第84話 独りぼっちの友人を知る女④
「私も転生者なんで~悪いけどすぐやられはしないかなっ」
魔王はアラン達が捕らわれてる下の階へゴロゴロと落ちる
「びっくりした?天音の今カレ候補クン」
気づいたら俺の後ろにいた。俺はすぐに肘鉄を食らわせるが、カレンは触手で衝撃を和らげる。
「私の身体は貫けない。全身触手でできてるから」
そう笑った瞬間、両腕両足身体の先っぽから触手となり、階段を覆いつくす。まるでベルトコンベアのように触手の濁流に押し戻される。
こんな量を出せるだなんて聞いていない。
「いっやー魔王チャンが油断してくれてよかったーアンタに必要なのは愛とかいう不確定なモンじゃなくて慢心しない心って教えておきな!」
触手の海の奥からそんな声が聞こえる
俺は慌てて、階段の空間いっぱいに巨大化して触手の波をせき止める。これ以上後ろに行くと捕らわれているみんなを巻き込んでしまう。
「マジ~?これをせき止めんのかよ?バケモンじゃん!!」
しかし、俺はそこから一歩も動けなかった。少しでも足をあげたらバランスを崩してしまいそうだ。
いっそさらに巨大化して城ごと破壊しようか。
いや、仲間を巻き込むのが怖い。巨大化してできた隙に間から触手が伸びて仲間を襲うかもしれない。
すると、いつのまにか正面にフレア将校と呼ばれた男が立っていた。
「これで動きは封じれるようだな」
一瞬で辺りが炎に包まれる。しかし、その景色に突如魔王の飛び蹴りが入り込む。
フレアは壁に激突し、大きなヒビを作る。それと同時に炎は消えた。
「怪我は無いですか」
らしくない台詞だ。俺は触手を背中で受け止めながらも頷く。
しかし、次の瞬間、魔王のみがブアッっと炎上した。
「貴様も炎でダメージは受けぬようだが、燃え続けることど行動制限はできそうだ」
魔王は燃え続けている。ビリビリナイフの時と同じで、魔王の回復が間に合わないほどの連続攻撃には弱い。
フレアは魔王を燃えている様子を確認してからゆっくりと振り返る。その殺気に思わず身体が強張ってしまう
「さて、やり直しだ。石焼にしてやろう」
万能かよ炎。単純だがそれだけに手ごわい魔法だ。
どうする。今動くと触手が下の階に伸びる。とはいえ動かないと炎の餌食になる。
その時、フレアの顔が強張り、壁と反対側に転がって何らかの攻撃を避けるように回避をする。
しかし、避けきれなかったのか右肩から血を吹いた。
「どこだ!!!?」
恐らく利き手であっただろう腕が使えなくなったことを悟り男は吠える。その焦りに伴って魔王を燃やす炎も大きなものになる。
「アチッ!?」
その間抜けな声は聞き覚えのある頼もしい声だった。
「熱いじゃないか!思わず実体化してしまった…」
「貴様…先ほどカレンに拘束されていたのではないのか」
「そこの火だるまが先ほど一瞬で拘束を解いてくれたのだ。」
そう言ってアランは燃え続けている魔王を指さした。
先程カレンに吹っ飛ばされたあの一瞬で縄を解いたというのだろうか。
3人の中でも特に戦闘力が高いアランを解いてくれたのは好判断だ。
「遠距離攻撃型の魔法とは相性が悪いのだが、まぁいいだろう!!」
「全て燃やせば関係無い」
「いやパイセン!城燃やすのはヤベーでしょ!ウケる!」
「どうせ元に戻る。カレン。触手を出し続けてその怪物を足止めしていろ」
「あいよー!」
触手の圧が強くなる。足止めだけでなく俺を突き飛ばして援護することも考えているのだろう。
「ふっ、ストーンキャットが耐えられるようスピーディーに、トレビアンに終わらせて見せよう」
そう言ってアランの姿が消える。フレアは素早く回りを業火に包む。
「なるほど。この炎は術者本人にもダメージが行くのだな」
フレアの耳元でアランが囁いた。
フレアの傍に行くことで自分が炎に巻き込まれないようにしたのだろう
近接戦ならアランは最強だ。心臓のあたりにナイフをぶち込む。しかし、フレアはそれをそれを察し、ひらりと避ける。
「先ほどから心臓一点狙いか。透明なのに狙いがバレバレなのでは意味がないな」
「ふはは、どうだろうな。」
脚を切りつけたらしい、フレアが即座に血まみれの右足を庇う。
遠距離戦だとあまり活きないアランの魔法は、フレアが距離をとった途端一気に劣勢に回ってしまう。足を奪って距離をとられることを防いだのだろう。
しかし、その後ボッと一瞬で回りを炎で包んだ。
恐らく足を切った時に若干の隙間はできているだろうと予測しての事だ。
俺は大量の触手の重みに耐えながらアランを探す。
もちろん目で負うことなどできないため、炎に巻き込まれていないことを祈るしかないが。
しかし、フレアが再び攻撃をする気配は見せない。本当にやられたのか、と不安になる。いや、アイツはこんなところでやられるタマではない。
「助かりました。アラン。」
その瞬間。火だるまになっていたはずの魔王の声が聞こえた。
しかし、この炎の海の中ではどこにいるか判別がつかない。いや、それを利用したのか。
姿の見えない敵2人を前にフレアは全方位を警戒した体制を取る。
しかし、上空から現れた火だるまの魔王による、文字通り熱烈なハグにより、燃える。
周りを包む炎が幻覚であったかのように消えた時には、気絶したフレアを抱きしめる魔王の姿と焦げた臭いだけが蔓延していた。
「一件落着ですね。中々熱かったです」
「待て、お前服はどうした!!」
アランは珍しく取り乱して魔王から顔を逸らした。
煙が無くなり、魔王の服が焦げて全裸の状態であることを察し、俺も慌てて目をつむる。
なんてやつだ。羞恥心ゼロか。
「意外とそういうの気にするのですね」
「いいから羽織ってくれ……」
そう言ってアランはマントを差し出した。魔王は無言で受け取り面倒くさそうにそれを羽織って言った。
「臭いです」
「失礼な。焦げた臭いだ!!」
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