第14話 この来訪者は予想だにしなかった
爆風によって俺の身体が少し飛ばされた。尻餅を付いてしまう。
それでもなお確認してみると、アーマーグリズリーの顔は跡形もなくなって煙を噴いていた。
もちろんというべきか、瓦礫に埋もれた身体はピクリとも動かない。
「……ふぅ……やった」
どっと疲れが出てきた。多分ダンジョンに入ってから初めて体力を使っていたとは思う。
こういうのは二度とごめんだよ。
「レイア、怪我は……」
「フユマ……!」
「ぬぉ……!?」
レイアに声をかけた時、彼女が背中から抱き付いてきた。
あまりのことに思わずぎょっとしてしまう。
「……本当によかった……。これ、レイアもフユマも危ないんじゃって思って……」
「そ、そうか……まぁ、今回はやばかったからな。ありがとう……」
「うん……やっぱりフユマはかっこいい……」
かっこいい……。
思えばハンターになってから一度も言われたことなかった。それが友達になったこの子から言われるなんて……本当に色々と報われたよ。
まぁ、それとは別に口にしてはいけないだろうけど、胸が当たってる……。
それなりにあると思うぞこれ……絶対に彼女、着痩せするタイプだろ。
「……毎度思うけど、フユマはむっつりスケベですな」
「むっつ!? いや何突然!?」
「何となく分かる……あと隠し通路通った時も……」
「ええ!? マジかよ!!」
いや、普通に考えれば気付くだろうけどさ!
川の時もバレてしまったし、いやらしいことを考えない方がいいのではこれ!?
「……それよりも腕の傷……」
「えっ、傷!? ああ、そうだな……あまり使いたくはないけど……」
こういう時には、持っているポーションを使うに限る。
腕の傷にかけるとたちまち傷口が閉じていく。失血も治まったようだ。
「ポーション、初めて見たけどすごい……」
「高価だからな。これであと1本になってしまったよ」
ポーションは製造コストなどから店にあまり出回ってはいない。大抵怪我の手当ては、その下位互換の薬草か回復魔法の治療が必要だ。
このポーションは以前パーティーに入った際、偶然出会った行商人から買ったものだ。その時には魔物退治で報酬が入ったので、何とか3本だけ手に入れることが出来た。
再購入はかなり難しいだろうから、あまり使わないようにはしている。
かといって傷を放置すると
「ハンターって大変だね……」
「そりゃそうだよ。さて怪我が治ったことだし、そろそろ先に進もうか」
「うん……もう制御装置が見えるけどね」
「えっ……あっ」
レイアが指差した先。確かに前に見た制御装置があるではないか。
色々とごたついてて、気付くのに遅れてしまったようだ。
「これを刺せば新しいスキルが出るって……」
「ああ。今度はどんなのか分からないけど……」
瞬間移動に武器変化……今度もアッと驚くスキルなのは間違いないだろう。
……フフ、新しいスキルか……ウキウキするなぁ……。
こういうのを胸の高鳴りと言うのだろう。
俺は今まさに興奮している。また新しいスキルが手に入れることに!
そうと決まれば制御装置の前に立ち、それにロングソードを突き刺した。
以前のように放出された赤いエネルギーが、俺の身体に取り込まれていく。
「さて、スキル確認っと……」
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ハンター:フユマ Lv28
職業:剣士
属性:なし
スキル:なし
メタル斬り
エリアポイントテレポート
武装錬金術
迷宮制御
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えっ、えっ!?
ちょっと待って、これはどういうことだ……【武装錬金術】に【迷宮制御】……後者が何かすごそうだが、問題は前者だ。
『錬金術』と言えばおとぎ話にしか出ない技術だ。ただの金属をミスリルやオリハルコンに変えるという、現実にあったらチートすぎる技だ。
いや、それと全く一緒とは限らないが……これが俺のスキルになるなんて……!
「おお、2つも……。フユマ、固まってどうしたの?」
「……いや……すごすぎて現実味がない。俺って大丈夫なのか!?」
さすがにレベルは上がらなかったが、こうして新しいスキルが2つも増えた。
嬉しすぎて、逆にもらっていいのかという気持ちもある。というかこんなものまで発現するなら、もしかしたら魔法も取得したりするだろうか?
