第66話 らしくない友人は見知らぬ人の手をとった

「いや~今の生活マジきつくってさぁ!逃げるように生活すんのも、明日死ぬかもしれないのも疲れちゃった!!」


「おや、意外ですね。貴方は自由を愛する方だと思っていたのですが」


「う~ん、まぁそりゃ自由が好きだけど、自由と安寧だったら今は安寧を選ぶかなー!」


天音の発する言葉は、俺達が生きていた、平和な前世から来たものの意見としては当然である。

しかし、これまでの生活を全否定する言葉に、大きなショックを受けた。喉の奥に突如指を突っ込まれたような不快感と驚愕だった。


俺とアランは、目の前で起こっている信じがたい事象をただ呆然と見ることしかできなかった。


「王の側近って何やんの?王の世話?こう見えて世話好きだから任せてよ」


「いえ、貴方はそんな雑用やらなくて結構ですよ。下手したら王より好待遇かもしれません」


「あっは!何それ~神にでもなれってこと?」


「……」


「まぁいいや!…で。行くなら今すぐに行こうぜ。アイツらに見つかったら厄介だし。詳しい話はそこでしよ」


「……それもそうですね。王の側近を傷つけるような真似は致しませんのでご安心いただいて結構ですが」


「俺がいなくなったアイツらほぼ無力だから。もう放っておいて大丈夫だよ」


天音から出るとは思えない言葉の数々だった。


王都の騎士は天音をエスコートしようと手を差し出す。

すると。天音は俺達のいる方向へ振り返った。


視線があった時、気まずい、これ以上天音から言葉を聴きたくない、怖い、と様々な感情がごちゃ混ぜになり、石にされたように動けなくなった。


天音は、特に手を振るでも笑いかけるでもなく、無表情で踵を返し、

王都の騎士の手をとった。


俺はそれを止めることも、手を伸ばすこともできなかった。


力を認められ、祝福され、たくさん愛をもらい幸せに暮らす。

それこそが俺が天音に過ごしてほしい未来だから。


俺達と一緒に傷だらけになるより、王の側近として愛された方がきっと幸せだから。


少なくとも、あの疲れた笑みをすることは二度となくなるのだろう


そう思うと、止めようだなんて思う方が残酷なことに感じた。


俺達の誰か一人でも天音に「いかないで」と言えば、きっと従来の天音ならば、留まってしまう。

いとも簡単に幸せと安寧の生活を手放してしまう。


そんな残酷なことが出来るわけがなかった。


天音は王都の騎士と共に、第5区から出ていった。その迷いのない歩みは、俺達と決別したものとしか思えなかった。


「……ストーンキャット…これは夢か?」


天音達が完全に去っても、俺達は天音がいた場所から目を離すことができなかった。


「ハニーは光の勇者で、王の側近にスカウトされて、何も言わずに去って行って…」


あぁ、とても現実には思えない事実の羅列だ。


この後、「やっぱめんどいからいいや」とか言ってUターンしてきそうな気がする、夕飯には、ケロっとした顔で「ただいまー」なんて言って帰ってきそうな気がする、

明日の朝には「遅くなったわ~朝帰りしちゃった」と笑っていそうな気がする。


そんな俺達の希望を多分に含んだ予想と反して、天音は帰ってこなかった。

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