第19話 さあ、実験を始めようか

 そうして夕方。食事の時間になったので食堂に案内された。


 テーブルに広げられた豚の骨付き肉。魚の蒸し物。種類豊富の果物。

 豪華というより大盛りな食事に囲まれながら、俺とレイアはそれにありついた。例の如く食事の大半はレイアの腹の中行きだが。


 どれも美味しいのだが、肉だけは血の味がして微妙だった。

 森の中でワーウルフが言ってたのを覚えているが、どうもプチデビルは血抜きに慣れていない様子だ。今度作るとしたら教えておこう。


 その後、レイアの自室から少し離れた部屋に寝泊まりした。

 レイアが「フユマと一緒に寝たい」とは言ったものの、さすがにベッド1つで彼女と寝る勇気がない。そりゃあ野宿で一緒に寝たが、それとこれとは勝手が違うし。


 ただ寝ている間にも、先の不安がよぎったりもした。心臓が高まるのも覚える。

 もしもスキルなしの能無しとバレてしまったら、今持っているスキルはファフニール由来だとバレたら……俺は正直怖がっているんだと思う。


 考えても仕方ないのにそうしてしまうのだから、よほどクズパーティーのことはトラウマになっているはずだ。

 事実上縁切りしてもなお、あいつらは俺を苦しめている。本当にあいつらとは二度と顔を合わせたくないものだ。


 そんな感じでほとんど寝ていなくて、いつの間にか朝になってしまった。

 そのあと、俺とレイアがプチデビル製の朝食を食べることになったが、


「フユマ大丈夫……? 悪魔的な目になってる……」

「悪魔的って……まぁ、ちょっと考えことしててさ」


 目に隈を出来ているせいかレイアに心配されてしまった。

 そんなに酷いのかな、今の顔。レイアの前で何てはしたないんだが。


「……もし」


 恥ずかしく頭をかいていたら、レイアは上目遣いで俺を見てきた。


「お父さんがステータスのこと言ってきたから、レイアから注意するから」

「…………」

「それでも直らなかったら、一緒にファフニールダンジョン戻ろう?」

「レイア……」


 そこまで言うなんて。

 君という子は本当に……。


「もし押し寄せてきても、ファフニールの眷属魔物で全滅すると思うし……」

「……そ、そう?」


 仮にもお父さんとその部下ですよね? 全滅させていいんすかね? 

 というかケルベロスとファフニール軍勢が戦ったらダンジョンが崩落しそうだわ。……いや、ダンジョンってファフニールの身体そのものだから案外頑丈か?


「そろそろ終わったみてぇだな」


 サーベイさんが俺たちの元にやってきた。

 ちょうど朝食が終わったところなので、俺は椅子から立ち上がった。


「そちらも準備は大丈夫で?」

「ああ、自分の部屋で獣をたらふく食ったからな。それでその試したいことって外でやるのか?」

「……その、外というか何というか……まぁ、俺の言う通りにしてください」

「?」


 今から行く場所は伝説の魔龍が進化したダンジョンです……なんて言っても、信じる人はどれほどいるのか。

 少なくとも俺がサーベイさんだったら「マンドラゴラの粉の吸い過ぎか?」と思ってしまう。

 

 サーベイさんの他にも、数体のワーウルフも護衛として付いてくるらしい。

 それに昨日、俺が指定した武器やガントレットなども持参してくれるようだ。


 準備が整ったところで、サーベイさんたちになるべく俺の周りに集まるよう指示する。

【エリアポイントテレポート】はスキル保有者の周りにいる人物も移動対象になる。人数が多いが問題はないだろう。


「では行きます。【エリアポイントテレポート】」


 俺はスキルを唱える。

 そして周囲が光に包まれ、一瞬にしてファフニールの前に到着した。


「帰ってきたぞ、ファフニール」

『うむ、話は剣を通して聞いている。早速新しいスキルを……』

「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!?」」


 うわっ、びっくりした!?

 見てみれば、ワーウルフたちが文字通り腰を抜かしている。それには俺だけじゃなく、レイアもビクッと跳ね上がっていた。可愛い。


「きょ、巨龍!? しかもあの鎧を纏った姿……伝説の魔龍ファフニールだ!!」

「何でこいつがいるんだ!!? 殺される!!」


 ワーウルフたちの反応は至極真っ当だ。魔龍が目の前に現れたら、徹底抗戦の構えを取るか死を覚悟するしかない。

 しかし同時に、俺は驚いてしまった。


「ハハハハハッ! 何だファフニール、久しぶりじゃねぇか! 見ない間に下半身失いやがって!」

『ふん、犬っころか。まだしぶとく生きていたとはな』

「そんな簡単に死ぬほど儂はヤワじゃねぇ。おかげで娘が出来たんでな」


 何とサーベイさんは平然としている!

