第18話 レイアの悩みを解決したい
サーベイさんとの話を終わらせたあと、俺たちは風呂から出ることになった。
それから扉をくぐると、廊下でレイアが待っていたように立っていた。
「……あっ、フユマ。ちょっと長かったね」
「ああごめん。待たせちゃったかな」
「ううん、大丈夫」
謝ってから気付いたが、彼女は青を基調とした薄着をしていた。
胸元が開いたデザインなので、彼女の白い谷間が丸見えだ。やっぱりそれなりにある……指を突っ込んでみたい。いやこんなことを口にしたらサーベイさんに殺されそうだが。
それに濡れた青髪も艶やか。服から覗く色白の肌も上気して、ほんのりピンク色になっている。
これはヤバい……まじまじと見てしまったら正気でいられない。
「えっと! サーベイさん! 武器庫はどちらに!?」
「あ? ああ、まず奥の階段を降りて……って道分からないよな。儂が案内するよ」
「ああどうも! レイア、悪いけど部屋に戻ってて!」
とりあえずこの気持ちを紛れさせておこう!
それと武器庫に向かうのは見学目的ではない。俺はそこにある用事があるのだ。
『もう知っていると思うが、レイアは魔法が出せない。これはただ単に技術不足とかじゃなく、半魔によくある症状みたいなものらしい』
実は風呂場で、サーベイさんにこう言われていた。
『症状ですか?』
『半魔は話した通り人間と魔物の混血児だ。その影響か、体内にある人間の魔力と魔物の魔力がせめぎ合ってしまい、中々魔法が出せないらしい。二列に並んだ人間の群れが、狭い洞窟に同時に入ってぎゅうぎゅう詰めになるようなものと思ってくれ』
分かりやすい例えに、思わずなるほどと感心していた。
さらにサーベイさんがこう続けた。
『ただその魔法を発動することが出来る場合、人間よりも威力のあるものになるらしい。儂らはどうにかして解決方法を探したんだが、これがまた見つからなくてな。レイアには時が経てばいつか出るとは言ったんだが、さすがにあの子の残念がる姿を見て可哀そうになってきたもんだ。もう14になるんだから魔法の1つ2つは出してもおかしくはないんだし』
レイアが14歳と知ったのはこれで初めてだ。
確かにその歳で魔法が出せないというのは肩身が狭かったはず。
『外から来た君ならそういった知識が豊富なはず。出来ればレイアのその悩みを解決してほしいんだが』
『……実はそれ、俺もやってあげたいと思ったんですよ』
『何?』
『前に娘さんからその話を聞いています。あの時の彼女の表情も覚えていまして』
レイアが魔法を出せないと明かした時、酷く落ち込んでいたのが頭の中に焼き付いている。
まさしくスキルや魔法が付かない俺と全く同じだ。彼女もまた魔法を出せないことに苦しんでいたはず。
だからこそ彼女と交わしたのだ。「魔法を見つける方法を必ず見つける」という約束を。
今までファフニールダンジョンを攻略していたのは、その目的もあってこそだ。
『何か方法があるのか?』
と言われたものの、すぐに方法は浮かんでこなかった。
『まだ模索している』と言えばいいだろうが、出来ればサーベイさんをいち早く安心させたい。
そう思案した時、あることが浮かんだのだ。
『……あるにはあります。ただ初めてやることなんで、成功する保証はないのかもしれません』
それはファフニールからもらった
名前からそれが出来るのでは? という安直な発想だが、でもやらない手はなかった。
『サーベイさん、武器庫はありますか? それと魔法に関する武器とか』
『武器庫? そりゃあるが……確か魔法を引き出す杖もあったな』
『そうですか。でしたら、ぜひ俺にやらせてください。娘さんの魔法、何としても解決してあげたいんです』
『……あいつを匿っている間、仲良くなったってことか』
『まぁ、そうですね……。あの子は本当に優しいですし……』
そう言われて、ちょっと照れ臭く感じてしまった。
こうして俺の意志がサーベイさんに伝わったらしく、『君に任せるよ』と頼まれることになった。
それで俺はあることをしようと武器庫に向かう訳だが、
「レイアも向かう」
「えっ!? いや、こっちの用事はすぐ終わるけど……!」
「気になるから行く」
と言われても、そんな蠱惑的な衣装で一緒にいたらドキドキするよ……!
