第87話 女神となった友人の信奉者

ブルドーザー

あまりにも武骨で味気ない表現かもしれないが、今の俺はまさしくそれだった。


アランとヒートを肩にのせ透明なブルドーザーと化した俺は前から襲いかかってくる敵を機械的に倒していく。


「いや~こういう事いうとアレっスけど壮観ッスね…」


「油断するなよヒート。俺達はストーンキャットが取りこぼした敵を倒すんだ。

血一滴垂らしてはいけないぞ」


「そうッスね!気合入れていくっス!!」


実のところ、俺達は城に侵入した後、魔王から一人の魔法使いの騎士について聞かされていた。

他人の魔法を移し替える魔法を使う騎士。天音を神にするために必要不可欠な人物。


その騎士のことを、魔王は"吸血鬼"だと称していた。


他人の血を摂取することでその相手の魔法をコピーし、自分の血を他人に飲ませることで相手に魔法を与えるというもの。


つまり一滴でも血を流し敵に舐められでもしたらアウトというわけだ。


魔王はその魔法使いから血を分け与えてもらうことにより、3つの魔法を使いこなしていたらしい。

そして、その魔法使いの騎士が、間違いなく脅威の王都の騎士で最も脅威だという。


「―――っ!?」


突如、ヒートが何かを察し俺から飛び降りた。それによりヒートのみ透明化が解けてしまう。


「どうしたヒート?!」


「!?アランさん危ない!!」


ヒートは俺の後ろあたりに爆発をさせる。その爆風によりアランは俺の肩から落ち、俺も透明化が解ける。代わりに俺の後ろ辺りに一人の少女が落ちた。


「いててて、失敗してしまってであります…」


2つの三つ編みのおさげの牧歌的な雰囲気の少女が、ヘラヘラと笑っていた。

俺は正面から切りかかってきた騎士を吹っ飛ばしながら少女を二度見してしまった。

その無害そうな容姿に対して服装はカレンやフレアと同じ身分であることを示していたからだ。


「卑怯な事を好きではないが、今はそれどころではないんだ。すまないなレディ」


アランが、転んでいる少女に斬りかかる。


「いえいえ、謝るのは不意打ちを仕掛けたこちらであります!」


しかし、少女の快活な返事と共に姿を消した。

気づいた時にはアランの背後を取っていた。そこからナイフを振りかざすが、アランは間一髪で回避する。


「早すぎて目に入らないッス?!」


「えぇ!えぇ!高速の魔法です!大変便利なので吾輩気に入っているのであります!」


自分から魔法をバラすなんて、馬鹿なのか、よっぽど自信があるかのどちらかだ。彼女は間違いなく後者なのだろう。

俺が目の前の有象無象の騎士達を相手している代わりにヒートはアランに駆け寄る。


「高速の魔法か面白い」


「接近戦ならこっちのものッスね」


2人は立ち上がり、透明化した。それを見て少女は心底嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。


「透明になる魔法でありますか?!なんて吾輩向きなのでしょう!!」


上ずった声で叫んでから、少女は消えた。


透明なアランとヒートを捕えられるはずがない。

それでも少女は我武者羅か型があるのか、アランとヒートがいる辺りを高速で飛び回る。それは常人の目には少女が分身の術を使っているようにも錯覚するほどの異様な光景であった。


さすがに2人ヒモを掴んだまま避け続けるのは厳しいのか、一瞬、ヒートの姿が映る。

少女はそれを見逃さず、ヒートに斬りかかった


「……ふーん、魔法しか能の無い他の連中とは違うようでありますね」


ヒートは忍ばせていたチルハに錬成してもらった刀で少女の斬撃を防いでいた。


「生憎、生まれつき魔法が役に立たないものだったので…」


「では、透明化は貴殿の魔法では無いのでありますね!!」


「ぐっ!?」


少女はヒートをまっすぐ見据えているにも関わらず、片手間のようにアランに向かってナイフを投げた。


見事的中してしまい、膝から血を垂れ流すアランがうっすらと浮きあがってくる。


「アランさん!!」


血をだらだらと流すアランを目にした少女の円らな瞳がフクロウのように大きく広がり、輝いた。


「どいてください!」


ヒートを蹴り飛ばしアランに駆け寄る。そしてアランの膝に刺さったナイフを抜いた。


「わっはぁ…♪いただきます!!」


そして、驚くべきことに、少女はナイフについたアランの血を舐めとった。


「「「?!」」」


「はぁ…♪」とどこか色っぽい吐息を漏らし、高揚の表情を浮かべる少女は足元からみるみる透明になっていく。


嫌でも悟ってしまった。


―――相手の血を摂取することでその魔法を奪う吸血鬼


「申し遅れました!吾輩はアイリス・イートレッド!」


口元を血だらけにして笑うこの少女が、無邪気に敬礼のポーズを決める彼女は


「マオちゃんからは吸血鬼と称されていたであります!」


間違いなく、王都の騎士一番の脅威であるということを


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