さっき、レイアの手のひらから放出した青い炎によるものだ。

 青い炎……普通の炎魔法は赤い色をしている。それが青ってことは……。


「……レイアすごいじゃないか!! 『蒼炎』って言やぁ、普通の炎の上級版だよ!? えっと、サーベイさんも蒼炎なんですか!?」

「い、いや……儂は通常炎だ。もちろん魔物やハンターのとは比べ物にならない威力だが」

「ってことは、この場で蒼炎出せれるのはレイアだけってことなんだ! それって誇ってもいいことじゃないかな!!」


 俺は興奮のあまりレイアに叫んでいた。

 そう、青い炎……いや蒼炎は通常炎を超えると言われている高位法だ。通常炎よりも威力、熱量ともに高く、燃やせないものはほとんどないとも。


 その反面、それを扱える人間は滅多に存在しない。

 俺ですら、文献でそういった魔法が存在するとしか認知していなかったほどだ。


「しかもファフニールの流体金属で出来た天井を溶かすなんて……かなりヤバいじゃないか!?」

『そうだな。流体金属で出来たものを破壊できるのは、いまのところ同じ金属で生まれた眷属魔物、そしてフユマとレイアくらいだ。ただアーマースライムのような最下級なら普通のハンターでも倒せれるが』

「だってさ!! いやぁよかったよ、君の魔法が出せてさ! あっ、何か身体に異常とかある!?」


 レイアはこくこくと無言で頷いた。

 彼女も自分の能力のすごさに驚いていることだろう。もし俺が彼女に立場だったら、夢だと疑うところだ。


「お嬢、よかったです! 俺たちとしても嬉しいです!!」

「儂も蒼炎使いということに誇らしく思うな! よくやった、レイア!」


 ワーウルフやサーベイさんもレイアを祝ってくれている。

 まだ彼女は、現実味がないと言いたげな顔で彼らを見ていた。これは声をかけた方がいいと、俺はレイアの肩を叩く。


「現実だよ。君は俺やどのハンターよりも優秀なんだ」

「……フユマ……」


 か細い声がしたあと、俺の胸に重量がかかる。

 レイアが自分の身体を俺に預けてきたのだ。


「……ありがと」


 顔が胸に埋もれているので、表情は窺い知れない。

 しかしどんな感じなのかなんてのは、長い時間いた俺には容易に想像できる。嬉しそうな、そして感謝しているような顔だろう。


 それに本当に可愛い。可愛すぎて困る。


 俺はゆっくりとレイアの頭を撫でた。対して彼女が顔を上げて、その色白の頬に紅を刺していく。

 

 ……はあ……もう駄目、尊い。君はまさしく尊いよ……。


「……あっ」


 と、俺の手がストップしてしまう。

 レイアを慈しむあまり、サーベイさんたちがこっちを見ていることに気付くのを遅れてしまった。


 全員、真顔になってらっしゃる……。


「え、えっと……と、とりあえず城に戻りましょう! レイアの魔法を詳しく見る必要が……」

「ここで試す」

「えっ?」

「ここの魔物で試す」


 提案を口にした時だった。レイアが俺から離れたあと、そう簡潔的に言ったのだ。

 魔法を扱えたばっかりなのに、そんないきなり?


「ここの魔物で試す」

「いや二回言わなくて大丈夫だから。それよりもレイア、魔法を使えるようになってからと言っても、今すぐ実戦するってのはさすがに早いよ。もうちょっと時間を置いてからやった方がいいじゃないかな?」

「フユマさんの言う通りだ。別にそこまで急がなくてもいいし、今日のところは城に帰って休んだ方がいい」


 サーベイさんもそう言ってくれているのだ。よした方がいいって。

 しかしレイアは毅然きぜんとした態度を変えず、実の父親を見上げた。


「レイアはフユマに助けられてきた。そのフユマがこのダンジョンを攻略しているから、すぐにでも協力したい……一緒に戦いたい。だからファフニールの眷属魔物で小手調べがしたいの」

「……レイア」


 この子、なんて健気な。

 そうだよな。守られるというのはすごい苦痛なことなんだ。俺がそうなった場合、苛立ちで歯がゆい思いを募らせるのかもしれない。


「……分かった。君のその意志を尊重するよ。」


 力を付けたいというのは至極当然。

 彼女だって守られる立場ではいられないということだ。


「ありがと……。ファフニール、とりあえず何か魔物を用意して。それで戦いたい」

『いいだろう。レイアのその覚悟に免じて、最適な場所を用意しよう。まずは私の部屋から北北東の通路を通れ』

「うん、お父さんいいね?」

「……そうだな。以前のゴルゴンデリアみたくレイアを付け狙う連中が出てくる。護身術は付けていても損はないだろう」


 さすが親御さんだ。

 最初は否定していたが、最後には娘を尊重してあげる。まるでハンターになりたいと言った時の俺の両親みたいだ。


 俺たちはファフニールが指定したルートへと進むことになった。こちらはまだ入ったことがないから、どんな様子になっているのかはよく分かっていない。


 次第に奥が見えてきたが、何と鉄柵が張り巡らせていた。牢屋か何かだろうか? 


