第85話 独りぼっちの友人を知る女⑤

「うっそマジ?!」


カレンのそんな声と共に背中がフっと軽くなる。


次の瞬間には、ターザンのように窓がガラスを破ってカレンが登場した。


「パイセンの丸焼きじゃん!!やっべー!」


口調は能天気だが、確かに顔に焦りが浮き出ている。触手を使ってフレアからアランと魔王をどかす。


「3人も敵がいる中にみすみす入ってくるとは度胸のあるレディだな」


いくつもの触手が切れていく。「マジじゃん」と呟いてカレンは窓から脱出する。

焦げかかっているフレアをきっちり抱えて。


「逃がしません」


魔王も即座に体制を切り替えて、裸にマントという割とヤバイ状態のまま窓の外に出て壁にひっつく。相変わらずすごい筋力だ。


「ひぇっ!?スパ*ダーマンかよ?!」


しかし、やはり両手が自由でありいくつも触手を出せるカレンの方が優勢だったらしい。


上から触手で魔王を下へ落とすように攻撃を仕掛けてくる。魔王は両手が塞がっているため抵抗ができない。

それでも上に登ろうとするが、とうとう、触手の衝撃で両手が壁から離れてしまう。


「やはりだめでしたか」


俺は慌てて窓に寄り手だけを巨大化する。


「……別にキャッチしなくても死にはしませんよ」


でも痛みは感じるんだろうが。

この女は他人のことを考えないく冷酷であるのと同じくらい自分に対して冷酷だ。


俺は魔王が乗った手のひらをそのまま城の中に入れた。


「屈辱です。取り逃がすだなんて。地面に落ちたら落ちたでそこからまた飛び上がればあの女に追いつけました」


「負けず嫌いだな…」


「あの無尽蔵にでる触手があんなに脅威だとは思いませんでした。急造とは言え転生者なだけありますね」


「待て魔王。何を取り逃がしたみたいな言い方をする」


「あの体制だともうここからは負えないでしょう。再びアイツらが体制を整える時間を作ることにはなりますが先を進みましょう」


「いーやまだいける。なぁストーンキャット」


なんとなく、その目を見てコイツのやりたい事はわかった。

クソ、いつしかの意趣返しか。


俺は、身体を手のリサイズまで縮めて魔王の手に収まる


「魔王、投球は得意か?」


「……あぁ、なるほど」


アランの言葉に合点が言ったらしく、魔王は俺を見つめて少しだけ口角をあげた。


それから軽やかに窓から身を乗り出す


「しつこっ!?また来る気?!」


最上階の窓枠に足をかけていたカレンは一度部屋の中身を確認してから俺達に触手を向ける。

その反応だと、恐らくその部屋に、守らなくてはいけない人間がいるのだろう。


「行きますよ。えーい」


魔王は俺をぶん投げた。気の抜ける掛け声とは裏腹に俺ですら思わず目をつむってしまう程の弾丸のような速さで。


「マジかよ!?」


自分にまっすぐ向かってくる弾丸のような俺を、多数の触手でなんとかキャッチする。


計画通りだ。


俺は巨大化して触手に捕まり、壁を破壊し拳を突き入れる形で張り付いた。


「次の相手はアンタってわけね」


俺を落とそうと触手で手のあたりを重点的に狙ってくる。しかし、外に出たことでどこまでも巨大になれる俺には無駄だった。

腕だけを巨大化しカレンをすばしっこく逃げ惑うカレンを捕まえようとする。

蚊を掴むような難易度ではあったが、相手は人間、体力は無尽蔵ではない。

しばらく追いかけっこをしている内に俺の拳の中に納まった。


「はぁ…ここまでか…ちょっとは王の役に立てたかな」


この少女は何故、ここまでして俺と戦うのだろうか。王に忠誠をつかう理由などあったりしたのだろうか。


「いや、この世界に生まれてさどうしたらいいのかわかんねーなって時に王に拾ってもらったからそれなりの恩は返すっつーのが筋かなって、それなりにここの仲間とも仲良くやってたし。……まさか天音が来るとは思ってなかったけど」


きっとコイツはコイツでこの第2の生をそれなりに楽しんでいたのか。それを守るために、こいつは戦っていたのか。

つくづく共通点が多すぎて、具合が悪くなりそうだ。


「天音の今カレ候補クン」


どんな呼び方だ。俺が勝手に片思いしてるだけなんだからその表現は悪いだろう。


「アンタ、天音をどうしたいの」


今までのお茶らけた態度とは違い、真剣に聞いているようだった。


俺は少し考えてから、親指で自分の口あたりを笑顔の口の形になぞった。


「…不本意だけどわかっちゃうな……アイツ、笑顔が魅力的なんだもんなぁ」


俺の拳の中のカレンは泣き笑いをするような表情を浮かべていた。


「アイツね、私のことなんて全然好きじゃなかったよ。自分の寂しさを埋めるためにOKしたんだ」


そんなことはない。

できることならそう伝えてやりたかった。


アイツはみんなが好きなんだ。お前の事だって好きだったさ。お前が求める好きとは違うだけだ。


「いいよ。わかってる。アタシじゃアイツの寂しさは埋められなかった。それが全て。」」


俺の拳の中でカレンは言った。


「でも、アンタなんかその寂しさを埋められる自信あるみたいじゃん」


俺はすぐには頷けなかった。自身があるかといわれたら頷けない。


ただ、俺はこれから国を敵に回すんだ。アイツの寂しさを埋めるためだけに。

即答する程の自信は無いが。覚悟だけは決まっている。


「応援はしないよ。私の楽しい転生生活を邪魔してきたんだから」


でも、俺は勝手に約束しよう。お前ができなかった事を成し遂げてみせると。

もう一度、お前が好きになったアイツの笑顔を取り戻すと

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