第88話 女神となった友人の信奉者②

「マ、マオちゃんってもしかして魔王のこと言ってるんスか…?」


ようやくでた言葉がそれか?

ヒートは警戒からか恐怖からか、怯えたように言う。


「はい!猫はまーおと泣くでしょう?あの子、猫みたいなので、魔王のマオと猫のまーおのダブルミーニンヅであります!我ながら気に入ってるあだ名であります!」


あの魔王がよくそんな呼び方許したな。

いや、許されなくても勝手に呼び続けていただけなのかもしれない。

だとしたらこの少女は魔王がわざわざ意見の対立を憚るほどの実力者というわけか。いや、間違いなくそうだ。人の魔法を奪う魔法だなんてなんでもありかよ


「ふっ、マオちゃんか。王都の騎士にしては随分仲が良いのだな」


「あれ?マオちゃんと行動を共にしているならとっくに王都と魔王が手を組んでいることの気づいていたと思っていたのであります!意外と愚図でありますね!」


笑顔で毒を吐いてから、焦点の合わない瞳でぐるぐると辺りを見回す。


「で、件のマオちゃんはいずこへ?」


人形のように首をかしげる


「さぁな」


「フレア将校とカレン将校が取り戻しに行く予定であったはずですが、まさか貴殿達が倒したとでも?」


礼儀正しい軍人のような口調と牧歌的な見た目の雰囲気とは違い、好戦的で毒舌な奴だ。


「あの石だるまは血がでないのであります。吾輩にはちと不利なんですが幸い使い捨ての兵士ならわんさかとおりますので」


「仲間じゃないんスか」


「戦友であります!」


元気にそう宣言したかと思えば。風が吹いてティッシュペーパーが飛ぶように一瞬で姿を消した。


「ヒート右後ろ!」


アランの声にヒートは素早く反応し、後ろに向かって我武者羅に短剣を振りかざした


「おっと、やはり2人いては厄介でありますね!!」


アイリスはそれを華麗に宙返りで避け、ありえない体制から、アランの目に向かって突き刺した


「ぐぁっっ!」


「アランさん!!」


先程足をやられたアランは逃げるすべもなく目を潰される。すかさずヒートが斬りかかるが、アイリスはニヤリと笑って透明になった。


「…1つ聞かせてほしいッス」


「この状況ででありますか?!あまりにも狂ってるでありますね!」


上下左右、様々な場所からステレオのようにアイリスの声が聞こえる。高速で移動しつつ話しているのだろう。


「貴方達は姐さんを女神と慕ってるようですが、いきなり来た女の子を何故女神扱いできるんスか」


「は?」


「いくら強い魔法を持ってたからと言って、魔王を倒したからと言って、いきなり神扱いできるわけないじゃないッスか」


「……あの方は正真正銘女神様であります」


気づいたらアイリスはヒートの背中に飛びつき、ナイフを首筋に当てていた。


「強く、優しく、美しく、例えただの器だとしてもあの人以上の適任はいないのであります」


その焦点の合わない瞳から血を呑むことに快楽見出す狂った少女かと思いきや、意外なことに、天音の信仰は強い様だった。


……いや、この目に心当たりがある。

魔王に洗脳された時と同じ目をしている。そうだ。魔王は洗脳の魔法を誰かに奪われた。この少女が現在その魔法を持っていないというなら、その魔法の在処は王以外ありえない。

誰よりも裏切りを恐れる魔王が洗脳の魔法をそうやすやすと他人に渡すわけがないからだ。


「次は吾輩からの質問であります。女神様を奪ってどうするつもりでありますか」


"答えによってはヒートを殺す"そういう風にもとれた。


「奪うも何も、俺達からアマネ姐さんを奪ったのはアンタ達じゃないッスか」


しかし、迷いなく答えたのは人質となっているヒートの方だった。


「貴殿、魔法が弱いと言う割に王都に結構長くいるという事はそれなりに地位のある家庭出身でありますね」


「だから何スか」


「王が自分のものだといえば王のものであります。貴殿は国民全員を敵に回す気でありますか?立場もあるでしょうに、たった一人の女のために全て捨てるでありますか?」


「たった一人の女のためなんかじゃないッス」


ヒートは首にナイフが突きつけられているにもかかわらず俯いた。皮にナイフが数ミリささりタラリと血が流れる


「天音姐さんがいないと、俺達みんなが寂しいッス!姐さん一人取り戻すだけで全員が幸せになれるんス」


「?!」


ヒートはその体制から後ろに頭突きを食らわせた。

驚いて一瞬口を開けた瞬間。ヒートは首から流れる血を指で掬い、アイリスの口の中に指を入れた。


「貴様っ!!?」


「魔王が普通の人間は多くの魔法を身体に入れることができないと聞いたッス」


アイリスは先ほどまでの遊びを楽しむような子供の表情が消え、子を奪われた親の獣のような顔をしていた。


「俺の取るに足らない魔法でも、血さえ摂取すれば抱えきれないのでは?」


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