と思っている間に白い生足が目に入ってしまう。とりあえず見ない振りをして先に進もう……。
そうして平常心平常心と心の中で呟きながら進んでいく内に、廊下の雰囲気が変わっていくのが分かった。
いわゆる物々しいといったところか。さっきまでの場所は客も通るのだが、武器庫に繋がるこちらは兵士くらいしか通らない。だから余計な装飾がないのだろう。
しばらく経って武器庫の扉が見えてきた。
中に入ってみると武器と甲冑のバーゲンだ。巨大魔物用と思われる大剣、綺麗に並べられた数十本の槍。盾や大砲の弾などもある。
「フユマさん、これでどうするんだ?」
「そうですね……」
その武器の山の中を進んでみた。
今、俺にはある方法が浮かんでいる。
スキル【武装錬金術】。風呂での会話の時、これが頭の中で閃いたのだ。
(ファフニール、【武装錬金術】って武器も作れるよな?)
(無論だ。武器と武器を錬成させるのもよし、それ以外で組み合わせるのもよし。お前のやり方次第で全く新しい創造物を完成できる)
(なるほどな)
俺が小声で尋ねると、ファフニールも小さく答えてくれた。
俺にちゃんと合わせてくれているようだ。空気を読むのが上手い。
(だったら最初は実験かな。失敗したらアレだし)
最初は失敗してもいいような武器で実験。その次にレイアの問題の解決……こんなところか。
目の前に1本の杖が落ちているのが見えた。間違いなく魔導士用の魔法杖だ。
「言っておくが、それを使っても駄目だったぞ。この子にとってはガラクタだ」
「ええ、分かってます」
サーベイさんがそのことを試していたのは承知の上だ。そもそもそれで上手くいっていたのなら、こんなところに置かれていないはずだ。
それから近くにガントレットを見つけた。何らかの動物を使った革製らしい。
試しにレイアの腕に付けてみると、サイズがピッタリ。
少しぶかぶかだが、まぁ問題ない。
「フユマ、どうしたの……急に」
「うん、ちょっとね。サーベイさん、杖とかガントレットもらっていいですか? あと適当に武器何本か」
「別に構わんぞ。どうせ誰も使ってないからな」
「ありがとうございます。じゃあ早速……」
「いや、そのことは明日にすればいい。せっくだから今日はゆっくりとしておいてくれ」
そう言われたらお言葉に甘えておこうか。
正直なところ休みたい気分だし。
「すいません、サーベイさん……」
「謝る必要はねぇ。さっき言ったように君は客人だ。好きなように城を回るといい」
「じゃあレイアが案内しとくね」
それからレイア主導の城探検が始まった。
まず中庭には兵士用の訓練場が広がっている。ワーウルフたちも運動や訓練の際に使うこともあるとか。
東側には教会もあるが、サーベイさんたちが無宗派なので全然使っていない。そのせいか神の像などが埃まみれだ。
西側には本棚が広く並べられた図書館。さらに近くには、皆で食べる食堂とその奥の厨房があった。
厨房に見学してみると、プチデビルの皆さんが大急ぎで調理を始めている。城の魔物が多いので、前もってたくさん作らないといけないらしい。
食材は豚の肉に野菜、魚、果物。
周りの森から採ってきたものと飼育しているものが中心だが、中には人化スキルをしたワーウルフが人里から購入したものも混ざっているらしい。
レイアがさっき言ったように、抗争相手からの戦利品とかで食っているということか。
「……俺も手伝おうかな。木の実の皮むきくらいは……」
「いえいえ! お客様にそんなことは……すぐに終わりますし!」
「別に大丈夫だよ。俺、それくらいは出来るから」
「じゃあレイアもやる」
「お嬢様まで!?」
反対を押し切る形になってしまったが、木の実の皮むきを始めた。皮をナイフで切るだけの簡単な作業だ。
こういう無心な作業は割と嫌いじゃない。
「……フユマ、大丈夫?」
「ん、大丈夫って? 俺は別に平気だよ」
「本当に……?」
「ああ、本当に。君が心配する必要はないって」
「……そう」
恐らく、というか絶対にレイアは気付いているだろう。
俺は皮むきを専念しているのは、不安を少しでも紛らわせる為。
未だ俺は「スキルゼロと知られたらゴミのように捨てられる」……そんなことを思っていた。
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