「な、なぁ、このダンジョンを攻略すれば魔法も出たりするのかな?」
『それは貴様次第というべきだろう。私も制御装置を突き刺すまでどのようなものが発現するのかあまり分からない。可能性はなくはないだろう』
「そうなんだ……ますます攻略したくなったなぁ……。俺、スキルの次に魔法も好きだし」
『そう思ってくれて幸いだ。それよりも新しいスキルを試したいだろう?』
はい、すぐに試したい。
これはぜひとも、どんな効果があるのかこの目で確かめたい。
「じゃあ早速教えて……いや、待った」
『?』
「やっぱそれはあとにするよ」
すぐにでも実行しようと思ったが、それはやめにした。
レイアの腹の虫が鳴ったからだ。
「レイア、お腹空いた」
「そっか、そろそろ昼時だよな……」
朝食は川の魚を焼いたものだった。
今回は新しいスキル獲得できたことだし、記念に肉でもしようか。一応外の森には食用できる獣とかがいる。
「よし、たんとごちそうしてやるからな。じゃあファフニール、スキルは食べたあとにするから。【エリアポイントテレポート】」
『フン、食事とは本当に不便だな。私は何も食べなくても……』
ファフニールが何か言いかけたが、その前に瞬間移動が終わった。
着いたのは昨日落ちた川の岸。
ここで朝食をとったり水浴をしている。睡眠の方は石とかが痛いので、森の中でするようにしている。
「えっと……どうするの?」
「そうだな、とりあえず森に入ろうか。俺に任せておいて」
レイアと一緒に森の中に入った。彼女を置いてしまったらゴルゴンデリアのような輩が襲ってくる可能性がある。
しばらく森の中を歩いていると、草むらに大きな影があった。
これはラッキー……イノシシだ。身を屈ませながら様子を窺う。
「イノシシは癖があるけど割と美味しいぞ。小さい頃、ハンター修行の一環で仕留めたあとに食べてさ、それはもうほっぺたが落ちるくらいだったよ」
「へぇ。どうやって仕留めるの……?」
「こうするのさ。【
ロングソードをイノシシに向けながら一言。
そうしてアーマーグリズリー戦みたく長く伸び、イノシシの胴体を刺し貫く。しばらく刃を引き抜こうともがいていたイノシシだが、次第に力が弱まっていき動かなくなった。
「よしっと」
俺は創造神への祈りを捧げた。
こうして狩猟……すなわち殺した獣に対して、贖罪という形で祈らないといけないらしい。俺は無宗教派だからよく分からないが。
そうして川の岸までイノシシを運んだあと、解体作業を始める。
これもサバイバル技術の一つで、ハンターが身に付けて
ナイフで毛皮を剥いで、血抜きをして、肉を食べやすい大きさにする。
この時は結構グロイのだが、レイアは「おお……」とまじまじと見ていた。女の子にしては耐性があるというかなんというか……。
続けてレイアに焚火をおこしてもらって、その火でこんがりと焼く。
それを数分くらい待つ。
「まだ? まだ?」
「まだだよー」
子供みたいだなぁ、可愛い。
それでほどよく焼けたところで完成。
先にレイアに渡すと、その小さい口で肉をちぎった。
「どう?」
「……美味しい……」
ほんの少し嬉しそうな顔をして、モグモグ食べてくれた。
顔がニヤケてしまうなぁ。ともかく俺も肉を食べてみる。
うん、中々悪くない。噛むたびに肉汁が染みてくるのがまたいい。
でも少し味が淡泊かもしれない。こういう時には塩が欲しいな。
「フユマ、おかわりいい?」
「ん? もう食べたのか。はい」
「ん、ありがと」
レイアは割と食べるのが早い。焼き魚の時も気付かないうちに3匹食べ終わったことがあって、それには驚いたものだ。
何か愛おしくて、また頭を撫でたくなる。さすがに今食べている最中だから邪魔は出来ないし、あとでしてみようか。
――ただそう思った時、気配が感じた。
その直後として聞こえてくる草むらをかき分ける音。
森の中から発せられていたそれに、俺は何となく既視感を覚えた。
「奴らか?」
ゴルゴンデリアは壊滅したはずだが、しかし残党がいない保証もない。奴らがまた襲ってきたのかもしれない。
俺は森に向けてロングソードを掲げた。レイアが何事かと俺を見上げた時、
《ウオオオオオオオン!!》
森の中から俺たちの前へと着地してきた。それも数体。
狼の頭部に灰色の体毛。
こいつらは『ワーウルフ』だ。レイアのように人間の範囲にある獣人と違い、こいつらは純然たる魔物だ。
見分け方としては、人間に獣耳が生えたのが獣人。
ワーウルフのように獣の頭部をしているのが魔物。
要は人間と獣の比率の違いということだが、
「ゴルゴンデリアの残党か……あるいは単なる野生か」
襲撃したからには容赦しない。
ここで一気に片付けて食事に戻ろうか。
「皆……!」
「お嬢!! やっと見つけました!!」
「お嬢、よくぞご無事で!!」
「……ん?」
レイアがお嬢? ……お嬢?
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