第9話 VS魔賊ゴルゴンデリア

「やっぱり来ると思ったよ」


 リザードソルジャーが来ることなんて予想通りだ。狙った獲物を逃がさない執念は、ハンターの間でも広まっているのだから。

 きっと俺たちが外に出たあと、ここにやってきたのだろう。もしタイミングがずれていたら俺たちを探せなかったのかもしれない。本当に運が悪い。


 俺たちはリザードソルジャーたちに囲まれてしまう。数は見る限り7体。


 さっき襲った弓矢の個体は、その後方にいるのが分かる。


「オ前ガ仲間ヲヤッタミタイダナ……ドウ落トシ前ヲツケル?」


 音程を濁らせた声でリザードソルジャーが言う。

 獲物レイアと一緒にいる俺を、仲間の仇と思うのは無理ないだろう。トカゲにしては頭がいい。


 それよりも俺は奴らに聞きたいことがあった。


「お前ら、魔賊ゴルゴンデリアで間違いないだろ? まさかこんなところにいるとは思ってなかったけど」

「ソレガドウシタ……?」

「答えるとは思えないけど、何でレイアを狙うんだ? そんなにお前らにとって彼女が大事なのか?」

「……オ前ニハ関係ナイ。トットト小娘ヲ渡セ」


 案外答えてくれるのではと期待をしたが、無駄だったようだ。

 リザードソルジャーたちが次々と斧を取り出す。俺を八つ裂きにするつもりらしい。


「フユマ……」

「分かってる……必ず君のことは守るから」


 こいつらには絶対に渡さない。何としてでも彼女を守ってみせる。


 俺は考えた。いくら【メタル斬り】があるとはいえ、さすがにこれくらいの数は中々難しい。

 何か方法があるはずだ……何か……。


「ヤレ……女ハ無傷デ捕獲シロ」

「オオオオオオン!!」


 咆哮を上げながら襲いかかるリザードソルジャー。

 せめて考えごとはさせろっての!

 

「レイア、なるべく俺の背中にいて!!」


 1体目が振り下ろす斧は【メタル斬り】で破壊。動揺している間にそいつの首をはねる。

 

 そのあとに2体目が迫ってきて、鋭い爪を振るってきた。

 身体をそらすようにかわし、鎧ごと切断。身体を真っ二つにする。

 

「何ダコイツ……!? 鎧ゴト斬ッテイル!?」

「斧ガ破壊サレルナンテ!!」


 敵が動揺している。じりじりと下がるのも見て取れた。


 戦闘において『未知の力』というのは、敵にとって最大の威嚇にもなる。

 戦闘はビビった方が負けなんだ。


「これで分かっただろ? さっさとここから出て行……」

「剣ダ!! 剣ヲ落トセ!! ソウスレバ何モ出来ナイ!!」


 後方のリザードソルジャーが弓を振り絞った。そして矢が放たれる。

 近付くのが怖いからと、遠距離から攻撃する算段だ!


「【魔力障壁】……!」


 背中に付いているレイアが【魔力障壁】を張ってくれた。

 透明のバリアによって全ての矢が弾かれる。何ともありがたい。

 

「ありがとうレイア!」

「でもすぐに消えるかも……使えるのは二回くらいだから……」


 言われてみれば【魔力障壁】が消えかかっていた。しかも弓矢の連撃は絶えることがない。

 こうなれば仕方がない。【魔力障壁】が消えたと同時に、ロングソードで矢をはじき返した。一応こういう技術くらいは持っている。


 しかし矢を弾いたあと、もう1本の矢がソードに当たってしまった。

 ソードが回転しながら吹っ飛ばされ、後方の木に刺さってしまう。


「ちっ!」

「今ダ!! 男ヲ殺セ!!」


 再び矢の連撃。

 すぐにレイアと共に木の陰に隠れた。だがこんなの気休めにもならないのは知っている。


 武器が離れてしまったこの状況を、どうにかしないといけない。


 矢の雨を潜り抜けながらソードを取りに行く方法……考えろ……早く答えを見つけるんだフユマ。そうしないとレイアが連れて行かれるんだぞ!


 絶対に方法があるはずだ! この状況をどうにかする方法……方法?


「トドメヲ刺セ!! ソシテ小娘ヲ奪イ取レ!!」


 ……そうだ。もしかしたらいけるかもしれない。

 確証はないが、それでもやる価値はある。


「オオオオオオンン!!」


 俺を真っ二つにしようとするリザードソルジャーの斧。

 そいつが来る前に、俺は


「【エリアポイントテレポート】!!」




 ――その時、斧によって木はなぎ倒された。

 

 しかし俺とレイアは無事だった。


「ナッ……何ッ!?」

「……やった、成功した!!」


 俺たちは今、ロングソードが刺さった木の近くに立っていた!


 さきほど俺は「【エリアポイントテレポート】で短距離瞬間移動が出来るのでは?」と考えていた。

 同時にそんな都合のいいことは出来ないとも思っていたが、状況が状況。ぐずぐずしている場合ではなかった。


 この世界の創造神に祈る気持ちで唱えた。するとどうだ、短距離瞬間移動が出来たじゃないか!

