第11話 【武器形態変化《メタモルフォーゼウエポン》】

 新しいスキルを唱えた時だった。今持っているロングソードが結晶に包まれたのだ。


 銀色の結晶がソードを覆い尽くした瞬間、それが一斉に弾ける。

 するとその中から出てきたのは……、


「弓!?」


 弓だ。

 ロングソードが大きな弓になっていた。


 しかも爬虫類の鱗のような装飾品が付いていて、鋭い印象になっている。少しかっこいいと思ってしまうくらいだ。


「剣ガ弓ニナッタゾ……!?」

「ドウイウコトナンダ!? 何故アンナコトガ出来ル!?」

「イクラスキルヲ持ッテイルトハ言エ、無茶苦茶ダ!!」


 リザードソルジャーが驚くのも無理はない。


 スキルというのは攻撃や防御の補助、そして身体機能の向上が主なのだ。


【メタル斬り】は攻撃系のスキル。レイアが持っている【魔力障壁】は防御系のスキルに該当する。

 あとは足が速くなるスキル、攻撃範囲を広くするスキル、【エリアポイントテレポート】のような瞬間移動系なんてのもある。


 だが武器そのものを変化させるスキルなんて、今まであったか? いや、そんなの見たことがない!

 そもそも魔法を使ったとしても、武器を全く別の物に変えるなんて出来やしないのだ!


「……レイア……」

「えっ?」

「すごいよこれ!! 身体中の痛みが吹き飛ぶよ!!」


 これはヤバいぞ……俺はとんでもないスキルを手に入れてしまった。

 しかも前に弓の鍛錬をしたことがあったから、すぐに実用できる。


 感謝するよ、ファフニール!!


「ふざけるな!! たかが弓に変えただけで!!」


 そんな時、デリアが4本の長い腕を繰り出してきた。

 それを避けてから反撃を……ってこれ矢がない! どうすればいいんだ!?


「ファフニール、矢はどこにあるんだ!?」

『そのまま弓を引けばいいだけだ。すぐに分かる』


 言われた通り弓を引いてみると、弓と弦の間に金属結晶が形成する。

 さっきのように破裂すると矢の形になった。これを撃てということか。


「行けっ!!」


 俺は迷わず矢を放った。

 矢はデリアへと真っすぐ向かう。ただその途中、また結晶になって破裂してしまった。


 ――いや、違う。矢の中から4本の矢が出てきた!


 複数に分かれた矢が、デリアの4本腕へと突き刺さる。

 そしてあろうことか破裂して腕を破壊。もぎ取られた腕が次々と落ちていき、デリアは悲鳴を上げた。


「グアアアアアアアアア!!! 何なんだこれはぁ!!」


 それは俺の台詞だ。

 いくら何でも威力ありすぎるだろ……しかも放ったら4つに分裂するなんて……他のハンターが見たら目を疑うなんてものじゃないぞ。


 しかしそう考えるのは後回しだ。

 腕がなくなったところで次は頭部だ。狙いを定め、一気に放つ!


