第86話 脳みそである友人を取り戻すだけ
「終わったかストーンキャット」
無理な作戦を立ててくれたな。だが、まぁ割と上手くいったよ
俺はカレンを抱えたまま、拳の裏でアランとハイタッチをした。
いつの間にかチルハとヒートも上に上がってきて、チルハが魔王に即席の服を錬成してやっているところだった。
俺は抱えていた気絶したフレアとカレンを床に置く。
「ゴースケくん!ヒモつくる?!」
「俺結ぶ役やります!!」
今回役に立てなかったことを気にしてるのか2人は前のめりで役割を立候補してきた。
俺は頷いてから気絶させたカレンと、フレアを2人に渡す
「ゴースケ」
冷たく重みのある声が俺の耳元をかすめた。いつのまにか魔王が俺の肩にひっついている。
続きの言葉を待つが、魔王は無表情のまま俺を見つめるだけだった。
「察してやれゴースケ」
「そうですよ。男の子でしょう」
いやお前が言うのかよ。
少し考えてから、魔王がぐっと頭を押し付けてくる仕草を見て、先程、手柄をあげたら頭を撫でるという約束を一方的にされたことを思い出した。
確かに今回は魔王の力が必須だった。俺は差し出された頭を無造作に撫でた。
「痛いです。こんなものがご褒美になるのですか」
マジでかわいくない奴だな。演技でも嬉しそうにしてくれ。
……いやそんな魔王は想像したくないのだが
「次も成果をあげたら、よろしくお願いしますね」
そう言って魔王は俺の肩から降り、前をタッタと軽やかに歩いていった。
サラッとおかわりを要求された俺は今の言葉の意味を理解するのに数秒を要した。
本当にかわいくない奴だ。
魔王は先ほど俺を投げ飛ばした窓に近寄り、上を見上げる。後ろからアランも顔を出した。
「カレンはどの窓から出ていたか覚えていますか?」
「ゴースケが手をついた場所があそこだから、そこより4階上。だな。ここが5階だとしたらあそこは23階ぐらいだろう」
瓦礫が下に落ちた。俺達が今いる位置は割れているのだろう。上から兵士達が降りてくる音が聞こえる。下からこられたら挟み撃ちになる。
「やはり、外から行くべきですか」
「空中戦ができるのがゴースケさんと魔王サンしかいないじゃないッスか!」
「では、私を倒した時のように上から登場してはどうです?」
「でも魔王を倒しにいった時と違って下にも兵士はいっぱいおるで…?そんな時間与えてくれるやろか。」
どんどん足音は近づいてくる。このまま全てを破壊してしまおうか。それで城が崩れでもしたら天音を傷つける可能性が高い。
「ゴーストレイト…正面突破だろ」
アランがキメ顔で言った
「ひわっ下から兵士にこられたら挟み撃ちやられてまうよ…?」
「下に向かってローションでも流して置くといい」
「あ!それいい考えッスね!!」
「後は敵は正面だけだ。楽ちんだろ」
アランは笑った。
そうだな。回り込まれることも後から突然刺されることもあり得ない。前の敵をぶん殴って進めば良いだけだ。
「よう言ってくれるわ…」
しかし、そのためにはチルハはここで留まらなくてはならない。チルハ一人残していくのは正直不安だ。
「では、私がここでチルハを守りましょう」
「ひわっ、魔王が?!」
魔王が涼し気な顔で一歩前に出た。全員が驚愕で目を丸くする
「おや、不満ですか」
「ひわわわわわわっ!?」
魔王はマブダチだとでもいうようにチルハの腕にからみつき身を寄せた。
「ここからは、一人として攻撃を通しません。任せてください。貴方達は前だけを見なさい」
俺達に背中を預けろ。と言っているのだろう。俺達は、魔王のことを信用しきっているわけではない。しかし、能力だけは、その強さだけは身をもって知っている。
「その子に傷1つつけるなよ。その時点で俺達とお前は敵同士だ」
「心得ます」
そういって魔王は俺達から背中を向けた。
「み。みんな」
おずっとチルハが前にでた。相変わらず小動物のようだが、その顔は覚悟を決めている戦士の顔だった。
大事な友達を取り戻すことを一番に決めた少女だ。か弱いわけがない。
「ウチ、頑張るから。みんな、絶対死んだら駄目やから。生きて帰ろうな」
俺達はチルハの言葉に迷いなく頷いた。
背中を合わせた。ここからは別行動だが、俺達は1つのパーティだ。一心同体だ。
前と後ろどちらにも目がある最強の生き物だ。
俺達の士気を高め、生きる意味をくれる、いわば脳みそである天音。
あとは、桐生天音というパーツを手に入れれば、まさに俺達は最強の生き物になる。
脳みそを取り戻すため、俺達は逆方向に走り出した。
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