 元々はダンジョンの出入り口まで戻るスキルなんだぞ……と、このトカゲたちに言ったら唖然とするだろうなぁ。


 ともかくこれは嬉しい。これなら戦える!!


「ドウナッテイル……!? ソンナスキル聞イタコトガナイ……!!」

「ドウスル……!?」

「小娘ヲ奪ウマデ戻レナイ!! 何トシテデモ殺セ!!」


 後方の弓矢リザードソルジャーが矢を放つ。

 俺はロングソードを引き抜きながら、また叫ぶ。


「【エリアポイントテレポート】!!」

「……!?」


 もう既に、俺は弓矢の連中の後ろだ。

 振り返るより先に1体目を斬る。2体目、そして矢を放とうとした3体目も。弓矢装備は近付けられたら何も出来ないのだ。


 これで敵の数は2体となった。

 どちらも酷く怯えている。まさにヘビに睨まれたカエルのようだ。


「どうする、まだやる気なのか?」

「……クッ!!」


 1体が恐れをなしたか逃げ出した。仲間が止めようとした時には草むらの奥に消えてしまう。

 その残ったリザードソルジャーは戸惑ったあと、木に隠れているレイアを見ていた。


 そして背を向けようとしたところで、俺はダッシュした。

 彼女を人質に取ろうとしているのが見え見えだ。【エリアポイントテレポート】を使うまでもない。


「ガッハ!?」


 俺は飛び蹴りをしてリザードソルジャーを倒れさせる。

 顔の真横にソードを突き付けて脅しもする。


「ヒッ……」

「……ゴルゴンデリアにはボスがいるはずだ。そいつに会わせろ」

「ナ、何故……」

「何故? ここまでされて何もしないという訳にはいかないだろうが」


 もしここでこいつを殺したとしても、ゴルゴンデリアは報復をすることだろう。何せ人間に手玉を取られたと知ったらプライドが許せないはず。

 それにボスを倒せば二度と俺たちを狙わない。レイアに降りかかる火の粉も消える。


「……死ヌ気ナノカ。ボスニ八ツ裂キニサレルダケダゾ」

「そう言うと思っていたよ」


 魔物を束ねるボスなんだ。弱くない訳がない。


 ファフニールダンジョンで強くなってからカチコミに行こうという選択もある。しかし逆に言えばレイアの狙われる危険性が消えない。ボスが倒されるまで怯えてしまうということだ。


 彼女にはそんな余計なことはさせたくなかった。


「フユマ、大丈夫なの……?」

「ああ、大丈夫だよ。必ず奴を倒す」


 例えどんな敵だろうと勝たなくてはならない。

 そう思って、俺はレイアに笑った。




 *********************************




 俺とレイアは魔賊ゴルゴンデリアのアジトへと向かった。


 先導させているリザードソルジャーには、常に背中にソードを突き付けている。

 下手な動きを見せたら首切断コースだ。


 森を歩くうちに段々とダンジョンが見えなくなってきた。こいつらのアジトは割と遠くにありそうだ。


 それとゴルゴンデリアのボスについてはよく分かっていない。

 そもそもゴルゴンデリアは噂だけで聞いただけなので、構成員が何なのかすら分かっていなかった。どのみちそれなりに強いリザードソルジャーを束ねているのだから相当強力に違いない。

 

「ココダ……」


 森の中から遺跡が見えてきた。それもレンガで出てきたオーソドックスなやつ。


 ただダンジョンという割りには小さい。精々街でよく見るお屋敷くらいだ。

 

「お前ら、こんなところに住んでいたのか」

「オ前ガ知ル必要ナド……」

「斬られたいか? 今、弱い立場だって知ってるだろ」

「……元々俺タチハ本拠地持タナイ……放浪シナガラ住居ヲ探シテイル。ソノ際、ココニ住ミ付イテイタ魔物ヲ食イ殺シタ」


 リザードソルジャーが奥の方に指差していた。人型の骨が山積みになっている。

 人間よりも小さいあの形状、確かゴブリンだ。そういう骨格標本を本で見たことがあるからすぐに分かった。


 それにゴルゴンデリアが、魔物相手でも容赦しないというのは本当のようだ。つくづく人間と魔物両方にとって危険な組織だよ。


 そんな事実を理解したところで、俺たちは遺跡の中へと入っていった。

 薄暗い通路が続いていたが、やがて目の前からざわめき声が聞こえてくる。あそこに連中がいるのが明白だ。


「……ん、誰だ貴様?」


 通路の先にあったのは、剣術訓練でも出来そうな広場だ。そこに到着するとまず声をかけられた。

 リザードソルジャーとは別の魔物で、レンガで出来た玉座に座っていた。


「ただのハンターだよ。あんたを……」


 俺が言おうとしている時、案内してくれたリザードソルジャーが襲いかかろうとした。

 そいつの胸を刺し貫いたあと、俺は宣言する。


「倒しに来たんだ」

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