第4話 とびっきり可愛い女の子だった……
「……おおお…………うおおおおお!!! おおおおおおお!!」
俺に!! 俺にスキルが付いた!!
今まで苦労してもなお付いてこなかったのに! 元仲間のパーティーに捨て駒にされる原因だったのに!
それが今、俺のこの手の中にある!
嬉しいなんてものではない。嬉しすぎて涙が出てしまいそうだ!
「ついに俺にスキルが……あっ、ちょっと待った」
すぐにステータスカードを取り出した。実はスキルなどが追加された時に、カードに表示されるのだ。
早速見てみると、
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ハンター:フユマ Lv26
職業:剣士
属性:なし
スキル:なし
メタル斬り
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やっぱり【メタル斬り】というスキルが追加されている! しかもこんなスキル聞いたことがない!
今の効果からして、恐らく鎧や武器……とりわけ硬い金属を破壊する能力といったところか。
俺だけのスキル……夢にまで見たスキル……嬉しすぎて心臓が飛び出そうだ。
「……あれ、でも何で『なし』が消えていないんだ?」
普通なら「スキル:メタル斬り」になっているはず。まるで元々の文章に付け加えたかのようだ。
一体これは何だろう……。
「……あの……」
「あっ、ごめん! 大丈夫か君!」
そうだった。俺は青髪の女の子を助けに来たんだ。
一旦スキルのことは忘れて、彼女の腕を縛った縄をほどいた。これで一安心と思いきや、俺の視界に彼女の顔が入ってくる。
……可愛い。
戦闘の時とかよく見てなかったが、色白の肌をした美貌を持っている。まるで一輪の百合のようだ。
髪と同じ青色の瞳、薄く綺麗な唇。それに目立っていた青髪のショートヘアーも、雨に濡れて艶やかだ。
そして極めつけは青髪に対して黒く染まった獣耳。髪と色が違うのは珍しいが、それが逆に良い意味で印象的だ。
「……どうしたの……?」
「……あっ、いや……とりあえず雨降っているから中に入ろうか。風邪引くからさ」
ボォーとしていたところ、その女の子に突っ込まれてしまった。いけないいけない。
すぐに俺はダンジョンの出入り口へと、彼女を連れて行った。雨に濡れ続けたものだから、中に入っても水滴がこぼれ落ちる。
俺たちは出入り口付近に腰かける。幸い気温はそんなに低くないが、それでも肌寒い。
何か温める方法があればいいが……。
「……はい」
そう思っていたら、彼女の手のひらから火が
ほんのりとした温かさが、冷えた俺たちを癒してくれる。
「君、炎属性魔法が使えるんだ」
「……うん……まだ完璧には使えない……けど」
魔法持ちだったか。……ってそれが普通だよな。
あと自分の視界に彼女の濡れた服が入ってしまった。白い下着が薄く……思わず目を逸らしてしまう。
「そっか……でも悪いな。こんなことをさせてもらっちゃって……」
「……大丈夫……これは助けてくれたお礼……」
女の子は話す時に表情を変えなかった。口調も物静かだから、そういう性格なのかもしれない。
にしても魔法があるとやはり便利になるだろうな。
せめて炎さえがあれば……まぁそれはさておき。
「俺はフユマ。よかったら君の名前……」
「……レイア」
「レイアね。耳からして獣人かな」
「…………うん」
間を置いて返事するレイア。
少し違和感を感じたが、それは俺が相手だからだろう。何せ鎧すら斬れる人が目の前にいたら怖いだろうし。
「あの魔物は何だったんだ? というか君はどこから来たの?」
「……あいつらは『魔賊ゴルゴンデリア』。この一帯で荒らし回っている……」
「ゴルゴンデリア……あっ、あの魔物だけで構成されているという?」
魔賊ゴルゴンデリアは、文字通り魔物たちが結成した盗賊集団だ。
実際には遭遇していないが、行く先々の村を侵略しては強奪破壊を繰り返しているとされている。
それに他魔物との抗争も絶えないらしく、いわゆる同士討ちも珍しいことではないらしい。
「君が奴らに捕まったのは一体……?」
「…………」
「……まぁ、言えないならいいよ。人間明かせないことがあるから」
彼女はさっきまで拉致されそうになったのだ。心の整理が付かなくて当然。
それに魔物が女性を拐う理由なんて……いや考えるのはやめておこう。
口に出していないと言え、彼女に失礼だ。
「……フユマは……」
「ん?」
「フユマはどうしてこのダンジョンに……? 何かアイテムでも探してたの……?」
「ああ……何というか、正確には見捨てられた。俺も望んでここに来た訳じゃないんだけど」
「どういう意味……?」
俺はレイアにこれまでの経緯を語った。
パーティーの奴らに捨て駒として置いていかれたこと。襲いかかった魔物を倒したあと、ここにたどり着いたこと。
そしてこうなった理由は、自分がスキルゼロ剣士だったからということ。
