第20話 レイアの武器を作る
「さてと、それ貸してくれない?」
という訳でレイアの為の実験開始だ。
まずワーウルフが持っているクロスボウとロングソードから。
クロスボウは弓の下部に台座を取り付けたもの。これに矢をセットしてから台座の引き金を引くと、矢が発射される仕組みだ。弓矢が引けない初心者用として開発されたとか。
ロングソードは俺が持っているやつと同じタイプ。これでどうなるのか試してみたから、本題に入りたい。
ファフニールの説明通り、この台に組み合わせたい武器を置く。
そしてスキルを唱えれば上の筒が降りてくるんだったな。
「【武装錬金術】」
筒がゆっくりと降りて、武器を隠すように包み込んだ。
数秒して筒が上がっていくと、中から白い煙が立ち込める。その中を覗いてみると、
「……が、合体している!?」
これは驚いた! ソードとクロスボウが一体化している!!
ベースはクロスボウだが、弓の代わりにソードの刃が取り付けられている。それに全体が銀色に染まっていて、彫刻じみた装飾も施されていた。
なるほど、これがこの【武装錬金術】の効果というやつか。こうやって異なる素材を組み合わせて、全く新しいものにする。
確かにこれは錬金といってもいい技だ。ダンジョン経由とはいえ、俺は伝承の力を手にいれたんだ!
やばいやばい……笑いすぎてよだれが出てしまいそうだ!
「フフフフッ……フフフッ!」
「レイア、彼どうしたんだ?」
「興奮して笑っている。そっとしといて」
レイアとサーベイさんの声は聞こえているが、それはさておき。
やっぱり俺はスキルが好きなんだ! ダンジョンを制御する能力とか錬金術のような能力とか、どれも個性的だ!
さっきまで思っていた不安が消えていく気分だ。少し元気が出てきたよ。
改めて、試しに合体武器を持ち上げると意外や意外、金属のような見た目ほど重くはない。
そういえば、アーマースライムが取り付いたロングソードもそんなに重くなかったのだから、ファフニールの一部=奴の言う流体金属は軽い性質があるかもしれない。
「にしても武器が一体化するなんて……フユマさん、何をしたんだ!?」
サーベイさんの3つの頭部が迫ってくる。
怖い顔が一斉に来るから内心びっくりだ。でも驚きよりも嬉しさが勝っている。
「スキルですよ。初めてやったんですけど、俺こんなすごいやつを持ってたんです!」
「確かに! 錬金術なんてのは伝承やおとぎ話の中だし、そんなものを持っている奴なんて見たことがない! 君、やるじゃないか!!」
「ハハッ、どうも!」
この時、頭の中に分泌されるという興奮物質に侵されている状態だ。
冷静になったら色々と悶絶するかもしれん。
「それにしてもこれ、弓がないとなるとクロスボウの役割がなってないような……」
『刃の下部に砲身が見えるだろう? 引き金を引けば、そこから矢を放つことが出来る』
「あっ、本当だ。ここから撃てるのか」
確かに刃の下部に細長い砲身があった。
それからファフニールが『試しにこいつらを撃て』と言うと、目の前の床から3体のアーマースライムが現れる。
俺は奴らに照準を向けて引き金を引いた。直後として銀色の矢が砲身から飛び、1体に突き刺さる。
矢が結晶化しつつ破裂。
その余波が残り2体も巻き込んで四散。アーマースライムは全滅した。
「「おお……!」」
俺を含めサーベイさんたちが唸った。
これはすごい!
『矢は砲身の内部で生成される仕組みだ。流体金属製だから弾数も無制限』
「それ本当にヤバいだろ!? よくこんな実用性のある感じになったな!?」
『私の方で仕込んでやったからな。多少なりともそういうことは出来る』
「何て気前のいい……!」
ファフニール、あんたここまで太っ腹だなんて思わなかったよ。嫌いじゃないな。
ともかくこれは近距離よし、遠距離よしの万能武器なんだ。
しかも矢は流体金属製だから弾数を気にしなくていい。こんなの武器屋が見たら大騒ぎってところじゃないな。
……でもまぁ、これはあくまで本番に向けての実験。この武器をどうこうしようという訳ではない。
「レイア、これよかったらいる?」
「いい……。あまり武器を振り回すのは好きじゃない……服に血が付くから」
「ああ、なるほど。じゃあサーベイさん、よろしければいただきますか?」
「何、いいのか? 君が持っていた方が……」
「いえ、俺にはこれがあるので。別に大丈夫ですよ」
俺には【メタル斬り】と【
これで事足りるだろう。
「そう言うのなら……。おい、持ってやれ」
「はい。うわ、軽っ! しかもかっこいいな!」
「おい、俺にも持たせろよ!」
嬉しそうに合体武器にたかるワーウルフ。俺の作った武器ではしゃぐところが愉悦を感じてしまうな。
これでハッキリしたが実験は成功だ。あとはレイアの方になる。
彼女の魔法をいかに出しやすくする方法……このスキルなら何とかなるはずだ。
「そういえばファフニール、一つ聞きたいことがあるんだけど」
ただその前に、ファフニールに確認したいことがあった。
これ絶対に聞かなくてはならないのだ。
『どうした?』
