第3話 謎のスライム……!?

 ……整理しよう。


 本来メタルスライムは逃げ足が速い雑魚魔物だ。

 そのメタルスライムを倒せば豊富なレベルアップが出来ると聞いている。少なくともメタルスライムを逃がしてしまったという話はあっても、手こずったなんて聞いたことがない。


 ――ジュルルル……!!


 奇妙な音が聞えたと思えば、メタルスライムの身体が伸びた。

 ブヨブヨしていたそれがピンとなったあと、先端が剣のように鋭くなる。


 まるで床から剣を持った腕が生えてきたような姿だ。


「……嘘だろ」


 夢でも見ているのか……?

 呆然としていたところ、剣のような形態になったスライムが振り下ろされた。ロングソードで受け止める俺。


 こいつ、俺の知っているメタルスライムじゃない……!!


 こんな変形をするなんて聞いたこともないし、そもそも一撃与えたら即死するほどの最弱だ。

 こいつは一体何なんだ……特殊個体? それとも突然変異!?


「くっ!」


 そんな考える暇はなく、剣になったスライムが斬りかかる。

 その都度、自分もソードで斬り結ぶ。ガキン、ガキン!! ……という金属音がこのダンジョン内に響き渡った。


 こいつ、下手な剣士よりも剣士しているんじゃないか!? 

 何でスライムがこんなにも強いんだ!?


「こんなところでやられる訳には……!!」


 だがそれも一時だけ。

 次第に押されていくのが分かった。メタルスライムの連撃に耐え切れず、ついには自分の身体が飛ばされた。


 また尻餅を付いてしまう。

 そこにメタルスライムが剣先を向けてきた。いよいよトドメを刺そうとしている。


 くそっ、こんなところでやられるなんて……。




 ……やられる? いや、何でこんなところで死ななければいけない?


 俺はスキルと魔法が欲しくてハンターになったんだ。それを叶わずに死ぬなんて……、


「そんな事があって、たまるかぁ!!」


 俺はメタルスライムの剣をはじき返した。


 剣が壁に刺さって、身動きが取れなくなったメタルスライム。その隙に俺は剣の根本……要するにメタルスライムの本体を串刺した。


 金属色の粘液が飛び散った。

 ピイイ……という断末魔に似たような音を出したあと、メタルスライムの身体がドロドロに溶けていった。


「……やった……」

 

 何とかこのメタルスライムを倒すことが出来た……。

 やっぱり俺もやれば出来る奴だ。


 ――【Lv26】獲得。


 脳裏にその言葉が浮かんだ。

 レベルが上がったようだ。やっぱりレベルアップがしやすいようだ。


 でも……スキルの方はからっきし。こうなるともう、駄目なのかな……。


「……はぁ……さてと」


 とりあえず考えごとはここまでにして、メタルスライムの残骸から剣を引き抜こうとした。だがしかし、思わず動きを止めてしまう。


 死んだはずのメタルスライムがソードに纏わりついたのだ。まだ生きていたのかとギョッとしてしまう俺。

 しかし俺に襲ってくるのではなく、刃を取り込んでいった。そして同化するように浸透してしまう。


 一体何があった? 不思議に思った俺は剣を眺めてみる。

 刃は以前よりも光り輝いているようだ。どうやら質感が鏡のようになって、辺りの明るさに反射しているらしい。


「これまずいんじゃないか……どうしよう……」


 ただこれ、メタルスライムが浸透したものだ。

 襲いかかってこないなんて保証なんてないし、捨てるべきだろうか……でもこれを捨てたら武器がなくなってしまうし……。







 ――……や……。


「えっ……?」


 今、出入口から何か聞こえてきた。

 明らかに獣のうなり声ではない。これは女の……というか人の声!?


 これはラッキーだ! 今まで人がいないと思ってたが、これでやっと人里に行ける! 俺にも運が回ってきたという訳だ!







 ――……来イ!