「……スキルと魔法がない……?」
「ああ……幼い頃からそれが好きで、それでハンターになったんだ。でも調べたら何もないスキルゼロでさ、周りに白い目で見られていたっけ……ハハッ……」
語っているうちに、その光景が脳裏に浮かんでくる。
すれ違うたびにこちらを見てくる冷たい視線。何を言っているのか分からないひそひそ話。
何か悪い事をした訳ではない。だというのに、まるで罪人を見るような目を俺に向けていた。
そして極めつけはパーティーの奴らの言った『スキルゼロ剣士』……。
「……こうなるなんてな……」
夢見ていた子供の頃がどれだけ幸せだったのか。
本当にどうしてこうなったのだろう……そんな虚しさが俺に降りかかってくる。
「……フユマ?」
「あ、ごめん……余計な話だったね。とにかくここに流れ着いた俺は、もしかしたらスキルが手に入るのではと思って攻略したんだ。するとさ、【メタル斬り】ってスキルが追加されたんだよ! ほら、このステータスカードにもこう書いてるだろ!?」
「……本当だ。すごいねフユマ」
「でしょ!? 【メタル斬り】ってのは、さっきからして鎧と武器を破壊する能力らしくてさ、そんなの見たことも聞いたこともないんだ。だからもっと奥に行けば新しいスキルが見つかるかもしれない。しばらく経ったらそうしようと思ってさ」
……とここまでに言ったあと、急に考え直した。
ダンジョンの中に入るということは、この子を置いていくということになってしまう。
一人にさせていいのだろうか。
「ごめん、さすがに君を1人にさせる訳にいかないよな……というか帰り道とかって」
「……分かんない……。急にここに連れてこられたから……」
「家族とか、そういう知り合いが探してくるってのは?」
「来ると思うけど……いつになるのか分からない……」
「そっか……」
それが分かったら家に返そうと思ったが、これは厄介だ。知り合いもいつ来るのか分からないとなると、1人にさせる訳にもいかない。
そもそも森に放置された俺に何が出来る……ということもあるが。
「……付いて行く」
と俺が悩んでいる時、レイアが一言そう告げてきた。
「えっ? いいのか?」
「フユマは私の命の恩人だから……何か力になればいいけど……」
レイアが澄んだ瞳をこちらに向けてくる。すごく……綺麗です。
でも正直、女の子をダンジョン内に連れて行くのは抵抗がある。しかし彼女を1人置いてしまったら、またリザードソルジャーが襲ってくるに違いない。
となると自分と一緒の方が安全かもしれない。
さらに彼女には炎属性魔法がある。普通魔法は訓練して初めて放てるものなので、ある程度の戦闘力を持っているということになる。
それにここで「駄目だ」と突っぱねるのも失礼。
少し悩んだ末、俺は彼女にうなずいた。
「分かった。でも危なくなったらすぐに逃げてね」
「うん……」
レイアは素直にうなずいてくれた。
俺たちの服が乾いたところで、ダンジョン攻略再開だ。
俺はレイアと一緒に中へと突き進む。コツ……コツ……と俺達の靴音が通路内に響いた。
通路はしばらく一本道。何が待ち受けてもいいように、常にソードを前方に向けていた。
そのまま俺達は吸い込まれるように進んでいく。
「……ん」
天井から物体がボトリと落ちてきた。
正体は2体のメタルスライムだ。
「またメタルスライムか……レイア、下がって!」
2体とも先のように剣の形になる。こいつらもか!
襲いかかってくる2体へとロングソードを振るう。するとメタルスライムの剣が粉々に砕けた!
そこにすかさず本体も斬り、沈黙させる。
「こいつらにも【メタル斬り】の効果があるってことか……悪くない」
これならどんな硬い相手も軽く倒せるという訳か。
夢にまでに見た俺にとってのスキル。それが本当にこの手元にあるなんて……興奮が俺の頭の中に駆け巡るみたいだ。
「何だがすごい……」
「ありがとうな。とりあえず先に進も……」
そう言いかけながらレイアに振り返った時。
彼女の背後から鋭い剣が振り上げられていた。もう別個体のメタルスライムがそこにいたのだ。
「レイア!!」
「!」
レイアがすぐにメタルスライムを捉えたあと、手のひらを突き出した。
そこから真っ赤な火球が放たれ、メタルスライムに直撃した。
「あれ?」
かと思えば、メタルスライムはのけぞっただけだった。
そもそも炎魔法らしくないピシッという音が聞こえた気がする。
「「…………」」
お互い硬直してしまった。俺ですら反応に困ってしまった。
ただメタルスライムは違い、レイアに襲いかかろうとしていた。俺はレイアの後ろから出て、そいつを斬り倒した。
「レイア、今のは……」
俺が尋ねると、彼女が目をそらしていた。
よほど言えないことだと察したが、しかしレイアは俺に対して答えた。
「レイア……魔法が使えない……」
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