「お前、自分の力を受け継いだ者がそれに耐えきれずに死んでしまうって言っていたよな? それって、今作るものをレイアが付けてもそうなってしまうのか?」
これが一番怖かった。
もしそれを付けて、レイアが苦しんでしまったらと思うと正気でいられない。
「耐えきれない? どういうことだファフニー……」
「お父さんは黙ってて」
レイアがサーベイさんを落ち着かせる。
同時にファフニールが答えた。
『その心配はない。そもそもそれは私の力をスキルに変換した時に起こるものだ。レイアの場合は外付けの力を使用するものだから、悪影響は一切ないと言ってもいい』
「本当なんだな?」
『嘘偽りないことだ。そもそもフユマに対して騙したことがあったのか?』
「……まぁ、それもそうだよな。悪い、疑ったりして」
『別に構わん』
ファフニールが嘘つきなら、俺はもうとっくに死んでいるのだ。
レイアのことが心配だったといえ、ファフニールを疑いすぎたな。反省の念を覚えながらも作業を進めることにした。
まずは魔法の杖だ。次にガントレット。
その2つを台に置いたところで、俺は手を顎に添える。この魔法の杖でもレイアの魔法を引き出すことは出来なかった。つまり組み合わせても効果がない確率が高い。
このままやってしまうよりも、何かひと手間加えたいものだ。
「ファフニール、レイアの魔法を引き出すには何が必要と思う?」
『媒体だな。その魔法を繋ぎ合わせ、外に出す媒体があると確率が高くなる。レイアにもっとも近しい存在が適任だ』
「近しい存在……」
近しい存在というと、もしかして血の繋がりとかそういうものだろうか。
だとするなら……俺はそれを連想するような人へと振り向いた。
「……それって儂のことか?」
『そうだとも、犬っころ。貴様の身体の一部がその媒体になる。さすがに魔力の源である心臓を取り出す訳にはいかないから、攻撃の念が満ち溢れている牙が相応しいな』
「えっ、それって牙を抜き取るってことじゃ……」
自分はしたことはないが、歯を抜き取るというのは相当痛いらしい。
例えば虫歯が出来た場合、まずその人の手足を縛ってからペンチで強引に抜き取る。その痛みは下手すれば拷問レベルとか。
その抜き取った跡はすぐにポーションや回復魔法で処置されるが、歯を抜き取られた人はしばらく残った痛みで悶絶する羽目になるらしい。
魔物でもそういうのは例外ではないらしいが、サーベイさん大丈夫だろうか?
「……そうか、なるほどなるほど。事情はよく分かった」
と、彼が前脚で長い犬歯を掴んだ。
両側の頭部が「えっ?」的な顔をしている。
「レイアの魔法が出せるのなら牙の1本くらい……フンッ!!」
何と容赦なくその牙を引き抜いた。
あまりにも壮絶すぎて「ブチッ!!」という音が出るし、赤い血が飛び散っている。
見るからに痛々しい、そこまでやるなんて!
「親父、大丈夫ですか!?」
「お父さん……!」
「ハハッ……何、一週間もすればまた生えてくるさ……。フユマさん、どうか娘の為にこれを受け取ってくれ……」
両側の頭部が唖然としている中、激痛で顔を歪ませているサーベイさん。そんな彼が俺の手に牙を置いた。
あんなことを躊躇なくやるなんて、サーベイさん……本当にレイアが好きなんですね。牙が血まみれになっていて怖いけど。
とにかくサーベイさんのご厚意を無駄にしない為にも、レイアの為にも成功させないといけない。絶対に失敗は許されないんだ。牙が血まみれになっていて怖いけど!
「牙と、杖と、ガントレット……。上手くいってくれよ……【武装錬金術】!」
素材がそろったところで、先ほどの武器と同じく錬金開始。
筒が降りて、3つの素材が加工されてから数秒。そしてついにその姿を露にした。
「これは……」
そこにあったのは異なった用途の素材群ではない。
銀色に包まれ、龍のような装飾が施されたガントレットだ。
……うん、デザインはかっこいい!
この龍の装飾は、恐らくファフニールを意識しているのだろう。割りとイカすじゃないか。
てっきり杖とガントレットがごちゃ混ぜしたえげつないものになるかと思ったが、ちゃんと理想的なデザインにはなっている。
きっとその辺ファフニールが考慮しているはずだ。何ともありがたい。
「悪いな、気を遣わせちゃって」
『さぁ、何のことだが。それよりもレイアの魔法を試すんだろう?』
「ああ、うん。レイア。ちょっといいかな」
「うん」
すぐに【武装錬金術】製のガントレットを、レイアの右腕に付けてみた。
ベルトでしっかり固定したあと、レイアが軽く腕を上げ下げする。重たそうな顔は全くしなかった。
「これも軽い」
「ファフニールの流体金属様々だね。じゃあ早速魔法を出してみて」
「分かった」
レイアが手のひらを上にしながら、その端麗な顔をしかめた。
ちゃんと出てほしいと祈りながら、俺は彼女の様子を見守った。口を押えているサーベイさんやワーウルフたちも同様だ。
頼む、魔法出ろ。出るんだ。レイアの喜ぶ姿が見たいんだから。
――ボオ!!
そう思った時、手のひらから炎が燃え上がった。
しかも天井を貫通するほどの威力で、
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