 ――……い……。


 ……いや、待て。

 女の声に紛れて男の怒鳴り声が聞こえてきた。それに女の声がどこか苦しそうだ。


 もしかしてとんでもないことが起こっているのでは。


 となると、人里に行けるなんて喜んでいる場合ではない。幸いにもこちらはハンター……スキルはないが戦闘力自体はある。


 ソードを捨てるとかの話は後回し。俺は迷わず出入り口へと戻った。

 そして外に出てみると、まず2体の魔物が目に入った。


「立テ……歩ケ!!」


 フリルを付けた爬虫類の頭部、鎧を付けた屈強な人型の身体、長い尻尾。あれは『リザードソルジャー』だ。

 人間とそう変わらない知能と背中に携えた斧が武器で、ベテランの冒険者でも苦戦はするとか。


「……っ! いた……」


 そしてその2体に青髪の女の子が引きずられていた。

 よく見ると獣耳が生えている……獣人だろうか。ただ両腕も後ろに縛られていて、身動きが取れないでいる。

 どうみても穏やかではない状況に、俺は居ても立っても居られなかった。


「待てよ!」


「……? ……何故アノダンジョンカラ人間ガ……?」


 リザードソルジャーがどよめきたっていた。今あのダンジョンとか言っていたような?

 

 いや、そんなことはどうでもいい。これは明らかに女の子の拉致だ。

 目的はどうあれ、こいつらは彼女をどこかに連れて行こうとしている。そうなった場合、女の子が残酷な目に遭うのは明白だ。


「一体何をしたいのか分からないけど、どうみても普通とは思えない。大人しくその子を放せ」

 

 ロングソードをリザードソルジャーたちに差し向ける。メタルスライムが纏わりついているのがまだ気になるが。


 リザードソルジャーが鼻を鳴らすと、青髪の女の子を地面に放り出す。

 続いて背中の斧を取り出す。


「生意気ナ奴……スグニ終ワラス」


 まず1体のリザードソルジャーが迫り来た。

 俺にはスキルも魔法もないスキルゼロ剣士。だからと言ってこんな奴らに負けてしまったら、あの子が酷い目に遭ってしまう。


 負けるわけにはいかない。

 まず斧の振り下ろしをかわしたところでソードを振るった。と、相手が籠手を前に出して刃を受け止める。


 相手がまた斧を振るってくるので、後方へと下がる。

 むう……やはり聞いていた通り鎧の防御力が高い。こいつらは戦闘力もそうだが、鎧が結構厄介と聞く。


「グオオオオ!!」


 リザードソルジャーが斧を振り回してくる。俺は下がらざるを得なかった。

 ソードなんて今前に出したら折られかねない……! さっき使った短剣もあと1本だから、無闇に使う訳にいかない……詰んだか!


 くそっ、こんな時に魔法さえあれば……いやそれがなくてもスキルさえあれば……!


 ――【メタル斬り】獲得。


「えっ?」


 何かが脳裏に……。

 

 しかしその時、リザードソルジャーが斧を振るってきた。

 回避行動が間に合わない。仕方ないが、ソードを当てて軌道を逸らすしかない!


 ――バキイイインン!!


「……ナッ!?」

「えっ!?」


 またそんな声を出してしまった。

 ソードを斧に当てただけなのに、斧が粉々に砕けた!?


「キ、貴様ッ!!」


 リザードソルジャーが剛腕を振るってくる。

 

 もしや、斧だけではなく鎧も?


 試しに鎧に向かって斬ってみれば、そこが大きく抉れる。

 リザードソルジャーが「ガア!?」とうめき声を上げながら倒れた。


「何……!? 鎧ト斧ガ何故……化ケ物カ!?」


 いや、化け物のお前にそう言われても。


 でも一体何があったんだ。いくら何でも、ソードで鎧や斧を壊すなんてありえない……。

 もしやさっきの声と関係があるのか……?


「オノレ!!」

 

 もう1体が走ってきた。やる気満々だ。

 正直戸惑っている方だが、それよりも討伐が先だ。今度は俺の方も奴に向かって、一刺ししようとした。


 それに対して斧で防御するリザードソルジャー……だが。


「グオオオオオ!?」


 切っ先が斧も鎧も貫通した。血が噴出する。

 訳が分からない。そんな顔を浮かべたリザードソルジャーが即死した。


「……ちょっと待て……どういうことだ? こんな威力なんて今までなかったのに……」


 正直、俺は夢を見ているのではと思った。

 こんなの絶対にありえない。俺にこんな力があるとは思えない。


 やはり脳裏に浮かんだ【メタル斬り】というやつの影響だろうか。

 というかそれって……もしかしてスキル?

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