第72話 懐かしい友人と炎の記憶
捕縛された俺達はそのまま城の外に連れ出された。
何かの魔法だろうか、三人とも完全に意識を失っている。ただ一人、ゴーレムの俺だけはどうにかこの状況を切り抜けられないか脳みそをフル回転させていた。
今、暴れだせば気絶している3人を巻き添えにすることになる。
しかし、どうやら俺は他の仲間とは別の場所に捕らえられるらしく、途中で他の3人は別の建物に入れられた。
願っても無い。好都合だ。
これで好きなだけ暴れられる。
3人が捕縛された場所を横目で確認して、ある程度離れたのを確認してから、俺は巨大化した。
「しまった!?」
王都の騎士達が慌てて臨戦態勢に移る。
俺は地面を殴り風圧で騎士達を転ばせる。
とりあえず、アラン達を取り戻そう。俺は連れてこられた道と逆方向に進もうとした。
王都の騎士が電気の魔法ようなものを放ち、行く先を阻む。
少し痺れるが俺にはほとんど効かない。
矢のようなものも、からみつく蔦も無意味だ。俺は全てを振り払う。
「化け物だ!!人員を増やせ!」
「攻撃が効かない!!」
王都の騎士達は狼狽える。俺は這い寄る小動物を蹴散らすように進む。
「やはり、暴れだしたか怪物め」
「フレア将校!!?」
正面から、他の騎士団員とは違う服装の男が現れた。
他の奴らの反応からして実力者であることがうかがえる。
俺は攻撃される前に拳で叩き潰そうと、大きく拳を振りかぶった。
フレア将校と呼ばれた男は勝ち気な顔で立ちはだかる。
「燃え尽きろ!!」
右手を翳して男が叫ぶと、ノータイムで俺は業火に包まれた。
明らかに他の人間と火力が違う。
熱い、しかし痛くはない。奴を倒しさえすればこの不快な熱さも消えるのだろう。
しかし、右を見ても炎、左を見ても炎、気が付いたら俺は周りから隔離されるように炎に包まれていた。
かき分けてもかき分けても炎は無くならない。まるで世界で一人だけ取り残されたみたいだ。
その時
どうしようもなく涙が流れてくるような感覚が胸に去来した。
この光景を、俺は見たことある気がした。
それを自覚した途端、頭が大きく揺さぶられたような衝撃が起きる。
思わず地面に倒れる。
ぐわんぐわんと鐘が鳴るように脳みそが揺さぶられる感覚と眩暈、そしてこの暑さにより、吐き気まで込み上げてくる。
熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、痛い、熱い、熱い、痛い、苦しい、怖い、寂しい、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、痛い、熱い、熱い、痛い、苦しい、怖い、悔しい、
俺の意識は不快な感情と共に暗転した。
――――――――――――――――――――――――
ジリリリリリリリリと耳を劈く音が響いていた。
目覚ましなんて呑気なものではない。火災報知器だ。
不安を煽る不快な音、明らかに身体に毒な不快な空気、身体を溶かすような不快な熱、見覚えのあるものが次々と炎に消えていく喪失感、
「ごめん、ごめん、俺のせいで、俺のせいで!お前が俺なんかと会わなければ…!」
そして、何より不快なのは俺自身の存在。
自責の念でどうにかなりそうだった。
しかし、この不快なものだらけの中、右手のぬくもりだけが、自我を保つ命綱のように俺の心を支えていた。
――どうしてこんな状況なのか頭がぼんやりとして思い出せない。なんなんだこの状況。
それなのに、目からは涙、口からは後悔の念が延々と出る。吐き出さないとどうにかなりそうだった。
そのとき、右手をより強く握られた。ぬくもりが、より近づいたような感覚がした。
「謝るなって轟介!」
真っ暗闇に一筋の光が刺すような懐かしい声だった。
そうだ。右手のぬくもりの先にいたのは、男の姿の、俺のよく知る桐生天音だった。
汗だくで明らかに無理している笑顔を見て、俺の目からは余計に涙があふれ出た。
そうだ、そうだ、思い出した。
―――これは、天音が頑なに隠していた、死に際の記憶だ。
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