第64話 突飛な友人と会話ができない

天音と俺は幼馴染であった。


小学1年生の頃、俺のマンションに引っ越してきた天音は、周りに友達もいなかったのか、親にかまってもらえなかったのか、あるいはその両方か、マンションに併設された公園をベランダからぼんやり眺めていることが多かった。


幼いころからインドア派だった俺は、家にいることが多く、たまにベランダに出るといるその小学一年生らしからぬ過ごし方をする男の子が気になって仕方なかった。


確か、「おやつを一緒に食べよう」とかそんなくだらない口実で天音とベランダの柵ごしに交流するようになった。


大人しく暗いと思っていた男の子が思ったよりもグイグイくる明るいやつだと知って驚いたのをよく覚えている。

それからは、俺と天音は毎日のようにベランダで交流し、学校も一緒に登下校するようになった。しかし、仲良くなってしばらくなってからのの会話がこれだった。


「え?!お前俺の事女だと思ってたんじゃないの?!」


「なんでだよ。どっからどうみても男だろお前」


「だって、わざわざ俺に話しかけるなんて下心があるぐらいじゃないと説明つかないし…」


「そんなことなくない?」


思えば、この頃の天音は割とネガティブだった。そして突飛な発想をするやつだった。

その一年後には今の馬鹿みたいにポジティブな性格になっていたが、突飛な発想するところだけはずっと変わらなかったし、つるむ連中が陽キャになってからも、そのおもしろさからお馬鹿キャラとしてかわいがられていた。



そして、転生してもその謎の思考回路は健在だったらしい。


「お前、魔王の事が気になるんだろ?」


何がどうやったらこんな言葉がでてくるのかわからない。俺は怒りか失望か呆然と立ち尽くすことしかできなかった。


「大丈夫。心は読んでないけどわかる。いや~アイツ性格は最悪だけどかわいいもんな~」


わかってねーよ。今こそ心読めよ


「だって、お前が一人ぼっちのアイツを放っておけるわけないもんな」


……以前も言っていた。


天音が過剰に俺のその部分を信頼するのはあの日の出会いがあったからだろうか。俺はそんな大層な人間ではない。


魔王のことだって……


いや、ここだけの話。

あの日の「いかないで」が頭にこびりついて離れない。

洗脳の一種かと思っていたが天音がそういう考えに陥っているのなら、自分が思っている以上に魔王の処遇がどうなったか気になっていたのだろう。


このように、俺は心の中で色々と考えるが、天音は特に反応を見せなかった。


「あ、心は読んでないから安心して!人に恋心とか見られるの嫌だもんな!!」


馬鹿野郎!!!!!!会話できないだろうが!!!!!!!


いや、でも心を読まれたくないのは、確かだ。よかったとはとても思えないが……


「……本当は、魔王についていきたかったんだろ」


んなわけないだろ


「世界を敵に回すだろうし、その道は地獄だろうけど、お前なら協力してもいいよ。お前がいない人生なんてつまんねぇし、魔王に洗脳されて利用されるかもしれないし……」


なんでコイツこんなバカなんだ。


ゴーレムじゃなかったらぶんなぐって会話を強制終了してた。心を読まれるわけにはいかないが。


とにかく俺は首を振りまくる


「お前優しいな。俺達に責任を感じてくれてるんだろ?」


つ、伝わんねぇ…!!でも心を読まれても困る…!四面楚歌だ!!


俺は首を振り続ける。


「俺に振り回されるの疲れるでしょ。俺はもう一人じゃないし、心配しなくても大丈夫だよ。あの鬼畜魔王によりそってあげたら?」


これは、もしかして、遠回しに捨てられているのか?俺は。


「あ~でも、本当に魔王についていきたいなら。黙って消えないでよ寂しいから!」


そもそもそんな予定は無い話を聴け!!俺は天音の腕を思わず掴みそうなるが、すぐに冷静になり、出した手をひっこめた


「いいよ。読まないから!シャイなんだか無理すんなって」


お前だって隠し事ぐらいあっただろうが。俺なんかよりもよっぽど重大なやつが


あぁ、こんなに会話ができないことを疎ましく思ったのは初めてだ。

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