第8話 早速新しいスキルを使ってみる

武器形態変化メタモルフォーゼウエポン】に【エリアポイントテレポート】……どれも全く見たことがないスキルだ。

 俺だけの……俺だけの新しいスキル! こういうのが手に入れたかったんだ!! 本当に嬉しい!!


「レイア見てくれ! スキルが増えたんだ! しかもどのハンターも持ってなさそうなやつ!!」

「うん……フユマすごい。レイアも嬉しいよ」

「ありがとうな! いやぁ、感激なんてもんじゃないよ! やっぱここに入って正解だった!」


 ……と有頂天になったところで、俺はふと冷静になった。

 俺がスキル獲得できたのはいいが、レイアの方は? 確かファフニールのやつ、元々スキルや魔法を持っている者はファフニールの力に耐え切れなくなったと言っていた。

 レイアも炎属性魔法も【魔力障壁】も持っている。とすると、彼女がその力を取り込んではいけないということに。


「えっと、ごめんレイア……。君の方はファフニールの力が……」

「ううん大丈夫だよ。それよりもフユマの目的が叶ってよかったよ」


 微笑みながらも答えたが、ほんの少しの辛さがにじみ出ていた。気のせいとかではない。

 それなのに彼女は俺を優先させるなんて……優しすぎた。彼女はいくらなんでも優しすぎる。


「……まだ何とも言えないけど、絶対に魔法を出せる方法を探し出すから。それまで待っててほしいけど……」

「いいよそんな……もし見つからなかったら……」

『いや、可能性はなくはないな』


 部屋中にファフニールの声が響いた。

 少し驚いてしまった。どうもあいつのいる部屋じゃなくても声が聞こえてくるらしい。さすがダンジョンそのものになった魔龍。


『私の力をスキルとして受け継がれた以上、フユマはある程度のことは出来る。それを応用すれば貴様も何とかなるかもしれない』

「……だってよ。だからしばらくは付き合ってくれないかな? 必ず方法は見つけるから……約束だ」

「……うん、分かった。フユマのこと信じる……」


 こくっ、とうなずくレイア。

 俺だってスキルがもらえたんだ。絶対に彼女にも魔法が出せる方法が見つかるはず。


 それまでどうか待ってほしい……そう願うばかりだ。


「それとファフニール、彼女はレイアだ。それも覚えといて」

『了解した。それと制御装置は先ほど言ったように、ダンジョンの至るところに配置されている。それを突き刺せば新たなる力が宿ることになるだろう。もっともトラップや魔物が行く手を阻むが」

「さっきみたいなのがあるのか……そういうの何とかならないのか?」

『ダンジョンの仕掛けは元のまま。分身の魔物も私の意思から離れて行動することもある。これは試練だと思って慣れてくれ』

「……まぁ、仕掛けも魔物もないダンジョンなんてつまらないしな」


 不安がない訳でもないが、それよりも興奮が勝った。

 ここは俺にとってのスキルアップステージ。こんなにも自分にとっての最適な場所なんてない。


 俺だけのスキルを手に入れる夢とレイアの悩み解決の為なら、ここが魔龍ダンジョンだって構わない!


『それで早速だが【エリアポイントテレポート】を試してもらおうか。それをつぶやけば任意の場所にまで転送することが出来る。その時レイアなど連れて行きたい者も近くにいれば、一緒に転送することが可能だ』

「任意の場所というと、出入り口とか?」

『そうだ。さらにダンジョンの外でも対応する。ただし一度訪れた場所でないと出来ない……それを覚えとけ』


 つまりこのスキルを使えば、さっきの奈落エリアをわざわざ通過しなくてもいいということになる。

 

「じゃあ試しに……レイア、一応俺の手を掴んで」

「うん……」


 俺の手をレイアが握ってくる。

 ……さっきも握ってはいたが、本当に女の子の手って柔らかいんだな……。肌もすべすべしているし、男性とは大違い。


 というかそんなことを考えている場合じゃないか。俺は頭の中に出入口を浮かばせる。

 スキルは【メタル斬り】のように常時発動しているものもあれば、自身で唱えて発動するものもある。【エリアポイントテレポート】は後者らしい。


「【エリアポイントテレポート】」


 スキルを唱えると、俺の周囲が光りだした。

 その光に包まれたと思えば、すぐにそれが消えてしまう。


 眩しさに目を細めていた俺が周りを見渡すと、そこはダンジョンの出入り口だった。


「はぁ、こういうことか。レイアは……ちゃんと付いて来ているな」

「うん、ちょっと周りが光ったらびっくりした……」

「確かに……これって逆のことは出来るかな」


 今度はファフニールがいるエリアを考えながら、もう一度【エリアポイントテレポート】を唱える。

 ついでにレイアも付いて行けるかどうか試す為、手は離していた。


 また周囲が光って、また消える。

 すると出入り口はなく、ファフニールが目の前にいた。レイアもちゃんと近くにいる。


『使い方は分かっただろう?』

「お、おう……何か……すげぇな!」


 もう上機嫌がマックス状態だ。

 こんなこと、ハンターになってから初めてだ。本当にここに入ってよかったと思う。


「じゃあ今度はダンジョンの外だな! 【エリアポイントテレポート】!」


 ダンジョン内部は検証終了。今度はダンジョンの外だ。

 こちらも視界が外の森に変わった。だが何故か浮遊感を感じる……。


「って!? うお!?」


 真下に川!?

 気付いた時にはレイアと一緒に落ちてしまった。対応? すぐに出来る訳がない……。


「プハッ! レイア、大丈夫!?」

「大丈夫……そんなに深くなかったね」


 レイアには怪我はなかった。

 確かに川は足がすっぽり入るくらいで、溺れてしまう心配もなかった。


「…………」

「どうしたの……?」

「あっ、いや……」


 今、レイアは俺に背を向けている状態だ。

 なので、彼女のお尻がこれでもかと目に入ってきた……いや、入ってしまった。


 スカートから浮き出ているお尻が大きくて、それでいていい形……。

 美尻と言うべきか……。


「……エッチ」

「あっ……ごめん!! そんなじろじろ見るつもりじゃなかったんだけど!!」

「謝罪として服を脱いでお尻とお〇〇〇んを見せてください」

「そこまで!? ってか年頃の女の子がそんなこと口にしちゃいかんよ!?」

「冗談です」

「冗談かい!?」


 この子、中々の曲者だなぁ……。でも物静かだけじゃなくて冗談も言えるということなんだな。


 それに何だか楽しい。思わず笑みが出てしまう。

 それにつられてか、レイアもほんの少しだけ微笑んだ。


 それから俺たちは川岸に上がったあと、レイアの炎魔法で服を乾かした。さっき降っていた雨はとっくに止んでいるようだ。


 と、おもむろに見上げてみれば、森の中から顔をのぞかせたダンジョンが目に入る。

 ちゃんと俺たちはあそこの外から出たみたいだ。


「まさかあれが魔龍が制御するダンジョンって思わないよな……。ギルドが知ったら腰抜かすかも」

「うん……多分それが分かったのはフユマで最初……」

「そうかなぁ……。まぁそれより名前でも付けておくか。あった方がいいし」


 もはやあれはただのダンジョンではない。

 なので他ダンジョンとの区別として名前を付けた方がいいはず。


「そうだな……『ファフニールダンジョン』でいいか。分かりやすいだろ?」

「……安直」

「いや、それ以外に付けようがないし……」


 すいませんね、ネーミングセンスがゼロで……。

 ともかくとしてだ。俺はしばらくの間ファフニールとは長い付き合いをするかもしれない。

 

 あいつの言う身の安全云々は少し不安だが、でもスキルゼロ剣士の俺に未来を与えてくれたのもあいつだ。

 何としてでもダンジョンの中全てを探索したい。


「……そういえばここに来てから何も食べてなかったな……何か食べたいものってある?」

「何かあるの?」

「携帯食料が何個か。あとはまぁ、森の獣とか魚かな」


 自分たちが落ちた川には魚が泳いでいる。

 ハンターはもしもの為のサバイバル技術を身に付けている。俺はよくロングソードで魚を捕まえていた。


 それに川もあるから水浴も出来るし、さっきレイアがいずれ迎えが来るとか言っていた。

 パーティーに捨てられたとはいえ何とかなるだろう。


「レイアはこういうサバイバル的なものって大丈夫?」

「大丈夫。よく森の中、1人で歩いたりするから」

「それ関係あるかな……?」


 ……そもそもこれ、要は女の子と一緒にダンジョンライフを築けということだよな。

 大丈夫? 罰が下らないか俺? 

 






 ――ギリギリギリ……。


 そう考えていたら、かすかな音が俺の耳に入った。

 これはもしかして……。


 ――バシュッ!!


「――ごめん!!」

「わっ……」

 

 絞るようなものから甲高い音に変わった。


 レイアと一緒に地面に伏せた直後、近くの木に矢が刺さる。

 これは明らかに殺意ある行動。誰かが俺たちを狙っているようだ。


「出てこい!」


 ロングソードを取り出しながら俺は叫んだ。

 同時にレイアを後ろに控えさせたところ、草むらが急に動いた。それが右も左も、後ろからもだ。


 その草むらをかき分けるように、ゆっくりと人影が現れてくる。

 いや、影は不適切か。それは人間じゃない。


「ヤット見ツケタゾ……小娘メ」


 レイアを拉致しようとしたリザードソルジャーたちだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る