第70話 馬鹿な友人に魅了された馬鹿達

「リトルキャット、ハニーの都合もだな……」


「知らん!!天音ちゃん、相手の気持ちは勝手に考えて身を引くなんて勿体ないって言ってくれたもん!」


チルハは我儘を言う子供のように叫んだ。


ヒートとアランはポカンとして顔を見合わせる。初めて見るチルハの姿に呆然としているのだろう。


「……そうッスよね。姐さんはそういう事、言う人だったッスね…」


ヒートは、力が抜けたような、呆気にとられた顔をしていた。


「チルハくん。ありがとう。俺も決心できたッス!!」


大きくハッキリとした声で、ヒートは宣言をした。


「俺を拾った責任。取ってもらわないとッスもん!誘っておいて、自分から逃げるなんてひどいッス!!ねぇ!アランさん!!」


ヒートの言葉にうんうんと頷いていたチルハもぎゅっと顔を引き締めアランの方を向いた。この中では最も最年長な人間であるアランは、この2人を見て「しかし…」と俯く。


「情熱だけで行っても追い返されるだけなのは目に見えている。そして、国民たちの信仰も既にかなり集まってきている。ハニーを俺達の元に戻すということはこの王都の騎士を敵に回すことになるかもしれないぞ。」


対魔王戦の時以上に、今回の敵は数が多い。

この世界から選りすぐりの騎士からさらに選ばれた強者達だ。

ましてや、今回はリーダーの天音がいない。まともにやりやっても勝てないだろうという理性的な判断をしている。正論だ。


しかし、2人の決意は固かった。


「そんぐらい何とかなるわ。だって、あのアマネちゃんが最強って言い張るゴースケくんがおるんやし」


「そもそも俺達元から王都の騎士からいい印象持たれて無いっスもんね」


「……あの様子を見るにハニーも覚悟を決めてやっていることだ。今ならまだ引き返せる。」


チルハとヒートは顔を見合わせる。


「俺はハニーも大事だが、君たちの命も大切なんだ。ハニーを取り戻せなくっても君たちの命が守られるなら…」


「俺は、死ぬなら後悔無く死にたいッス」


その曇りなきヒートの目に、アランは黙り込む。


「アランくん。お願いや。」

「アランさん…」


2人はアランに懇願する。そのウルウルとした上目遣いに、お人よしのアランが抗えるわけがなかった。


アランは暗い顔から一転。いつもの堂々とした笑顔に切り替わった。


「そうだな!!なんのためにこの格好をしてるんだって話だよな。国からハニーを盗み取るなんてトレビアンな犯行最高に燃えるじゃないか!!」


「え、その恰好趣味やないん?!」


「理由とかあったんスか?!」


「ふはははっ!!この格好はまさにハニーを盗む怪盗としてピッタリなものだろう!!いつかハニーを盗むためにこの格好をしていたのさ!」


「え、馬鹿やん」


「言うようになったなリトルキャット!!」


そういえば、コイツ、初めて現れた時も天音を怪盗がごとく攫っていったな。

その時のための衣装をずっと着まわしてるってことなのか?狂ってんのか?


アランのことを冷静で現実的な判断を下すやつだと認識していたため、今回の天音奪還も一番渋るだろうし、断られるかもしれないと予想していたが、こんな格好の人間が冷静なわけがない。


俺達全員、桐生天音という馬鹿に魅了された馬鹿なんだ。


「ありがと。ゴースケくん。一緒に天音ちゃん助けにいこな」


チルハが腕の中の俺を撫でた。


「都合のええ解釈やけど、アマネちゃん、もしかしたらゴースケくんにウチらを守って欲しくて置いてったんかなぁ」


……そうかもしれない。


俺にはまだ役目があるとでも言いたかったのか、はたまた、本気で俺が魔王についていきたいという勘違いを続けていたならば、自分を倒して魔王に認めてもらえとでも言いたかったのか…後者の方があり得そうな気がしてきた。


泣いた赤鬼かよ。俺が一番嫌いな絵本じゃねぇか。

俺達は、自分の価値もわからない、友達の価値もわからない愚かな鬼じゃない。俺は天音が大事だし、天音が俺がいなくなったら悲しむこともわかっている。


……いや、わかっていなかった。


俺は、一瞬でも、天音への恋心を隠すためだけに、この仲間を捨てることを考えてしまっていた。まだ償い終わっていないのに、こんなにこのパーティのみんなが好きなのに。


俺は、今度こそ全員無傷で取り返す。天音の本心を聴かなくちゃいけない。


それまでは、この恋心も奥深くにしまっておこう。


今日の夜はいつもの数倍明るい夜だった。みんなが自分の国に降り立った女神とやらの存在を喜び会っていた。


俺達はこれからその喜びを奪う。その喜びを返してもらう。


俺達は4人、透明になって城の正面に立っていた。


迷いはない。全員がしっかりと地に足をつけ、まっすぐに城の最上階を見据えていた。

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