第63話 頓珍漢な友人は振り返る
「おはよっゴースケ!!!!」
天音がいつものようにあいさつ代わりに背中を叩く…が今日はかわした。
「なんだよう~!!」
なんでもねぇよ。ほら、そこでボーっとしてるヒートにでも挨拶してこい。かまってくれるぞ
「犬扱いかよ。いいも~ん。ヒート!!」
そう言って天音はスキップするようにヒートの方に向かっていった。「おっはよ~!」とやたら弾んだ挨拶とバチンッという挨拶にしては痛そうな音が聞こえてきた。
俺は安堵の息を吐く。
天音に触れられてうっかり心を読まれでもしたらたまったものではない。
――なぜなら俺は天音が好きなのかもしれないから。
兵頭轟介脳内会議
「今まで苦手だった友人が女になって優しくしてくれるだけで好きになっちゃうとか、いくらなんでもそれはチンコに正直すぎないか?」
嫌な言い方をするな、ひねくれものの俺!!!!最もだ!!!
「どういうところが好きなの?お前いつもアイツのこと馬鹿だーとか能天気だーとかコキ下ろしてただろ」
そういえばそうだった。アイツと深くかかわってたのはガキの頃だったしその時は俺がアイツの兄みたいだったと言う自負がある。その時の癖かもしれない
でも最近そういう馬鹿で能天気なところもありがたいというか…なんというか…
脳内の俺達は顔を見合わせて頷いた。
まずい。このままだと天音のことを好きになってしまう。
「天音が男でも愛せる?」
わからない。
正直今の見た目はめちゃくちゃ好みであり、それがかなりのプラス要素になっていることは否めない。
しかし、こうして一緒に旅をして天音を深く知っていくにつれ、苦手意識が消え、好感度が増した。その効果はデカい。
「こんな敵わなくてどうしようもない恋捨てないとヤバいぞアイツ心読めるんだから」
「天音が俺の心読んでショックを受けるのが一番不本意だな」
「でも天音から離れたらアイツらのこと守れないよー」
「離れた方が天音は悲しむだろ、天音にわかか?」
「いや友人だと思ってたやつに性欲向けられてる方がキモいんじゃ……」
「ごーーすけっ!!!!」
俺の脳内会議は元凶によって爆破された。
まさに事件は会議室ではなく現場で起きているという刑事ドラマのセリフが身に染みる。
「また避けた…何新しい遊び?」
そういうことにしてくれ。俺は今お前からのスキンシップを避ける遊びにハマっているんだ。
「何それウケる~!!」
天音がバカで良かったと初めて思った。
いや、これからも俺が挙動不審な動きをしたら天音に怪しまれ、心を読まれる可能性が高い。絶対に隠し通さなくては。
「え?!ゴースケ俺に隠し事してんの?!」
……今のは俺がバカだった。
「……」
天音は明らかにショックを受けている。魂が抜けたような呆然とした顔で俺を見つめる。
これは心を読んでいるときの目だと気づき、俺は縮んで天音の視界から逃れる。
「あ~ごめんごめん、お前が何隠してるのかまでは読めなかったから安心して!」
この態度ならマジで読めていなそうだ。俺はホッと胸をなでおろした。
「……まぁでも実は大体察しついてるよ」
次の言葉で絶望の淵に落とされた。
俺ってそんなにわかりやすかったのだろうか。ゴーレムなんだから表情なんてわかんないだろうし。いや、もしかしたら
「あんま聞かれたくないだろうし、ちょっと川の方行こうか!」
その明らかに造り物の笑顔が脅迫のようにも見えて、俺は頷かざるを得なかった。
どうしよう。天音にこの気持ちがバレたら。
下手したら俺はパーティを解雇されてしまうかもしれない。誰だってそんな事考えてる奴パーティにいれたくはないもんな
俺は最悪な答えを100パターン程考えながら天音についていく。
川が勢いよく流れる音だけが聞こえる場所につく。
天音がくるりと振り返った。
実は、俺は天音が振り返る仕草が好きだった事に今になって気づいた。
長い金髪が天音の動きに合わせて舞い、今まで見えなかった表情が露わになり、それが笑顔だった時の安心感が好きだった。
しかし、今はそんな安心感よりも恐怖の方が勝ってしまった。
「この間の魔王を倒しにいった時からずっと気づいてたよ」
天音は魔王城がある方を見つめながら話始めた。
緊張であがっていく鼓動が、気まずい空間で鳴り響く時計の秒針のように聞こえる。
しかし、その次に発した天音の言葉は、俺の予想の斜めを行く言葉であった。
「お前、魔王の事が気になってるんだろ!」
――天音の馬鹿さ加減を改めて実感した
なんだ。そのセンチメンタルな、してやったり顔は。なんで自信満々なんだよ。心を読める奴の推理がそれでいいわけないだろ。おい。
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