 そこに着いたあとに中を覗いてみると、まるで闘技場のような広いフィールドがある。ちなみに制御装置の類はなさそうだ。


『ダンジョンを攻略しているフユマには用がない場所だが、まぁ訓練場にはなる。ここから出てくる魔物を倒せばクリア、たったそれだけだ』

「分かった。鉄柵を開けて」


 鉄柵が天井へと収納される。

 レイアがその中へと躊躇なく進んだ。俺たちもあとに続いたその時、周りの地面が何個も盛り上がった。


 その盛り上がり……いや流体金属が徐々に形どられ、異形の姿になる。

 それはどう見ても、ハンターなら見慣れたワイバーンだった。


『「アーマーワイバーン」。小手調べにはもってこいの相手だが、数の暴力を得意としてな。油断しているとたちまちやられるな』


 アーマー系魔物の例に漏れず、ワイバーンに鎧を付けたような姿だ。

 頭頂部には緑色の単眼。そしてやはりアーマーグリズリーのように生物的な印象はない。


 そんな魔物が数十もいて、レイアの周りを取り囲んでいた。


「よく聞けレイア! 蒼炎には中距離の【剣】、遠距離の【砲】、近距離の【けん】の三つが存在する。それらを上手く使い分けるんだぞ!」

「うん。じゃあ、どこからでもかかってきて」


 サーベイさんに返事したあと、ファフニール製ガントレットを掲げるレイア。


 ワイバーンが一斉に飛び上がった。お得意の火球攻撃でもすると思いきや、翼の表面から欠片がこぼれた。

 それがレイア付近へと落ちる。


 ――ドドオオンン!!


「うわっ!? 爆発!?」


 欠片が爆発して、レイアを包み込んでしまった!

 ということはあれ、爆弾なのか!?


「おいファフニール!! ワイバーンが爆弾出すなんて聞いてないぞ!?」

『野生のワイバーンと一緒にしては困る。そもそも普通の魔物と違うのは、アーマースライムで経験済みだろう?』

「そりゃあそうだけど! レイア大丈……」




「蒼炎【剣】」


 とその時、黒煙の中から放出される蒼炎。


 まるで剣のような形になった蒼炎が、1体のアーマーワイバーンを貫いた。まともに喰らったアーマーワイバーンが穴を開けられて墜落。

 さらに黒煙の中からレイアが現れた。蒼炎は彼女のガントレットから放出されたものだ。


 彼女が蒼炎のリーチを伸ばし一回転。それによって数体も斬り刻んだ。


《キュオオオオンン!!》


 ワイバーンが口を開け、固形物のようなものを吐き出した。レイアが回避すると爆発したから、あれも爆弾らしい。

 またしても爆弾がレイアに向かうも、彼女は【魔力障壁】で防御する。そして爆発を放った個体を斬り落とす。


 ……気のせいだろうか。

 今のレイア、口角が上がっているような気が。


「あの、レイア?」

「蒼炎【砲】」


 俺の声が聞こえてないかのようだ。

 それどころか、ガントレットから弾丸状の蒼炎を発射。アーマーワイバーンを撃ち落とす、撃ち落とす、撃ち落とし続ける。


《キュオオオアアアアアアアアア!!》

「フフッ……」


 ……笑っている。あの大人しいレイアさんが笑ってらっしゃる……。

 魔法が使えて嬉しいというのもあるはずだ。しかしどうみても戦いを楽しんでいるようにしか見えない。まるで戦闘狂のごとし!


 自分の顔がひきつってしまうのが分かってしまった。

 そのままサーベイさんに振り向いてしまうも、彼が居心地悪そうにそっぽ向いていた。


「……まぁ、儂は武闘派だからな。今まで城を狙ってきた魔物を蹴散らしたのを、この子は遠目で見ていたんだ。しかもそれに対して泣かなかったどころか楽しそうにしていてな」

「…………」


 子供は親の影響を受けやすい。

 うん、半魔でも例外じゃなかったということか。

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