 しかも会話から察するに、2人(いや2体か)とも会ったことがあるらしい。


「サーベイさん、こいつと知り合いだったんですか!?」

「おう。最近姿を見ないと思っていたら下半身を失っていたって訳か。おいお前ら、まだ部下見習いだからって何怯えているんだ!」

「あっ、はい!」


 このワーウルフたちは新入りで、サーベイさんとファフニールが顔見知りだったことを知らなかったということか。だからあんなに怯えていたと。

 というか、こういうこともあるもんだな……。いや、どちらも悠久の時を過ごしている魔獣と魔龍、どこかで出会っててもおかしくはないか。


「ところでフユマさん、ここは一体どこなんだ? それにファフニールの奴は何故あんなことに?」

「実は……」


 俺はファフニール……もといファフニールダンジョンのことを説明した。

 奴が下半身を失い、自身が埋もれたダンジョンと一体化したこと。このダンジョンには奴の眷属魔物がはびこっていることなど。


「そういえば耳にしていたことがあった。詳細不明の魔物が出没し、中に入ったハンターが謎の失踪を遂げるというダンジョン。それが奴のことだったのか」

「知っているんですか?」

「魔物界隈では噂になっている。内部の魔物も異質でコミュニケーションも不可能。しかもそんこそこいらの魔物よりも強いってんだから、ある種の魔境扱いだったんだ。そうか、ゴルゴンデリアのアジト近くにあったんだな」


 魔物の間でも恐れられているファフニールダンジョン……全くとんでもない奴だな。


「それでフユマさんがこのダンジョンを攻略しているって訳か。怖くなかったのか?」

「ま、まぁ……、俺もこいつ見た時は驚きました。てっきり封印でもされたのかと思ったけど、実際はダンジョンそのものになってましたーなんですよ。そんな事例なんて、どんな文献漁ってもないと思います」

「流体金属を操る能力は知っていたが、まさかこんなことが出来るなんてな。本当に動けないのか?」


 どうもサーベイさんでも、ダンジョンと融合することは予想外だったようだ。

 本当にイレギュラーな事態なんだな、これ。


『私の代わりにフユマが戦ってくれているからな。今となっては動く必要もない』

「代わり?」

「ああそうだ! ファフニール、【武装錬金術】の使い方教えてくれないか!?」


 あのままだとスキルの秘密がバレかねない。

 強引に話を切り替える。


『それなら【迷宮制御】の発動が先だ。これは名の通り、迷宮を自在に操作や形成が出来る。例えば適当な壁にお前の部屋を作ることも可能だ』

「そんなスキルなの!?」


 ダンジョンを自在に操作するなんて前代未聞だぞ!?

 そりゃあ、スキルで壁を形成したりするのは聞いたことはあるさ。しかしそれは地面にスキルの力を与えているだけで、さすがにダンジョンを含めた建物に影響を与えるなんてことはない。


 ダンジョンとなったファフニールのスキルだからこそ成せる業かもしれないな……。

 さすがに他ダンジョンには効果はないだろうがヤバすぎだ!


「フユマさん、そんなスキルを持っていたのか!?」

「お客人のスキルってどうなっているんです!?」

「そんなスキルなんて聞いたこともない! 一体どうやって身に付けたんですか!?」


 サーベイさんとワーウルフたちには質問攻めだ。

 もちろん今の状況でははぐらかすしかない。


「ま、まぁ……ダンジョン攻略でレベル上げしたら、そんなスキルが付きまして……」

「そうなのか……いやはや、そりゃあゴルゴンデリアを倒せる訳だ。君はハンターの方はかなり強い方かもしれんな」

「どうも……じゃあ早速スキルを……」


 強いと言われても釈然としない。スキルゼロ剣士本来の姿を知らないからこそ言えるんじゃないか……と思うのが悲しいところだ。


 早いこと切り替えよう。その話は一旦置いといて、まず適当な壁に向かうことにした。

 壁ならどこでもいいらしいので、ファフニールから見て左の場所を指定した。


「よし、【迷宮制御】」


 とりあえず壁に簡易的な部屋を作るようなイメージで。

 スキルを唱えると、ボコっと音を出しながら壁がくり抜かれた。そして長方形のくぼみが、その壁に形成させる。


 なるほど、こういうことか。

 これもまた【武器形態変化メタモルフォーゼウエポン】みたく、スキル所有者の想像で形成されるはずだ。


「おお、これはこれは……! 中に入ってもいいか?」

「ええ、大丈夫だと思いますよ」


 サーベイさんやレイアたちと一緒に、部屋の中に入った。

 ふむ、いきなり部屋がなくなるということはなさそうだ。というかそうなったら怖すぎる。


「じゃあ次は【武装錬金術】」

 

 ここで今回の実験で重要なスキルを発動。


 すると目の前に台が盛り上がった。それからその真上に筒のようなものも形成される。

 レイアたちが「「おおっ~」」と驚く中、俺はその2つの形成物を眺めてみた。何か思ってたのとは違う感じだ。てっきり大掛かりなギミックが用意されるかと。

 

『台の上に武器などを置き、それからもう一回スキルを唱えろ。そうすれば上の筒が降りて武器を挟み込み、新しい武器へと変化できるのだ』

「なるほどな……」


 何となく仕組みは分かった。

 じゃあ早速、実験を始めるとしますか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る