第62話 きっとそんな気はない友人について考える

魔王との闘いの時は状況が状況であったこと、天音の隠していた新事実が多すぎて処理が追いつかなかったこともあり、そんなこと思いもよらなかったが、時間が経ち、思考が整理できるようになってそんな考えが頻繁にチラつくようになってしまった。


数ある知り合いの中から俺を生き返らせることを2つ返事で決め、俺が転生するまでの2年間の時は俺を探すことと待つことに使い、ことあるごとに俺を誉め、からかい、俺の一言で照れる時もある…………


かくして、兵頭轟介脳内会議が開催された。


「最低最悪厚顔無恥、思い上がりもいいところだな。そういうところが陰キャ童貞なんだよ」


ネガティブな俺が言う


「アイツは俺をからかってるんだ。美少女になったら童貞をからかってみたいという思いがあったと前に言っていたのを忘れたのか?」


確かに、以前そんなことを言っていた。アイツは最大限今の状況を楽しむタイプの人間だ。性別が変わったら変わったで男の時できなかった事をやって楽しんでいるのだろう。


「ちょっと、甘やかして誉めてくれるからって自分に好意があると思うなんて、マジ陰キャだな。陽キャは誰にでもあんな感じだろ」


卑屈な俺が言う


「そもそもアイツ元から誰にでも好き好き言うしパーソナルスペースが異常に狭いタイプの人間だろ。全人類が俺みたいに初対面の人間と話すとキョドるわけじゃないんだぞ」


そうだ。アイツは俺と違って素直で好意を隠さない。ヒートにだって抱き着くし、アランのことをからかうこともあるし、チルハとしょっちゅうスキンシップをしている。友愛と恋愛の差がつきにくいタイプであることが理由で彼女に振られたこともあるとも話していた。


「そもそも、天音は男だ。彼女もいたぐらいだから性的嗜好は間違いなくヘテロだろ。お前なんて眼中にもないだろう」


真面目な俺が言う。

そうだ。天音は姿こそ女になったものの精神は男のままだ。街中で美少女を見かけた時目で追っているのを見たことある。


……脳内会議ってもっと喜怒哀楽に即した個性豊かな自分がでてくるイメージだったが、さっきから似たような奴しかでてこなくない?もっと違う意見がほしいんだが


「そういえば天音、死に際の事を頑なに隠すよな?なんか後ろめたいことがあったんじゃないのか?」


俺に何かしてしまってそれを償いたくて優しくしてくれてる…というわけか!それならまさに俺もパーティに対してしているので、気持ちがわかるし、天音が俺なんかにも優しい説明がつく


「でもさ~、普通、そういう後ろめたい思いがある人間をわざわざ生き返らせる?俺だったら好きなアイドルとか死んだじいちゃんとか呼び出すね!」


やっと、賛成派の俺がでてきた。これはお茶目な部分の俺だ。


「嫌、死んだじいちゃんと冒険したくないだろ。死んだ知り合いが俺しかいなかったんじゃないのか?」


卑屈な俺に秒で論破されたていた。


「でも、さすがに、性的対象として見てない奴に好意を向けられたら困るだろうし、全くそういう気持ちの無い人間をからかったりするだろうか…」


童貞の俺が少し気持ちの悪いことを言っている。


「お前忘れたのか?アイツ馬鹿だぞ。そんなところまで考えてるわけないだろ」


「っていうかお前今の自分の姿鏡で見たことあるか?ゴーレムだぞ??」


童貞の俺の意見は木っ端みじんに論破された。天音が仮に男を好きなタイプの嗜好だったとしても、さすがにゴーレムを性的対象として見るとはとても思えない。


本気で天音の気持ちがわからない。


王都の騎士団の目的や魔王の目的よりも今はアイツがわからない。


何を考えているんだ天音…俺をからかっているのか天音…

俺にやたらスキンシップをとったり抱きついて来たり、期待をこめてくれたり、助けてくれたり、ほめてくれたり、照れたり、笑ったり……


脳内で天音の記憶をかき集め、脳内の俺が全員と頭を抱え始めた時、


「ね~っていうかさ」


今まで黙っていた、客観的な俺が頬杖をつきながら言った。



「それってむしろ、俺が天音の事好きなんじゃないの?」



え?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る