第65話 掴めない友人はあっさり答えを決めてしまった
その日の朝ごはんの雰囲気は微妙なものだった。
とはいえ、天音はいつも通りみんなと楽しく盛り上がっている。
しかし、俺には一切話しかけなかった。そりゃそうだ。俺の心を読まない限り会話はできないから。
なんとかして、一刻も早く誤解を解かなくては。
とは言ったものの、うかつに天音に触れれば俺の天音への気持ちもバレてしまう。今まで通りでいられなくなってしまうのは困る。それでも今誤解させている状況よりは…
「ゴースケくん今日元気ない?」
俺がぐるぐると考え込んでいる間に、人間組の食事は終わっていたらしい。気づいたら天音も姿を消していた。
「わかった。天音ちゃんが第5区に行って問題起こさないか心配なんやろ」
ニヒヒとチルハにしては珍しい得意げな顔でそんな事を言ってきた。すごく的外れなところを含めてチルハらしいとも言えなくも無いが。
「まぁアラン君がおるから平気やろうけど、天音ちゃん、行動力がありすぎて突拍子もない行動に出るからなぁ」
全くだ。まさに俺も突拍子も無い勘違いに悩まされているところだ。
そうか。そういえば今日は天音はアランと共に子供たちの護衛と第5区の様子を見に行くと言っていった。
いつもなら迷わず俺を連れていくが、今日は知らない間に出発していたらしい。
「珍しいッスよね姐さんがゴースケさん置いてくなんて…ハッ!!まさかアランさんと密会?!」
「密会の意味調べた方がええよ?」
ヒートがバカ丸出しの発言をしながら会話に入ったきた。
しかし、ヒートの言う通り、天音は自分から出かける時は必ず俺を連れてっていた。
「し、心配ならウチらも言ってみる?」
そういえば、チルハは未だにたびたびアランに対して対抗心を燃やしている時がある。こう見えて独占欲が強いタイプだ。そして、この目は天音の様子が気になっている目だな。
そのチルハの一言により俺はチルハとヒートを連れて第5区に向かうことになった。
幸いこの2人は、前から王都の有名人だったアランや問題児の天音と違い、比較的おとなしく過ごしていたため、王都の騎士もあまり認識していないだろう。
俺が小さくさえなっていれば絡まれることは無いはずだ。
「あ!!姐さんいたッス!!!」
声がデカいヒートの口を2人で手で塞ぎ、慌てて木陰に隠れた。
天音はどうやら誰かと話しているようだ。
チルハが双眼鏡を錬成する。
「あれ、アランくんとしゃべっとるのかと思ったけどちゃうな…」
誰やろ?とクエスチョンマークをたくさん浮かべながらチルハは首をかしげる。
「っていうか透明にならないと王都の騎士団に見つかるんじゃ…」
「アラン君たち一緒やないんかな…?」
俺達に多数の疑問が浮かびまくってる時。
俺達が隠れていた草むらの奥から人間が飛び込んだような音と土埃が舞った。
魔物かと思い構えるが、どこにも姿は見えないし魔物の気配も無い。
「?!アランさんっスか?!」
思わずデカい声を出すヒートの口を2人で塞いだ。すると、俺達から10m程離れたところからうっすらとアランとウーサーとエリスの3人が現れた。
「ストーンキャット達…!何をしてるんだ?こんなところで」
そう言いながらアランは子供たちと手を繋いでこちらへ寄ってきた。
「こっちの台詞ッスよ!!なんで姐さん一人なんスか?どういう状況?!」
「落ち着け青年。俺もわからないんだ。この状況」
アランは珍しく狼狽えている。何があったのだろう。
「天音の奴が急に俺達から手を離して自分だけ透明化を解いたんだよ。できるだけ遠くに逃げるか隠れるかしてとか言って」
ウーサーがいかにも不可解そうに言う。
「じゃあ、エリスちゃんとウーサーくんは俺とチルハ君で守るんで2人は姐さん様子見てきてもらっていいッスか?」
「そうだな。それがいい。」
俺も同意し、アランの肩に手を置いた。
天音が気づいた。ということは、何かよからぬ事を考えている男だったのだろうか。
……その作戦には聞き覚えがある。確か最初に光の勇者を探すときに、言っていた
『じゃあ、あれ!今からこの街を爆破するぞ~って頭の中でいっぱい考えてればいいんじゃね?接触してきたやつは高確率で光の勇者ってやつ』
もし、王都の騎士がその作戦を使ってきたら……
顔がサァっと青くなる。
俺はアランを肩に乗せ、天音の元に向かう。
「どうしたストーンキャット、あんまり騒ぐのはトレビアンではないな。ハニーの話し相手にも存在がバレてしまうぞ」
アランに小声で諭されて、少し落ち着く。
深呼吸してからすり足で天音達に近づく。
会話は思っていたよりも和やかで明るいものだった。天音もケラケラと笑っている。
「ハニーは何故俺達を逃がしたんだ?昔の知り合いにでもあったのだろうか」
天音は2年前に転生していたというその可能性は無くも無いが、聞いた限りだとほとんど人間と関わりを持って過ごしていないような感じがする。
2年間暮らしているにしては、この世界の常識もあまり詳しくはなさそうだったし
「もう少し近くで聞いてみようか」
俺は縮み声が聞こえるところまできた。
「へぇ~じゃあ俺が光の勇者だってもうバレてるんだ」
いきなり衝撃発言が飛び込んできた。俺は恐る恐る、初耳であるはずのアランの顔色を窺った。
「どういうことだ?ハニーが…光の勇者…?」
残念ながら仮面で表情はよくわからないが、明らかに呆然としている。
「魔王は我々でトドメをさしました。貴方のおかげです。」
天音と話している相手は、どうやら王都の騎士だったらしい。
今まで見た王都の騎士はどいつもこいつも上から目線で見下したように喋るのに対してその男はやたら丁寧に天音に接しているようだった。
「そういうわけで、貴方を王が祝福したいと言っております。そして王側近の魔法使いとして迎え入れたいとも」
「側近?」
「貴方が少し魔法を使えるだけで王の力になれるのです。待遇も悪くないどころか王都の騎士より断然いいでしょう」
「マジで?!」
天音はあからさまに目を輝かせる。さすがに天音に王の側近なんて務まるわけないだろうが大丈夫だろうか。
「あ、じゃあ俺のパーティのメンバーはどうなんの?」
「さすがにその人たちの生活の保障までは…」
王都の騎士が申し訳なさそうに言った。使えるやつだけ王の元に置きたいというわけか。
「ふーん」
あの仲間思いの天音がそんなものに賛成するわけがない。今回も快刀乱麻を断つが如くNOを叩きつけて終わりだろう。
アランもそうだと信じきった表情をしている。
王都の騎士団が逆上して攻撃しても大丈夫なように、短剣を取り出してすらいた。
しかし、天音の答えは俺達の予想を大きく裏切るものであった。
「いいよ。王の側近になってあげる」
そのあまりにもあっさりとした答えは、突如胸に刃を立てられたような衝撃だった。
冗談であってくれと願ってすらしまう。
それでも天音の真剣さと緊張が感じられる笑顔で、それが本気だとわからせられてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます