第二章 スキルゼロ剣士と魔法ゼロ少女

第12話 迷路を突き進む

「前にここ行ったから……次はこっちだな」


 魔賊ゴルゴンデリアを倒してから2日経った。


 俺は今現在ダンジョン内にいる。時刻については、朝食を食べてからこっちに入ったから多分昼前辺り。


 もちろんただのダンジョンではなくファフニールダンジョンで、その内部にある迷路の攻略をしているところだ。

 そしてこの先にあるという制御装置を見つけ、新しいスキルを手に入れるのが目的。


 レイアは一応、迷路の入り口辺りに待機させている。

 まだ全容は把握していないから、先に1人で行ってみようという算段だ。それである程度分かってきたら彼女も連れて行く予定。

 彼女の持つ【魔力障壁】は防御のかなめになるのだ。


『フユマが心配……一緒に付いて行く……』

『でもどんな危険があるのか分からないし……それが分かったら同行させるからさ』

『……むう……』


 心配とか不満とかそんな複雑そうなふくれっ面をしていたか。本当に可愛かったなぁあれ……。


 まぁ、それよりもさっき言ったように、今いるのはダンジョン内の迷路だ。

 これがまた難しいのだ。何が難しいかというと至ってシンプル――この迷路のゴールが見当たらないのだ。


 最初入った時は何とかなるだろうと思っていた。しかし1時間近く……いやそれ以上も迷ってしまったのだ。

  

 それでやむなく【エリアポイントテレポート】で入口に戻って、再スタートしているところだ。

 何とかゴールを探したいところだが、そうも上手くいかず……。


「っ、来てしまったか……」


 自分の前にある暗闇。そこから球体が飛んできた。


 簡単にいうと、目玉の形をした金属の球体というべき姿だ。それは独特な音を出しながら宙に浮いている。


『アーマーアイ』だ。

 アーマースライム、アーマーゴブリンに続くファフニールの眷属魔物。こうやって俺みたいな侵入者を見つけると、


 ――バシュッ!


 すぐに目玉から熱線を出してくる!


「おっと!」


 俺は曲がり角に隠れた。

 熱線が角に当たると赤熱溶解してしまった。それから何回も熱線を放つたびに破片をばらまいていく。一回でも受けてしまったら命の保証はないかもしれない。


「ならっ!」


 俺は隠し持っている短剣を投擲。

 まっすぐアーマーアイに向かったが、しかしその表面によって弾かれてしまった。


 これは……どうやらアーマースライムが取り付いたソードじゃないと【メタル斬り】が発動しないということか。元々俺のスキルじゃないからというのもあるだろうが。


「……ここからどう切り抜けるか、だな」


 最初会った時には、熱線を回避して斬り倒すことが出来た。今ではそのタイミングを逃してしまったのが悔やむ。

 

 もしレイアがいたら【魔力障壁】でガードしながら距離を詰めることが出来ただろう。しかし今は彼女がいない。

 

 ならば、今のロングソードを変えるしかない。


「【武器形態変化メタモルフォーゼウエポン】」


 ロングソードの刃に結晶が纏い、一気に弾けた。

 その刃が3つの玉になって俺の手元に落ちる。よし、これを投げれば。


「行けっ!」


 曲がり角に張り付きながら1つの玉を投げた。

 アーマーアイの下に転がったあと、その玉が赤く光る。そしてアーマーアイを巻き込むように爆発。


 そう、これは爆弾だ。

 俺が爆弾が欲しいと思いながら唱えたら、本当にソードが爆弾になったのだ。本当にスキルの力ってすげぇよ!


「……よし、死んだな」


 爆風が収まってから確認してみれば、アーマーアイの残骸が転がっていた。黒焦げで所々に溶解した跡があったりと、先ほどの面影が見当たらない。


 ロングソードの刃はというと再生能力があるかのように生えていった。

 つまり元通りで、なおかつ手元には2つの爆弾が残っている……嬉しいじゃないか! これは剣も爆弾も使えるということになる!


 俺は地面に落ちた短剣を拾い、先に進んだ。

 何とかしてここを通り抜けて、それからレイアと合流しよう。さすがにレイアを1人にするのは可哀想だからな。


 





 と思ってから数分後。


「また行き止まりか……」


 そこにゴールがあると信じていた。信じていたのに、そこは行き止まりだった。


 これで行き止まりを見るのは三回目。本当にゴールがあるのか分からなくなってきた……。

 ……ああそれと、別に迷路で詰んで2日経っている訳ではない。連戦で休息が必要になっただけだ。


「どうなっているんだ、ファフニール!? 全然ゴールが見当たらないぞ!?」


 このダンジョンはファフニールそのもの。なのであいつが見ているのは間違いない。

 だというのに黙っているのはどういうことか。そう思って尋ねると、


『いや、間違いなく存在する。そこを通ればいよいよ制御装置が見えるはずだが』

「1回目やり直してこれだけ歩いたのに!? 本当なのか!?」

『噓ついてどうする。そもそもゴールが見えるとは限らない。そういうのを見つけるのが貴様の役目だろ?』

「……ん?」


 今、こいつは見えると限らないと言ったのか?


 ゴールが見えるとは限らない……これは何か裏があるということなのか。

 だとすると立て直す必要があるな。もう一度入り口から戻った方がいいかもしれない。


「……というか正解を言わないんだな」

『当たり前だ。これは貴様にとっての試練でもある。試練に正解なんて言ったらタメにならないだろ?』

「……確かに正論だな。【エリアポイントテレポート】」


 スキルを唱えると、すぐに迷路の入り口へと戻された。


 この迷路は、ファフニールのいた部屋から東通路の先にある。

 あの部屋の周りには複数の通路があって、その先にトラップや魔物などが待ち受けている。この迷路もその1つという訳だ。


「……フユマ、遅かったね」


 その入り口付近にレイアが座っていた。すねた顔をしながらだ。

 その可愛さにドキッとしてしまうも、申し訳ない気持ちが出てきてしまう。


「ごめんごめん……どんな危険があるのか分からなかったから……今度は君も連れて行くからさ」

「……じゃあ行こう」


 すねた顔からワクワクとした顔に早変わり。うん、可愛い。

 それにしてもこの子、ステータスカードを持っていないからハンターではないはず。にも関わらず度胸というか、いわゆる場慣れが強いような気がする。


 この子、一体何者なんだろうか。

 

「どうしたのフユマ……?」

「あ……ごめん。行こうか」


 こんなことを考えていたが、彼女がどうであろうとも関係はないと思う。

 彼女は俺にとっての友達。これからもそうでありたいと願いたい。


 俺たちは迷路の中に進んだ。俺にとっては三度目、レイアは初めてのトライだ。


 さて、ここから問題だ。どこを通ってもゴールが見当たらなかった。

 しかしファフニールは暗にだが、それは確かに存在するとほのめかしていた。


 その仕掛けを解くにはどうすればいいのやら。


「……フユマ」

「ん?」

「風の音が聞こえる……前と同じ……」

「……風?」


 耳を澄ませてみるも、全く聞こえない。レイアは獣人だから耳がいいのだろうか。


 そういえばファフニールの部屋に入る前、レイアがそんなことを言っていた気がした。

 確かあの時は扉に吸い込まれる空気の音だったはず。それと同じようなものなのかも。


「……そうか」

「ん?」

「ああ、つまり……」


 空気が吹き抜けるということは、道が繋がっているということ。

 それをレイアに案内させれば、この迷路から出られるのではと俺が考えた。


 その趣旨をレイアに伝えた途端、


「フユマ……天才。それは考えてなかった……」

「いやぁ、それほどでも」

「でも……最初からレイアを連れていけばよかったね」

「……はい。ごもっともです」


 一回目から連れていけばすんなり行けたのだ……俺って馬鹿だな。

 何でこういう時だけ頭が回らないのやら。

 

「……でもレイア1人だったらその場所に行けなかった……フユマが一緒にいるなら大丈夫なはず。だからくよくよしないで……」

「……レイア……」


 この子、俺を慰めてくれている……。

 しかも俺がいないと、ダンジョン攻略が成り立たないとも言ってくれているんだ。


 俺は元々、何もなかったスキルゼロ剣士だった。そのせいでパーティーの奴らに捨て駒にされた……言わば必要ない奴だった。


 それに比べてどうだ、レイアは俺を必要としてくれている。

 あいつらみたく嘘で塗り固めずに、ただ本心で。


「……ありがとうな、レイア」


 何だか込み上げてくる。

 嬉しさというか、報われたというか、そんな気持ちが。

 

「……泣いているの? どこか痛いの?」

「ああ、そういう訳じゃ。ただ君って本当に優しいんだなって。優しくて可愛い美人ってのは最高だよ」

「……………何でいきなり」


 そうやって顔を真っ赤にする君が愛おしい。

 なんて思った時には、レイアがぷいっと先に行ってしまった。この子ったら照れているな。


「ごめんごめん。ちょっとからかってしまったかもな」

「……本当にもう。というかフユマも童顔だから可愛いと思う」

「ああ……それ母親によく言われた……。まぁ、それよりも空気が抜ける場所は分かるか?」

「まだ遠い……でも場所は何となく分かる……」


 獣耳の形状からして、彼女は犬系だと思われる。

 犬なら遠くの音を聞いたりしてもおかしくない。


「じゃあ俺から絶対に離れないで。何かあったら俺に報告を……」

「……フユマ」

「ん、どうした?」

「……今報告するけど、何か近付いてきている」


 その報告に俺は耳を澄ませた。これは……微かにだが歩くような音が響いている。


 どこから来るんだ? 前か? 後ろか? それとも……、


「……天井から……」


 レイアの言葉を聞いて上を見上げた直後、通路の天井が崩落する。

 すぐに俺は彼女の腕を引っ張り、瓦礫から逃れた。俺たちがいた場所に瓦礫と粉塵が舞う。


《グルウウウウ……》


 その中に獣のうなり声が聞こえてくる。

 粉塵が晴れると、やっとその正体が分かった。


「……で、でかい!!?」


 この迷路にギリギリ収まるくらいの、巨大な熊型魔物だ!

 でかすぎだろ!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る