「くっ!!」


 デリアが尻尾で受け止めようとした。

 矢は尻尾に直撃し、そしてあろうことか貫通。そのままデリアの首を抉った。


「ガアア!?」

「デリア様ガ……!!」


 リザードソルジャーが叫ぶ中、地面に落ちるデリアの首。

 これで終わった……そう思って弓を下げた時、首がめきめきと波打つ。


 その首が形を変えて、元の細身の形態になった。


「グオオオオオオオオオオ!!」


 そういう仕掛けということか。

 デリアが獣の咆哮を上げながら疾走してくる。


「ファフニール、もう一回スキルを唱えれば武器が変化するんだろう!?」

『無論だ。先ほどは私の意思で変化させたが、今度は……』

「俺の意思で変えられるんだろう!! 分かってる!!」


 俺もまた奴に向かっていった。

 弓から手っ取り早く変化させられるような武器。だとするならあれしかない。


「【武器形態変化メタモルフォーゼウエポン】!」


 弓の両端に刃を出現させる。たったそれだけ。

 デリアと激突する前に、何とか即席の双刃を完成させることが出来た。


「うおおおおおおお!!」


 デリアが鋭い爪を突き出す。俺も双刃を振るう。

 爪と双刃が同時にぶつかり合った時、双刃が爪や腕を斬り裂いた。


「なっ、馬鹿な!?」

「終わりだ!!」


 まず右腕を斬り裂いた。ほとばしる赤い鮮血。


 次に身体を斜め斬り。そして最後にその禍々しい首。


 そうしてデリアは俺の手によってバラバラの肉塊となって、血の池を作りながら地面に転がっていった。


 ――【Lv28】獲得


 頭の中に響き渡る声。

 それはまさしくデリアを倒した証拠だ。しかも一気に2レベルも上がったというご褒美付き。


「……やったな」

『ああ、さすが私の力を受け継いだ者だ。やはり貴様を選んで正解だった』

「選んでか……何だか不思議な気持ちだな」


 元々はスキルゼロ剣士がこうなるなんてな。これも運命というやつか。

 しかし自分の目的の為といえ、ここまでアシストしてくれたファフニール……嫌いじゃないかもな。


「……死ンダ……デリア様死ンダ……」

「化ケ物ダ……」

「……ウワアアアアアアア!!」


 リザードソルジャーが恐れをなしたかのように、一斉に出入り口に殺到していった。


 逃がす訳にはいかない。

 逃げたあとにこいつらがまた悪事をする可能性がある。レイアのような子を増やしたくもないのだ。


「喰らえっ!!」


 矢を放つと再び複数に分裂して、リザードソルジャー全員を貫いた。

 全員が断末魔を上げることなくほぼ即死。このエリア内にいる魔賊ゴルゴンデリアは、俺の手によって全滅した。


 そのあと弓が元のロングソードに戻った。思わず色んな角度から眺めてみたが、ちゃんとロングソードの形になっている。

 剣から弓矢に変化した訳だが……まだ実感できないな。こんなの出来るの、おとぎ話に出る錬金術師とかくらいじゃないのか……?


「フユマ……!」


 そう考えていた為だろうか。気付くと、レイアがいつの間にか自分のところに来ていた。

 俺はロングソードをしまって、彼女と向かい合う。すると彼女が俺の手を握ってきた。


「……その……ありがとう……」

 

 彼女はそれだけ言って、恥ずかしそうに顔をうつむかせた。

 お礼にしては短いのだが、彼女が物静かな性格だって分かっているので不満なんて一切なかった。


 それに、彼女がそう言ってくれるだけでも嬉しい。


「これで君がビクビクする必要はなくなったよ。もう安心して」


 レイアやゴルゴンデリアが話さなかったというのもあるが、結局のところ奴らが彼女を狙う理由が分からなかった。

 いや、より正確には「知る必要がなかった」といった方が正しいか。


 だってそうだろ? 狙われる理由を聞くよりも、狙う奴らを排除する方を優先すべきなのだから。

 そうして俺はゴルゴンデリアを恐らく全滅させた。これでレイアの身の危険は回避されたし、狙われる理由がどうこうというのもこれで関係なくなった。


「…………」

「レイア?」

「……フユマは、どうしてそこまでしてくれるの? レイアのことあんまり分かってないのに」

「……なるほどね」


 今さっき思ったことを言われるとは。

 でも俺はそんな彼女の頭を、優しくポンと叩いた。


「分かってる分かってないなんて、俺にはどうでもいいことなんだ。俺は君を助けたかった。ただそれだけなんだよ」

「……フユマ……」

「俺たちは仲間……いや友達なんだ。遠慮することなんてないんだよ」


 友達に危機が迫ったら、助けるのが当たり前なのだ。

 それからレイアが初めて出会った時、帰り道が分からないと言っていた。とするとここは野宿するしかない。


「帰り道分かんないんだよね? 野宿とか大丈夫?」

「……平気、多分」

「そっか。帰る方法が見つかるまでだけど、ちゃんと一緒にいるよ」


 ハンターにはもしもの為のサバイバル技術を取得している。何とかはなるだろう。

 ここには用がなくなったし、そろそろファフニールダンジョンの近くに戻ろう。野宿でもすれば何とかなるしな。


「さっ、一緒にあいつのところに行こうか」

「……あっ、ちょっと……」

「ん?」

「この手温かいから……もう1回なでなでして……」


 ……よろしいっすか? 確かに頭に手を置いてあるけどさ……。

 しかも彼女、潤んだ目で上目遣いをしてくる。そんな可愛い顔でされたら……。


「じゃあ……」


 またさっきみたく頭を優しく撫でた。

 やっぱりこの髪、すごく柔らかい……。レイアが「ん……」と言っているのも何かエロい……。

 あと獣耳がぴょこぴょこと跳ねているのも可愛いな……。


「……はいおしまい」

「えっ、もう!?」

「うん。だから早く帰ろう」


 そう微笑んで、ぴょんぴょんと遺跡から出て行った。

 なんて言ったらいいんだろう……本当にうちで飼っている猫そっくりだ。


『……振り回されているな、貴様は』

「多分な……でも一緒にいると楽しいからいいけどな」


 本音だ。前のクズパーティーとは雲泥の差だ。

 俺はレイアを追うように外を出た。いつしか夕方になっていたらしく、空が真っ赤に焼けている。


 実に綺麗だ。強大な魔物を倒した俺へのご褒美なんだと思えてくる。

 何だかやる気が出てきたぞ。ここからハンターとしての再スタートを始めたい……そんな気分だ。


「……というか、剣が喋るのって何か怖いな」

『慣れろ』

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